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とぼけたS級冒険者と悪役令嬢   作者: 佐倉真稀
第一章 逃亡

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第1話 邂逅

 目の前に飛び込んできた、大きな魔獣とそれを吹き飛ばした男。

 巻き添えに吹き飛んだ、私を襲撃した者たち。

 それが彼と私の邂逅だった。


 無精ひげを顎に散らした黒髪の男。

 前髪が目を覆って表情もわからない。

 見えてるのかしら。


「よお、姉ちゃん。騒がせてすまんな」


 血だらけの剣を肩に置き、私を見下ろす男。

「で、巻き添えになったあいつらだが、護衛か何かか?」

 巨大な魔獣にひき潰された黒装束の男たちを目線で男が指す。

「いいえ。私を襲った暗殺者よ。生きていれば私が止めを刺すわ」

「ヒュゥ。かっこいいねえ。じゃあ、ちょっと手伝ってくれないか? あの大きさは解体するのがちと面倒なんだわ」

「いいわよ。かわりと言っては何だけど、最寄りの街まで護衛を引き受けてくれるかしら?」

「いいぜ。交渉成立だな」

 男が頷いて、掲げていた剣を一振りして血を吹き飛ばした。

 男の髪に隠れている目が私から外れて横倒しになった馬車、森の木々の合間で遠巻きにこちらを見ている数頭の馬、こと切れた護衛の騎士を順繰りに見た、気がした。

「あれ? 俺少し早まったかァ」

「私はちゃんと暗殺者と言っていたのだけど?」

「そういえばそうだった。他の魔物がやってこないうちに始末しようかね」

 頭を片手で無造作に搔き乱して、倒した魔獣に向かっていった。

「その魔獣、私は見たことがないのだけど、なんて魔獣なの?」

「んー、多分、キマイラかな。ギルドの依頼書に書いてあったからな」

「そう。キマイラね。少し待って。着替えてくるわ」

「おう」

 こちらも見ずに小山のような大きい魔獣の死骸にとりついた彼から視線を外して、私は倒れて壊れた馬車の中に入った。


 天井になった扉から入った私はふうっと息を吐き、震える体を叱咤して腕のブレスレット状の収納から革の防具やブーツ、腰までの上着と金属を編み込んだ鎧下、革のズボンを出す。

 着ていたドレスからそれに着替えた。

 長い金髪を編み上げてポニーテールにする。一部だけメッシュのような赤い髪が目に入った。

 ドレスと馬車にあった少ない荷物も収納する。

 剣帯を取り出して、腰に巻く。

 それには小さなポーチが取り付けてあって、中に小さな革袋に入ったお金とポーションが入っている。これも魔道具で、魔導収納と呼ばれるものだ。

 形状は様々で、カバンやポーチ、背負い袋などがある。

 素材や作った者の能力によって収納できる物の大きさや量が決まり、大きい物が入れられるほど、高価だ。


 私が身につけているこのブレスレットは家一軒分の収納量があって、時間停止効果付きだ。ブレスレット状の魔道収納は見たことがない。

 これは私が作った物だ。

 私は膨大な魔力と全属性の魔法適性がある、賢者の職業を持つ転生者だ。

 地球という星の日本という国に生まれ、普通の家庭に育った女性の記憶を持っている。

 そしてこの世界が私に優しくないのも知っている。

 何せ私は悪役令嬢、ディアベイル・リアーガーン。

 ヒロインたる聖女を苦しめ、国に追放された身の上であるからだ。


新作です。


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