月読(つきよみ)の技術と「資源(リソース)」の抽出
(……この現場、地盤だけじゃねえ。資材の質もバラバラだ。だが、俺の中に眠る『月読族のアーカイブ』が、この瓦礫の山を『最高の建材』だと、そしてこの呪われた泥を『生命のブースター』だとスキャンしてやがる)
俺の中に流れる月読族の血が、絶望的なキビの荒野を、未開発の「巨大なプラットフォーム」として描き出していた。
月読族――土地を持たず、技術と管理を専門に担ってきた彼らには、世界の「理」を透視する独自のプロトコルがある。
俺はまず、荒野に転がっていた巨大な安山岩の前に立った。
石の「呼吸」を読む。表面の亀裂、結晶の方向――それらを**『グリッド線が投影された設計図面』**のようにスキャンし、石の「筋」の急所に正確に楔を叩き込んだ。
「パキィィン!」
高く、澄み渡る物理層の干渉音が響き、巨大な岩は設計図(仕様)通りに、見事な直線を描いて二つに割れた。
「……っ!」
同時に右腕の古傷を焼くような鈍痛が走り、視界が歪む。
脆弱なハードウェアに対し、前世の現場監督としての理性が、限界を超えたオーバークロックを強いている代償だ。
「此れは、神の業か?」
巨石が真っ二つになる姿を見て 一人の民が、震える声で零す。
だが、俺は彼らの戦慄を冷徹に受け流し、次なるアクションへと移行した。
「石だけでは、腹は膨らまない。……ミツ、例の『清め』の工程を開始するぞ」
俺は、民たちが「大地を殺す呪い」と忌み嫌っていた、白くひび割れた塩害の泥を掬い上げた。
兄たちが「不毛」だと匙を投げたこの塩分は、月読族に伝わる「『清め』の知恵」を用いれば、デバッグ(洗浄)可能なリソースに変わる。
俺は石工技術で急造した多層ろ過装置に泥水を投入した。
安山岩の粉末と細粒の砂を積層させ、物理的な「ノイズ(不純物)」を分離していく。
さらに、ミツが予測した潮の引き際、湿度の低い刻限を狙って、その高濃度な濾液を煮詰めていく。
やがて、土鍋の底に、雪のように輝く結晶が姿を現した。キビのどす黒い泥から抽出された「純白の塩」だ。
「……泥の中から、光が……」
一人の老人が、恐る恐るその結晶を口に含んだ。
次の瞬間、彼の瞳に劇的な上書き(オーバーライド)が起きた。
激しい労働で失われていたミネラルが細胞の隅々まで行き渡り、死んでいたマインドに強烈な電力が走る。
「美味い……力が、湧いてくる……!」
彼らにとって死の象徴だった塩が、俺の手によって「自分たちを生かす糧」へと書き換えられたのだ。
「驚くのはまだ早い。これは、この地を再開発するための最小限の資材だ」
俺は彼らの『理解を超えた理への戦酔』を、システムへの心酔へと変換すべく、鋭い指示を飛ばした。
俺は直ちに現場を複数の「班」に分けた。第一班は側溝の掘削、第二班は石材の搬送、第三班は精製した塩による食料の管理だ。
「勾配は一パーセント。百歩進んで一歩下がる傾斜を絶対に維持しろ。……水の意志を、俺たちが『再設計』するんだ」
ミツは俺の傍らで静かに目を閉じ、『ツクヨミ暦』による工程管理を同期させていた。
天候という不確定要素を「変数」へと変える、彼女の精密なマネジメントが現場を支える。
夕闇が迫る頃、俺たちが掘り進めた溝へ、滞留していた黒い水が吸い込まれるように流れ出した。
「動いた……水が、走っている!」
泥だらけの男たちが、初めて自らの力で環境を書き換えた瞬間の咆哮を上げた。
俺は、泥だらけの右手を強く握りしめた。
「ミツ、大丈夫だ。……泥の中に、黄金の稲穂が見える。俺には、それが見えるんだ」
凄惨な腐敗臭の向こう側に、俺は確かに竣工後の景色を視ていた。惨めで孤独な二人の、逆転の「新規着工」が、今、吉備の泥の中に確かな一歩として刻まれた。
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