Grand King⑩ 2/3
「まだ魔芽の段階だね」
「あぁ、だね。やっとく?ヨリ」
レストラン店内の空中に突如現れた蠢く黒い物体を見ながらカイトが同席しているパーカーの青年に問う。
「今、やっとかない面倒でしょ。もう既に魔胎への変質活動始まってるし」
カイトに「ヨリ」と呼ばれた白いパーカーの青年はカイトに返答しながらスッと立ち上がる。
「いってらしゃーい」
カイトに身送られヨリはテーブルから離れた。
「ど・・・どどっ・・・どうすれば!?」
「まずはお客様の安全の確保だ!お客様方ぁ!申し訳ありませんが一度お食事を中断して外に避難して頂けないでしょうかぁ!!」
黒い物体を前にして店内の人々は既に混乱していた。
皿が割れる音で異変に気づき、腰を抜かした女性ウェイトレスに駆け寄ったチーフらしき男性ウェイトレスが来客者達に避難を呼びかけている。
「ヴァレーさんとリロさんで支えて矢吹さんを安全な所へ!皆さんはお客様の避難誘導をお願いします!」
異変に気づき駆け寄ってきたウェイトレス達にチーフらしき男性が指示を出しながらスマートリングを起動させた。
「その必要は無いよ」
チーフらしき男性がスマートリングのウィンドウを操作しようとした所で、ヨリがその行動を止めた。
「お客様早く避難を・・・!」
「ほいっ」
ヨリはスマートリングを起動させ、ある電子証明書をチーフへ提示した。
【エリアA皇崎学園部在任中
S+ランク魔子調士】
ヨリが提示した証明書にはそう記されていた。
「あっ・・・アルモニーの方なんですね?」
「あぁ、そのままでいてくれる?」
一方、テーブル席から事の展開を見物しているカイトに女性のウェイトレスが駆け寄り声をかける。
「お客様、店内は現在危ない状況なのでお早めに避難を・・・」
「大丈夫ですよ、彼ならすぐに"終わらせられます"」
「?」
動かないようにチーフらしきウェイトレスに指示したヨリは、そのまま腰元のポシェットから片手に収まるサイズの剣のグリップらしき物を抜き出し握ると、それは形状の如くグリップの柄の部分から魔子で形成された刃が形成され『魔子探剣』へと変体した。
ヨリは魔子探剣を黒い物体が浮いている地点の前方の床に突き刺した。
突き刺した瞬間、魔子の刃が床に入り込むのと同時に床上に半径2メートルの『魔法陣』が刻まれ。
次の瞬間、『魔法陣』から天井付近に向かって赤い光の柱が出現した。
真上にいた黒い物体はそのまま赤い光の柱に包まれた。
そして、「シュンッ」という音と共に魔法陣から上方に射出された光の柱が消えると、黒い物体も跡形もなく消えた。
「ね、終わったでしょ」
「す・・・凄い・・・・・・」
信じられないという顔をしながらカイトに避難を呼び掛けた女性ウェイトレスは立ち尽くしている。
「も・・・申し訳ございません・・・!プライベートにも関わらずお手を煩わせてしまって・・・!本当に・・・!」
チーフらしき男性はヨリに向かって頭を下げ感謝の意を伝える。
「別にいいよ。本当はこのまま調査の為に店の営業を止めて貰わなきゃいけないんだけど・・・」
「はい、謹んで応じます」
「今回は無しでいいや。見回した感じもう空気中の魔子の以上反応は起きてないみたいだからね」
「そ・・・それで大丈夫なん・・・ですか?」
「この証に免じて、俺が保証するよ。それに・・・」
「それに?」
「早く店自慢のガトーショコラ、食べたいんだ」
「はい!すぐにお持ち致します!!」
チーフらしき男性はヨリの注文を力強く了承した後、耳に付けている小さい機械のボタンを押しながら
「秋野さん清掃お願いします」
と誰かに指示を送る様な独り言を呟くと、続けてもう一個別のボタンを押した。
すると、男性の目の前にスピーカーマークのアイコンが現れた。
「お客様にお知らせします。只今、店内の安全が確認されました。只今、店内の安全が確認されました」
チーフらしき男性が発した言葉が店内中と店の外回りまでスピーカーマークのアイコンから放出する形で伝播する。
「あっ!は・・・はい!只今!」
一方、カイトの席の前で立ち尽くしていた女性店員が我に帰り、黒い物体が出現した場所の近くで床に無残に散らばった食べ物と割れた皿の近くまで早歩きで向かうと、その床に落ちている皿に女性のウェイトレスが手を触れた。
その触れた刹那、手元がキラキラと光のエフェクトが現れると、瞬きをする間もなく散らばっていた筈の食事と割れた皿が完全に元通りに戻った。
元に戻った皿を持ち、女性ウェイトレスは裏のキッチンへと戻った。
「え・・・は・・・はや・・・・・・」
一瞬で割れた皿が完璧に修復される瞬間を目撃したカイトは驚きのあまり、ヨリが戻るまで茫然としていた。
ヨリも人生で初めて見る修復スピードに驚いたあまり、5秒間立ち尽くした。




