セラvsウスキ
戦士、あるいは剣士 対 魔法使い。
この二者の対人戦の様相は、どれも似たり寄ったりである。
簡単に言えば、こうだ。
魔法使いがまず魔法を浴びせる。
剣士がそれを打ち破るか、あるいは破れないか――それで勝敗が決まる。
ウスキ 対 セラの戦いも、例外ではなかった。
「フルゴル!」
ウスキの手から稲妻が放たれる。
セラは詠唱を耳にした瞬間、魔法の種類を見抜き、すでに対策を終えていた。
――パチッ!
稲妻は進路を誘導しやすい。セラのレイピアは正確にそれを引き寄せた。
――パササ…。
セラの魔力に包まれた剣が、吸収した雷を拡散させる。
「ふふ…久しぶりね、この感じ」
外見に似合う無邪気な笑みを浮かべるウスキ。
「さっさと満足して終わりにしてくれない?…まだ恥ずかしいんだから」
正体を暴かれたショックが薄れると同時に、セラは呆れるほどしつこく羞恥に苛まれていた。
レイピアを持つ手の位置も、妙に腹の前。
そして何より――魔法を破った後、距離を詰めるべきなのに、セラは力なくその場に立ち尽くしていた。
「やはり余裕そうね」
ウスキは面白くなさそうに目を細める。
探り合いとはいえ、自分の攻撃に一切の危機感を見せない態度が気に入らなかった。
「シカ・ヴェントゥス」
「風の刃か。属性強化魔法だね」
詠唱を聞くや否や見抜くセラ。
――シュッ、シュッ、シュッ!
風を巻き起こす〈ヴェントゥス〉に、刃の鋭さを与える〈シカ〉を合わせた連続の風刃が放たれる。
目に見えぬ風が刃となって襲い来るこの魔法は、対処法を知らねば一方的に切り刻まれるだけだ。
だが、セラは落ち着き払っていた。
「エイブと対処訓練は済ませてるんだよ」
同じC級の魔法使いである兄が、練習相手だったのだ。
セラの視線が遠くを見るように焦点をぼかす。
視覚を抑え、他の感覚を研ぎ澄ますためだった。
――チン! チン! チン!
セラの感覚は風刃を正確に捉え、全て剣で弾き返す。
「このくらいなら――満足…!」
――バチッ!
「きゃっ!」
余裕の口調でウスキに話しかけようとした瞬間、再び雷撃が飛び込み、セラの身体を貫いた。
「腹を隠したいなら、ずっと隠しておけばよろしいのに」
風刃を一発残した状態で詠唱し、その音を風に吸わせて隠していたのだ。
「うぅっ…全力出しすぎじゃない!?」
床に倒れ込んだセラはすぐに起き上がり、不満をぶつける。
「本気なら雷にこだわったりしないわ」
可愛いものを見るような目で返すウスキ。
実際、セラはかなり年下で、彼女の目には可愛らしく映っていた。
「かなりビリっときたんだけど!?」
セラは大袈裟に痛がる。
ランクが上がるほど雷への耐性が高まるが、完全ではない。
「イグニス」
――フッ!
ウスキの手の上に炎の魔法が灯る。
「さあ、立ちなさい。こんな機会、無駄にはしたくありませんから」
小ぶりながら込められた魔力は侮れない。
座ったままでいれば撃つ、という無言の脅しだ。
「ひぃ~、まだジンジンしてるんだけど…」
しかしセラは座り込んだまま、情けない顔をしている。
「……」
子どもが駄々をこねるようなその姿を、ウスキは何かを測るような眼差しで黙って見つめ――
――ポン!
軽い爆発音とともに炎弾が放たれた。
「おいおい!相手はもうやる気なくしてんじゃん!」
「容赦ねぇな…」
「やっぱウスキさん、噂通りの悪魔だな」
観客のざわめきの中、炎弾は迷いなくセラの位置へ――
――ドガン!
土煙が舞い上がる。魔法の威力以上に、視界を覆う土埃が広がった。
満足げに笑みを浮かべ、ウスキは土埃を集めるように手を動かす。
その動きに呼応するかのように、土埃は彼女の背後へと吸い寄せられた。
「スタティオ」
形態固定魔法。集まった土埃が、時間が止まったかのように固まる。
――チン!
刹那、金属が鳴る。
「ちっ…もう気付いていたのね。さすが“天才”と呼ばれた少女だわ、スキちゃん」
「違うわよ。セラの芝居が下手なだけ」
「くっ…人をイラつかせる口の悪さも一級品か!」
「…事実でしょう」
小声での呟きは、セラの耳には届かなかった。
わざと滞空時間の長いジャンプをしたセラを、ウスキは不思議そうに見上げながらも、本能的に魔法の準備を整えていた。
「フルゴ……」
「久しぶりに本気でムカつかせてくれたんだし、面白いものを見せてあげる!」
怒ったと言いながらも、むしろ声色は一段と楽しげだ。
セラは宙で姿勢を整えた。
右手に握ったレイピアを手のひらごと返し、腕を折りたたんで柄が右肩に触れるようにぴたりと据える。
左手は剣先の方へ添え、まるで剣身より大きな筒を支えるように空中で固定。
顔は柄に頬を寄せるように右へ傾け、右目の視線と剣先の方向を水平に合わせた。
「バザール流秘伝剣術、第四章・三式」
その構えは、まるで茂みに伏せて獲物が通り過ぎるのを息を潜めて待つ狙撃手のようだった。
「……ル」
ウスキの詠唱が終わり、手元から稲妻が迸る。
「――弾丸!」
セラの肩からまっすぐ前へレイピアが突き出された。
――タン!
右手と、何かを支えているかのような左手が重なった瞬間、まるで銃を撃ったかのような破裂音が響く。
――チヂヂッ!
レイピアの形をした魔力の弾丸が稲妻を裂き、
――パアン!
土埃を固めて作られた盾に直撃した。
「!」
ウスキの表情が驚きに固まる。
幸いにも、魔力の弾丸は盾に穴を開けると同時に霧散した。
「きゃは! 惜しいなぁ。でも次の一発は覚悟しておいた方がいいよ!」
上半身の構えを保ったまま、セラは地面に着地。
右膝を地面につき、左膝を立てて左肘を支える姿勢で座り込む。
「そんな間抜け面してたら、本当に貫いちゃう……ん?」
ウスキは驚いたまま、微動だにしなかった。
そこでようやく違和感に気づくセラ。
「――チェックメイト」
――パシン!
「きゃっ!」
後頭部に爽快な衝撃が走り、短い一合が終わった。
「まさか……精神干渉魔法!? いつの間に!」
セラが本物と偽物のウスキを交互に見やりながら叫ぶ。
土埃の中のウスキは精神干渉魔法によって見せられた幻影だった。
「精神干渉魔法には二種類ある。一つは見るだけで無意識にかかってしまう催眠魔法。もう一つは対象に直接かけて文字通り精神を操る洗脳魔法。さっき雷を当てた時、セラの体に残っていた私の魔力で洗脳魔法をかけたのよ」
土埃が視界を塞いでいたおかげで観客は何も見られなかったが、もしそうでなければ――セラが誰もいない方向へ弾丸を放ち、叫んでいる滑稽な姿を目撃していただろう。
「うぅ……何それ。戦闘センスの次元が違うじゃない」
セラは諦めたようにぼやいた。
「終わったのか? 土埃で全然見えなかったぞ」
「二人とも何してたんだ? 勝ったのはどっちだ?」
「ケンサマが膝をついてるから、ウスキさんの勝ちだろ?」
土埃が晴れ、セラとウスキの姿が露わになると、観客たちがざわめいた。
「はーい、静かに」
審判役の警備隊長が近づき、場を収める。
「結果はウスキ嬢の勝利です。配当金はさっさと分けて、早く部屋に戻って休め。明朝の点呼に一人でも遅れたら、全員グラウンド百周だぞ」
「おい聞いたか! 金寄こせ!」
「ちぇっ……残りの金全部賭けたのに。今週は絶食か」
「勝ったやつはさっさと金持ってけ! 明日遅刻してグラウンド走らせたら打っ飛ばすからな!」
訓練された警備兵らしく、騒がしくも妙に秩序だったまま、あっという間に人波は引いていった。
「お疲れさま、セラ。おかげで楽しかったわ」
ウスキは本当に晴れやかに笑って、セラの隣にちょこんと腰を下ろした。
「え? まだ私と話すつもり? マサカオウガを追わなくていいの?」
セラは不思議そうに問いかける。
「まだセラにあげた時間が残ってるから」
「うーん……その時から今までで、もう二十五分くらいは経ってると思うけど?」
戦い自体は短かったが、場所移動や観客が陣取るのを待ったことで、ウスキがくれた二十分はとうに過ぎていた。
「だからね、セ・ラ・にあげた時間は、まだ十五分も残ってるの。その間にお互い本音で話そうか――セラ・バザールサマ?」
「あ、はは……そ、そうね」
セラはぎこちなく笑って頷き、それからもう一度尋ねた。
「じゃあ、マサカオウガは本当に放っておくの?」
「……うふふ。そんなつもりはないわ。もう手は打ってある」
ウスキは陰険に笑った。
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「はぁっ…はぁっ…はぁっ!」
私は息も絶え絶えになるまで、ただひたすらに走り続けた。
衛兵隊長室を飛び出してから、おおよそ三十分。
セラの計算どおりなら、今ごろ宿に着いているはずだったが、私はまだ街をさまよっていた。
「ほら! どこへ行くつもりだ! 通りたきゃ金を置いてけ!」
「ああもう! お願いだから放っておいてくれ!」
冒険者らしき連中がどこからともなく飛び出してきて、ずっと私の行く手を阻んでくるせいだった。




