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第34話 男の適当鍋

 河童は家庭菜園の一角にキュウリのを植えている礼なのか、時々魚を持って来る。

 一体何処で捕まえているのか謎なんだが、こいつら人類に知られていない地下水の存在とか平気で知ってそうだから、考えないようにしている。

 何処かに行ってる様子も無いから、この山の地下に誰にも知られていない湖があって、、、なんて事もあるのかもしれない。


『そんな所だろうな』


「あ、やっぱり?」


 あやかしってのは人知を超えた存在だから、真面目に考えるだけ無駄だ。

 その存在を、“そういうもんだよね”と楽な気持ちで受け入れる方が、精神衛生上余程良い。


 さて、俺がどうしてこんな事を考えているかと言えば、河童がニジマスを持って来たからだ。

 しかも六十センチ以上はある、随分と立派なやつを。


 イワナとかヤマメとか、その辺なら囲炉裏で塩焼きにして食えば良いんだが、このニジマスを串焼きにするのは、流石にちょっとどうなのだろうか。

 仕方が無いので、今年の目標が“もう少し真面目にスローライフをする”の俺はニジマスを使って料理をする事にした。


 今回俺が挑戦するのは鍋だ。

 鍋なんてのは、材料をぶち込んで味噌で味を付ければ旨くなる最強料理である。

 異論は認める。


「そんな訳だから味噌味で良いか?」


『構わんぞ』


 化け狐も味噌は好きだからな。

 俺は日本人で坊主やってて、味噌嫌いだったら終わってるので言わずもがなである。

 馬鹿息子は子供の頃、味噌が嫌いだったんだよな。


 今思うと、あいつよく克服して坊主になったよな。

 克服出来てなかったら修行期間で詰んでただろ、あれ。


 今はアレルギーとか言えば回避出来るのかもしれんが、基本出されたもんは全部食えの精神だからな。

 食った後の食器にお茶注いで飲むまでがセットだからな。

 しかも沢庵を一枚残しておいて、お茶と沢庵で器を洗ってだな、、、。

 修行の事は思い出したくないから、もう良いか。


 とにかく料理だ。

 まあ、料理と呼べるのかもわからん適当鍋だが。


 まずはニジマスの下処理からだな。

 河童が持って来る川魚は基本ぬめりがあるので、塩で揉んでぬめりをとる。

 ある程度ぬめりがなくなったら、尻尾から頭の方向に向けて金タワシで擦って鱗を取る。

 ニジマスを鱗ごと鍋にぶち込む勇気は流石に無いぜ。


 鱗が取れたら肛門からハサミを入れて顎の下まで切る。

 魚の下処理は包丁よりハサミの方が楽って見たから、買ったんだよ。

 後は腹を開いて、一気に下顎と内臓を。


「取れないな」


 今までの魚と違って、でかいから適当にやったら下顎を引き剥がせなかった。

 よし、ニジマスの傷が増えようともハサミでチョキチョキして取っちまおう。

 顎の辺りが見るも無残な状態になったが、誰かに見せる訳でも無いから別に良いだろう。


『我は見るぞ?』


 別に良いだろう。


 エラも引き千切るのは苦労しそうだったので、包丁を入れて取ってやる。

 血合いにも包丁を入れたら、流水で綺麗に洗って下処理は完了。

 三枚に下ろしてブツ切りにしたら酒で臭みを取っておく。


「えーと、鍋に入れられる食材は、、、」


 今の家庭菜園で育ててるのはブロッコリー、白菜、小松菜、ほうれん草とキュウリ。


「全部だな」


 大体適当に肉か魚と野菜をぶち込んで、味噌を投入すれば旨くなるのが鍋だ。

 勝利は確約されているので、全部ぶち込む。


 白菜はざく切り。

 小松菜とほうれん草もざく切り。

 ブロッコリーは、、、ブロッコリーって味噌味の鍋に入れるか?

 まあ茎だけ切ってそのままでいいか。

 キュウリはあれだな。

 ちょっと危険な香りがするから簡単に取り除ける様に三等分にしておこう。


 鍋に水と顆粒出汁とニジマスのアラを入れて、囲炉裏で火にかけ、沸騰直前に野菜を投入。

 野菜に十分火が通ったら、ニジマスの身をぶち込んで煮る。

 ニジマスにも火が通ったら、味噌、酒、みりん、醤油を入れて完成だ。


『中々旨そうな匂いではないか』


「そうだろうそうだろう」


 味噌味って時点で勝ち確の鍋だからな。

 本気で不安要素がキュウリとブロッコリーぐらいしかない。

 俺と化け狐の分を深皿によそって、五子には野菜だけよそってやる。

 勿論キュウリは入れていない。


 早速とばかりに化け狐が勝ち確の鍋を食らい。


『微妙だな』


 首を傾げながら、あまりにも有り得ない感想を漏らした。


「いやいや、お前ね。

 鍋ってのは味噌で味をつけた時点で勝ち以外無いんだよ」


 なかなか味噌味の鍋で微妙ってのは聞かない。

 俺は確信を持って、ニジマスの身を口に入れ。


「微妙だな」


 化け狐と全く同じ感想を持った。

 あれ?味噌って雑に使っても必ず旨くなる最強の調味料じゃないのか?


「美味しいね!」


 五子は絶対に旨いって言ってくれるからな。


『赤味噌を入れてみたらどうだ?』


「おう、そうだな。味噌が足らないんだろう」


 化け狐とああだこうだ言いながら最強調味料の味噌で味を整え。

 鍋が旨いと言える水準に達したのは殆んどの具材を食べ尽した頃だった。


 因みにキュウリは、どうやっても微妙だったので河童が食った。

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