第28話 除夜の鐘
「おい五子!次は雪だるま作ろうぜ!」
「うん!」
年の瀬。
雪の降る真冬の寒さでも、子供達は元気に雪遊びをしている。
いや、片方は年齢不詳の雪女だし、片方は年齢不詳の座敷童だから子供って表現が正しいのかはわからんが。
少なくとも雪女の方は、見た目にも子供には見えないから、正しくないのだろうが。
寺の年末は忙しい。
年末はお煤払いで本堂の大掃除があるし、年明けの初詣で訪れる参拝客向けに御守りなんかの準備を進めなければならない。
本当はメールかメッセージで済ませたいんだが、年賀はがきでやりとりをする家もあるので、そちらの準備も必要だ。
そんな面倒事を一つもしなくて良いのだから、山暮らしってのは気楽で中々に良い物だ。
馬鹿息子から手伝いに来いってメッセージが鬼の様に入っていたが、いつ本物の鬼が訪ねて来るかも分からないのに、比喩の鬼に構っている時間など無い。
頑張れよ、とだけメッセージを送ったら鳴らなくなったので、諦めたか死んだかのどちらかだろう。
今年は年末もゆっくりと過ごせていて、スローライフを満喫している。
本当に何もしていない気さえするな。
『怠け過ぎだぞ。少しは体を動かさんと衰える一方だぞ』
「六十にもなりゃ動いても衰える一方だよ。
ボディビルとか始めた爺さん婆さんなら、トレーニング前より仕上がるかもしれないがけどな」
体を鍛える為にブートキャンプとかやるか?
いやいや、あんなしんどそうなの冗談じゃないわ。
俺のスローライフには必要無い。
「今年も俺は煩悩が一つもなかったから、除夜の鐘は必要無さそうだな」
『どの口が言っている。煩悩塗れの生臭坊主が』
煩悩塗れねぇ。
そもそも煩悩ってのは心身の欲望、他者への怒り、生への執着。
もっと広い解釈も出来るが、俺は生臭だからそんな感じで理解している。
それを理解した上で、今年の俺を振り返ってみると。
「無煩悩だったな。少煩悩すら無かっただろう。
究極完全体僧侶だっただろう。間違いなく」
『お主、だったら酒に対する執着は止めるのか?』
「知らんのか?酒は命の水なんだよ。
飲まなきゃ死んじまうんだ」
酒は百薬の長とも言うしな。
酒ってすげぇな、万能薬じゃん。
『屁理屈をこねおって。少しは自愛しろと言っているのだ』
「おう、考えとく」
『少しは体を動かして長生きしろ』
「おう、考えとく」
『今年もあれはやるのか?』
「折角だからやるかね」
空になった化け狐のグラスに酒を注いで、カツンと軽くグラスを合わせた。
何もせずに、ゆったりと。
まったりとした時間が流れていく。
夜になり、雪女と五子が何時までも外で遊んでいて。
一子達は最近覚えたプロレスごっこをして遊んでいる。
家鳴はバンバンと屋敷を叩き始めて。
外が寒いのか河童もキュウリを抱えて屋敷の中に入って来た。
少し騒がしいぐらいだが、こういう賑やかな年の瀬も悪くない。
「お前らそろそろ家に入れ。ゆく年くる年ごっこやるぞ」
スマホで除夜の鐘を流しながら。
経を唱えて新年を迎えた。
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