第1話 生臭坊主は定年退職したい
「おう馬鹿息子。俺は六十五になったら定年退職するかんな」
「おうクソ親父。住職に定年退職って概念はねぇぞ!この生臭坊主!」
今日も何故だか息子とああだこうだと言い合いになってしまったが。
俺、後藤永海の意志は固い。
今日で漸く六十歳のバースデーを迎えた訳で。
あと五年経ったら俺は住職を引退して山に引き籠る予定だ。
そもそもの話だが。
息子は俺の事を生臭坊主なんて言葉で形容するが、俺が生臭坊主だなんてとんでもない。
俺は馬鹿息子と違って早朝から境内の掃除をしているし。
本堂での読経も欠かした事はない。
通夜も告別式も時々しかボケない。
正しく品行方正が服を着て歩いている様な住職だ。
ただちょっとばかし寝起きの白湯から酒の匂いがしたり。
淹れた緑茶から酒の匂いがしたり。
僧衣の袖にウイスキーのミニボトルが仕込んであったり。
トイレに行くふりをしてこっそりとエネルギーチャージしたり。
綺麗なお姉ちゃんのいる店に通ったり。
綺麗なお姉ちゃんをしつこいぐらいに口説いたり。
綺麗なお姉ちゃんにセクハラしたり。
綺麗なお姉ちゃんから強烈なビンタを食らってキャバクラの床にキスしたり。
年下の坊主を連れ回して遊び歩いたり。
年下の坊主とお姉ちゃんを集めて婚活パーティーを主催したり。
同年代の坊主と峠を攻めたり。
同年代の坊主と峠を攻め過ぎて免停を食らったり。
時々賽銭から小遣いを貰ったり。
これまでの人生を何度思い返しても俺が生臭坊主だなんて言われる謂われはないな。
寧ろ修行僧の様な清貧な生活を送ってるとさえ思えてしまう。
俺よりも酷い生臭坊主みのある生臭坊主が周りにい過ぎるからな。
あの有名な観光地になってるでかい寺の住職とか。
綺麗なお姉ちゃんとの合コン実況とかナイトプールでハメを外してる動画がグループチャットで流れてくるからな。
「らっしゃーせー。どーぞご利用くださいませー」
参拝者に対してこんなにも真面目に来寺の挨拶をする住職が未だかつて存在しただろうか?
少なくとも俺は知らない。
「おいクソ親父。
住職が山門の前に立ってコンビニの深夜バイトみたいな挨拶してんじゃねぇ。
入って来る人らが全員渋い顔になってるじゃねぇか」
「ああ、庭に生ってる柿が渋かったんだってな。
さっきそんな事を話ながら入っていったぜ」
「んな訳あるか!
ちょっと邪魔だから本堂の掃除でもしといてくれる!?」
「なんだようるせぇなぁ。
わかったわかった。
俺がくすんだブロンズ像をまるで生きているかの様に蘇らせてやろう」
「仏像をブロンズ像呼ばわりしてんじゃねぇ!
さっさと本堂に下がりやがれ!」
全く、親を生臭坊主呼ばわりして指図までするとは息子も偉くなったもんだぜ。
『お主が生臭坊主なのは紛れも無い事実だろう』
「心の声を読むんじゃねぇよ。
酒、飲むか?」
『頂くとしよう』
なにも俺は自分で酒を飲みたいが為にウイスキーを持ち歩いてる訳ではないんだがなぁ。
あいつには俺の苦労はわからんだろう。
2月1日よりしばらくの間は作品を非公開とします。
続きはアルファポリスで最終話まで公開していますので是非そちらをご覧下さいませ。
キャラ文芸大賞の投票もよろしくお願いします。




