第八十七話 戦慄の真相
私たちは父上の後について、部屋の外へ出た。
扉をくぐって顔を上げた瞬間、そこに見覚えのある顔を見つけた。
老執事のドワインだった。
私は驚いて目を見開いた。
相変わらず厳しい表情をしていたものの、私の姿を見た瞬間だけは、ほんのわずかに微笑み、静かに頷いてくれた。
私も、ずっと会いたかった。
家を離れてから、まだ三か月も経っていない。
それなのに、こうして再びドワインの姿を見ると、まるでずっと長い間離れていたように感じられた。
けれど今は、再会を喜んでいる場合ではない。
父上はドワインを呼び寄せると、すぐに命じた。
「ドワイン。これからリリロットの世話は、主にお前が担当しろ。必要な人手については、レシュオンに用意させる。それと、赤子の方は、ユーナに任せる」
父上がユーナの名を口にしたことで、私は初めて周囲を見回した。
すると、少し離れたところに彼女も立っていた。
ユーナの目が合った瞬間、喜びを隠しきれない表情を浮かべた。
今がこのような状況でなければ、次の瞬間にはこちらへ駆け寄って、私を抱きしめていたのではないかとさえ思う。
本当に、久しぶりだった。
レシュオン閣下は腕の中にいた赤ちゃんを、もう一度白い柔らかな布で丁寧に包み直した。
そして、その小さな身体を慎重にユーナへ預ける。
ユーナは赤ちゃんをしっかりと抱きかかえると、すぐにレシュオン閣下へ一礼した。
「領主様、どうかご安心ください!私の務めにかけて、この坊ちゃまには決して傷一つ負わせません。全力を尽くしてお世話いたします」
レシュオン閣下は、静かに頷いた。
ユーナは赤ちゃんを抱いたまま、一歩後ろへ下がった。
父上はそれを確認すると、こちらへ振り返り、私とレシュオン閣下へついてくるよう促した。
出発する前、レシュオン閣下はもう一度、屋敷の執事や使用人たちへ向き直った。
それぞれ自分の役目を守り、ドワインとユーナの指示へ全面的に従うよう、いくつかの命令を伝えた。
それから足早に、私たちへ追いついた。
私たちは、そのまま屋敷の最上階へ向かった。
そこもまた、私が今まで一度も足を踏み入れたことのない場所だった。
以前、誰かから聞いたことがある。
この階は主に、レシュオン閣下が私的な事務を処理するために使っており、特別な用事でもない限り、誰であっても勝手に入ることは許されていないらしい。
けれど私は、密かに周囲の装飾へ目を向けた。
見たところ、下の階より特別豪華というわけでもない。
私たちは長い廊下を進み、ついにはその最奥まで辿り着いた。
しかし、父上もレシュオン閣下も足を止めようとしない。
私は少し不思議に思った。
目の前には、もう道などない。
いったい、どこへ行くつもりなのだろう。
レシュオン閣下は、突き当たりにある一見何の変哲もない壁の前まで進んだ。
そして、決まった順番があるらしく、壁を指先で数回軽く叩いた。
続いて左手を上げ、壁面の上をゆっくりとなぞる。
すると、信じられないことが起きた。
固いはずの壁が、まるで柔らかな蝋を切り開くかのように、音もなく左右へ分かれていったのだ。
その奥から、一本の隠された通路が姿を現した。
この壁は、幻術だったのか?
私は驚きながら、父上の後を追って中へ入った。
そして通路へ足を踏み入れて初めて、一見固い壁の内側に、無数の細かな紋様が張り巡らされていることへ気づいた。
私にはまったく読めない文字。
記号。
魔法印。
それらが何重にも重なり合い、一つの極めて複雑な術式を形作っている。
レシュオン閣下は、私の驚いた顔に気づいたらしい。
左手を伸ばし、私の肩へ軽く置いた。
「そういえば、この隠し壁の術式には、昔、君の母上が残した魔法も使われている」
「母上が?」
私は思わず聞き返した。
母上は、封印術を得意とする魔法師だったはずだ。
こんなふうに空間そのものを隠す術まで使えたのだろうか。
さらに奥へ進んでいくと、周囲の明かりは急速に消えていった。
文字通り、目の前に手を出しても見えないほど暗い。
父上とレシュオン閣下の身体から漏れるわずかな光を頼りにして、ようやく二人の位置を見失わずに済むほどだった。
父上は二本の指を伸ばし、小さな光球を一つ作り出した。
光球はゆっくりと私たち三人の中央まで浮かび上がり、暗い空間を淡く照らした。
そこで父上は懐から一通の書簡を取り出した。
封を開き、広げてからレシュオン閣下へ差し出す。
「これは数か月前、私がリリロットへ送った手紙だ。私の手元にも、内容がまったく同じ写しを残してある。リリロットはすでに読んでいたはずだが、貴殿はまだ内容を知らないだろう」
父上はレシュオン閣下を真っ直ぐ見つめた。
「今こそ、貴殿にも話す時だ」
レシュオン閣下は手紙を受け取り、光球の明かりの下で、ゆっくりと読み始めた。
一行。
また一行。
文字を追うたび、その顔は次第に険しくなっていく。
そして最後まで読み終えると、ようやく顔を上げた。
「つまり……」
「あなたは最初から、光明教派の人間が私の屋敷へ紛れ込んでいることをご存じだったのですか?」
「そうだ」
父上の声には、迷いがなかった。
「この内容は主星ルミナス星に潜ませている私の情報員から、秘密裏に届いた報告だ。光明教派の間者が屋敷へ入り込んだ時期は、ちょうどリリロットが身籠った後だった。出産へ備え、彼女の世話をするために、新しい使用人をまとめて雇い入れた時期と一致している」
レシュオン閣下の顔色が、目に見えて悪くなった。
父上は続けた。
「ルシアが暗殺された時から、私はすでに嫌な予感を抱いていた。あの時の刺客は、カルロ宗家の婦女子まで完全に殺し尽くすことには失敗した。ならば光明教派が、そのまま諦めるはずがない」
「別の方法を使い、残ったカルロ家の力を少しずつ削いでいく。たとえ主星から遠く離れたカルロ分家であろうと、見逃すとは思えなかった」
レシュオン閣下はしばらく沈黙した。
やがて、低い声で尋ねる。
「ですが、パドリグス閣下。もし奴らの本当の目的が、内部からカルロ分家の力を崩すことだったのであれば、なぜわざわざ毒などという手段を?それに……なぜ、リリロットだったのですか?」
父上は静かに彼を見た。
「派手に動けば、それだけ自分たちの計画を壊すことになるからだ。貴殿は、この状況でもヴィスカルロ城で高い声望を持つ領主だ。直接貴殿を襲えば、成功しようと失敗しようと、街全体が大きく揺れる。そうなれば、光明教派の者たちがいずれ貴殿に代わり、ソル星の統治を掌握しようとしても、相当な時間が必要になる」
父上の声は、さらに低くなった。
「それに比べれば、リリロットは狙いやすい。カルロ家の血を引いているうえ、ちょうど身籠っていた。身重なら行動は制限され、襲われても抵抗しにくい。そして腹の中の子供も、同じようにカルロ家の血を継いでいる」
「母子をまとめて死なせることができれば、一度に二世代分の血を削ることができる」
そこまで言った時、父上の目に、押し殺した怒りがはっきりと浮かんだ。
「あの連中は、昔から婦女子を優先して標的にする、こういう手口は、奴らのやり方として何も不自然ではない」
私はそばで、黙って話を聞いていた。
父上も。
レシュオン閣下も。
今は二人とも、同じような怒りを身体の奥へ押し込めているように見えた。
レシュオン閣下は拳を固く握りしめた。
「ですが、毒はあれほど深く隠されていた。今日になるまで、私たちは本当の原因に気づくことさえできませんでした。リリロットも数か月前から、時々身体の調子が悪いとは口にしていましたが……そのたびに、大したことはないと言っていた」
その声は、次第に小さくなっていった。
「ここまでの事態になった以上、責任は私にあります。もしパドリグス閣下のお助けがなければ、我が子も妻も……」
レシュオン閣下は、恥じるように顔を伏せた。
しかし父上は、ただ手を伸ばし、その肩を軽く叩いた。
「違う」
レシュオン閣下が、再び顔を上げる。
父上は彼を見つめ、一言ずつ告げた。
「貴殿の子供が無事に生まれたのは、リリロットのおかげだ」
「何ですって?」
「私の手紙を受け取ってから、彼女は屋敷の中に内通者がいるかもしれないことを知った。そして、毒のような方法でお前たちが狙われる可能性も理解していた。だからあの日から、毎日、自分の光の魔力を使って腹の子供を守り続けていたんだ」
私は息を呑んだ。
父上は続ける。
「毒はずっと彼女の身体を蝕んでいた。本来なら、もっと多くの魔力を自分自身の保護へ回すこともできた。だがリリロットは、相当な量の力を常に子供へ残していた。だからこそ、自分自身の顔色も、身体の状態も、日を追うごとに悪化していった。毒を盛った者たちも、彼女が日に日に衰弱していく姿を見ていたのだろう」
「だから、毒が完全に効いていると思い込んだ。出産の時になれば、リリロットは衰弱しきって死ぬ。腹の子供も、生きて出てくることは難しい、そう考えていたはずだ」
父上は、暗い壁の奥へ視線を向けた。
「それなら、あとになって屋敷へ潜入した者による毒殺だったと判明してももう遅い、やつらの任務は終わっている。だが、奴らは一つだけ読み違えた、リリロットは、自分の子供を守りきった」
父上の声音が、ようやく少しだけ和らいだ。
「子供は無事に生まれた、そして、彼女の体内にあった最も致命的な毒も、解毒薬によって取り除いた。奴らの計画は完全に失敗した」
密室に、短い沈黙が訪れた。
だがレシュオン閣下は、すぐに何かへ気づいたように顔を上げた。
「ですが、パドリグス閣下……どうしてあなたが、その毒の解毒薬をお持ちだったのですか?」
それは、私もずっと聞きたかったことだった。
父上が解毒魔法に詳しいなど、私は一度も聞いたことがない。
ましてヨゴル閣下ほどの専門医でさえ、まず毒を採取して分析しなければ、対応する薬を作れないと言っていたのだ。
なのに父上は、まるで最初からこの毒が使われることを知っていたかのように、ぴったり効く薬を持っていた。
問いを聞いた瞬間、父上の目がほんの一瞬だけ変わった。
悲しみ。
そう見えた。
けれど、その感情はすぐに消えた。
「それは……」
父上はしばらく黙った。
「以前、ルシアの身体から、同じ毒を見つけたことがあるからだ」
私は勢いよく顔を上げた。
母上?
「その時から、私はこの毒について調べ続けてきた」
父上の声音は変わらず平静だった。
けれど、なぜだろう。
その声だけが、先ほどまでより遥かに重く聞こえた。
「カルロ家の次の犠牲者まで、まったく同じ手口で死なせたくなかった」
レシュオン閣下は、ようやくすべてを理解したように、静かに頷いた。
私は、一言も口にできなかった。
母上も。
あの時、この毒に侵されていたのか。
三人はそのまま、薄暗い密室の中に立ち尽くした。
長い間、誰も何も話さなかった。
やがて、最初に沈黙を破ったのは父上だった。
「真相を知った以上、これからやるべきことは明確だ。まず一つ、今この屋敷で働いている使用人のうち、リリロットが身籠った後に雇い入れた者は、全員解雇する」
レシュオン閣下が、わずかに眉を寄せた。
「全員ですか?」
「全員だ」
父上は迷わなかった。
「今さら一人ずつ調べても、大した意味はない。実際に毒を盛った者を見つけたところで、背後の指示者を簡単に吐くとは思えない。ただ、これ以上身元を完全に保証できない者を屋敷へ残しておく方が、新たな危険を増やすからだ」
「次に二つ目、領主としての権限を使い、本当に信頼できる領主衛兵を直接屋敷へ配置しろ」
父上はレシュオン閣下を見た。
「光明教派が勢力を伸ばすより以前から、長くお前とカルロ分家へ仕えてきた者だけだ」
父上の話を聞きながら、私はスレーとハンク、二人の王剣騎士を思い浮かべた。
そういえば、二人が父上と知り合い、仕えるようになったのも、光明教派が本格的に勢力を拡大するより前だったはずだ。
レシュオン閣下はしばらく考えた。
そして、ふいに尋ねた。
「では、そちらはどうするのです?」
父上が彼を見る。
「何のことだ」
「私の屋敷なら、領主衛兵を集めて警備を強化できます。ですが、宗家の方は本当に問題ないのですか?」
父上は少し黙った。
そして、一度私の方へ視線を向けた。
「こちらには今、スレーとハンクの二人の王剣騎士がいる」
「普通の刺客が相手なら、二人で十分に防げるだろう。だが問題は、ペラルドだけを守ればよいわけではないことだ。家には、ほかにも守らなければならない者がいる。全員が一か所に集まっていれば、大規模な襲撃を受けた時、かえって同時に守ることが難しくなる」
レシュオン閣下は頷いた。
「今の状況なら、全員を同じ場所へ集め続け、敵に一網打尽にされる機会を与えるより、家族をある程度分散させた方がいいですね」
彼はそこで、少しだけ言葉を止めた。
「少なくとも、何が起きたとしても、カルロ家の血が完全に途絶えることだけは避けなければなりません」
私は黙ったまま、父上とレシュオン閣下の会話を聞いていた。
二人とも、驚くほど冷静に話している。
それなのに、なぜだろう。
胸の奥から、次第に強い不安が込み上げてきた。
私たちを取り巻く危険は、最初から何一つ終わっていなかったのだ。
今この瞬間でさえ、敵は私たちの目に見えない場所へ潜み続けている。
……
主星ルミナス星。
光明神殿、深部。
一人の肥満した中年の男が、豪奢な椅子へ気怠そうに身体を預けていた。
その頭には、華美な装飾を施された冠を戴いている。
左右には若い女たちが寄り添い、その足元には、甲冑をまとった衛兵が一人跪いていた。
男は半ば目を閉じていた。
その顔には、ほとんど感情がない。
まるで、この世に存在する何ものにも、本当の意味では興味を抱いていないかのようだった。
その時。
部屋の扉が、ゆっくりと開いた。
露出の多い衣装をまとった一人の女が、足早に入ってくる。
大胆な装いとは正反対に、男の前まで来た瞬間、彼女はすぐに深く頭を下げた。
極めて従順な態度だった。
「大変申し訳ございません、主教様」
男は、まだ目を開けなかった。
女は少しだけ言葉をためらった。
それから声を落とし、続ける。
「ソル星のカルロ分家を対象とした毒殺計画ですが……」
「失敗いたしました」




