第百二話 才能の片鱗
何度か戦闘を繰り返し、休憩を挟みながらしばらく進んでいくと、蝙蝠の姿はほとんど見かけなくなった。
嬉しいことに、これまでの戦いを通じて、私は少しずつ奴らへの対処法を身につけていた。数が大幅に減った今となっては、蝙蝠たちも訓練相手としての役割をほとんど果たさなくなっている。そのため、たまに蝙蝠の魔物が現れても、スレーとハンクが手を貸して片づけてくれるようになった。
ただ、不思議だったのは、奥へ進むにつれて洞窟がかえって広くなっていくことだった。
周囲の岩壁にも奇妙な変化が見られる。最初は滑らかで湿っていた岩肌が、今では穴だらけで凹凸の激しいものに変わっていた。まるで、かつて誰かが無造作に掘り返したかのようだ。
そして、地面に散らばる灰黒色の石の間には、小さな金色の結晶が混じっていた。その結晶には微量の光の魔力を蓄える性質があるらしく、外から光が差し込まない場所でも、自ら淡い輝きを放っている。
それだけではない。洞窟に入ったばかりの頃には感じられたカビ臭さも、今では濃い血の臭いと腐敗臭に取って代わられ、あまりの悪臭に思わず顔をしかめてしまった。
足元には時折、動物の骨も散らばっていた。噛み砕かれて原形を失っているものもあれば、まだ毛皮が残っているものもある。
どうやら、この奥には別の魔物もいるようだ。
私は歩調を緩め、片手剣を身体の前に構えたまま、慎重に周囲を観察しながら進んだ。
岩壁の曲がり角を通り過ぎようとした、その時だった。
グルル……。
何かが喉の奥から威嚇するような低い唸り声を上げている。
私はすぐに足を止め、手元の光球をゆっくりと前へ差し出した。
すると、前方の暗がりから、一頭の魔物が姿を現した。
光球をあまり遠くまで差し出す勇気はなく、どうにかその上半身だけを見て取ることができた。
姿は狼に似ているものの、胴体はもっとがっしりとしていて、四肢も普通の獣より少し短い。灰褐色の毛皮の間には、粗い岩のような甲殻が幾重にも重なっていた。
特に肩や額、背中は、ほとんどが硬い岩の甲殻に覆われている。二つの目はかすかな赤い光を放ち、口を開いて息をするたびに、悪臭を帯びた白い息が漏れ出していた。
私は緊張しながら、その魔物をじっと見つめた。
この距離なら、光弾を使えば頭に命中させられるはずだ。けれど、一撃で倒せなかったら、その後に剣で迎え撃つ時間はあるだろうか。
そんなことを考えているうちに、魔物が突然飛びかかってきた。
速い!
私はすぐに魔法で倒すことを諦め、片手剣を握りしめると、飛びかかってくる魔物に向けて剣を振るった。
ガキン!
剣先が額の岩甲にぶつかり、まるで金属同士が衝突したかのような音が響いた。
剣は確かに頭を捉え、その勢いで魔物を地面に叩き伏せることができた。しかし、硬い岩甲に刃を阻まれ、ほとんど傷を負わせられなかった。
さらに次の一撃を繰り出そうとした瞬間、なんと右側の暗がりから、もう一頭の魔物が飛び出してきた!
私は慌てて身体を回し、剣を横薙ぎに振るった。
その一撃は、ちょうど大きく開かれた魔物の口を捉えた。鋭い刃が口元を斬り裂き、頬の肉を大きく削ぎ落とすとともに、口の端に深い裂け目を刻んだ。
斬られた魔物は地面に転がり落ち、真っ赤な目で私を憎々しげに睨みつけてきた。
ところが、ほっとする間もなく、今度は左側からさらにもう一頭が飛び出してきた!
ドン!
魔物は真っすぐ私の光の障壁に衝突した。障壁の表面に金色の波紋が広がり、その激しい衝撃に驚いた私は、慌てて後ずさった。
まずい!
まさか、一度に三頭もの魔物に囲まれるなんて!
こいつらはさっきの蝙蝠よりずっと強い。身体は頑丈で動きもかなり素早く、そのうえ硬い甲殻に守られている。
このままここに立っていては、三頭を同時に相手にするなんて、とてもできそうにない。
私は剣を横に構えて目の前の三頭を牽制しながら、光球を手元へ引き戻し、ゆっくりと後退した。
明光術の明かりを頼りに、素早く周囲を見渡す。
右側には比較的広い空間があったものの、地面には小さな川が流れ、岩肌もひどく滑りやすそうで、足場としてはあまりよくない。
一方、左後方には、人が一人通れるかどうかというほどの狭い分かれ道があった。元の道を引き返すにしても、そちらの通路はまだ十分に広く、今いる場所と大して変わらない。
私はすぐに、左後方の細い通路へ退くことに決めた。背後にいたスレーとハンクも同時に後退し、私との距離を一定に保ちながらついてくる。
三頭の魔物は、なおも執拗に追いかけてきた。
鋭い爪が何度も岩肌を叩き、入り乱れた足音が洞窟の中に響き渡る。
先ほどまで三方向から私を囲んでいた魔物たちも、通路があまりに狭いため、今度は身を寄せ合うようにして進まざるを得なくなった。それどころか、先を争うあまり、互いの身体をぶつけ合っている。
私は後ろをちらりと振り返った。
分かれ道の先には、また広い空間が続いている。
このままそこへ出てしまえば、奴らはきっと再び別々の方向から包囲してくるだろう。
だめだ。まだこの狭い通路に詰まっているうちに、せめて一頭だけでも倒さなければ!
しかし、これほど狭い場所では、片手剣でさえ十分に振るうのは難しい。それに、魔物たちの額や肩は硬い甲殻で守られている。一撃で致命傷を与えるのも、そう簡単ではなさそうだ。
どう対処すればいいのか考えていた時、ふと先ほどの光景が頭に浮かんだ。
そういえば、さっきは一頭の口元を剣で斬り、頬の肉を大きく削ぎ落とせたじゃないか。
ということは、口の辺りが弱点なのかもしれない!
私は通路の反対側の出口付近まで後退すると、振り返って、狭い道を押し合うように追ってくる魔物たちと向き合った。
先頭の一頭が、大きく口を開き、二列に並ぶ鋭い牙を剥き出しにしている。
私は剣の柄を強く握りしめ、その口へ切っ先を向けた。
魔物が四肢で地面を蹴り、宙へ飛び上がって私に襲いかかろうとした、その瞬間。
私は片手剣を真っすぐ前へ突き出した。
ブシュッ!
切っ先は魔物の開いた口へ正確に入り込み、上顎の奥にある柔らかな部分を貫いて、喉の深くまで突き刺さった。
硬い岩甲とは違い、そこにある肉では鋭い刃を防ぐことなどできなかった。
魔物の身体が一瞬で硬直し、飛びかかってきた勢いもそこで途絶えた。
私は慌てて、その口から剣を引き抜いた。
しかし、構えを十分に整え直すよりも早く、二頭目の魔物が倒れた仲間を飛び越え、私に襲いかかってきた。
ガキン!
今度は首筋を狙って剣を振るったものの、またしても硬い岩甲にぶつかってしまった。
刃は弾き返され、強い反動で手首がじんじんと痺れる。
その勢いのまま、魔物の前脚が私の肩に向かって振り下ろされた。
ドン!
光の障壁が再び攻撃を受け、身体を包む金色の輝きがまた少し弱まった。
これ以上、攻撃を受けるわけにはいかない!
この洞窟の奥には、まだどんな魔物が待ち構えているかわからないのだ。ここで障壁の魔力を使い果たしてしまったら、この先の訓練はどうなってしまうんだろう?
私は急いで後退し、魔物との距離を取った。
甲殻を攻撃しても、ほとんど意味がない。何とかして、できるだけ早く決着をつけなければ。
でも、どうすればいいんだ?
残る二頭と緊張したまま睨み合っていると、スレーが口を開いた。
「坊ちゃま、あの魔物たちの身体は、硬くて分厚い甲殻に覆われている。だが、身体を動かすためには、必ず甲殻で完全には守られていない部分があるはずだ」
甲殻に守られていない部分……?
私はもう一度、奴らのがっしりとした身体を注意深く観察した。
関節だ!
そうだ、脚の関節には甲殻がない!
肩や四肢の外側は硬い岩甲で覆われているけれど、前脚が曲がる部分には、まだ甲殻に覆われていない皮膚がわずかに見えている。
あそこを正確に狙うことができれば……。
前脚を、確実に斬り落とすんだ!
ちょうどその時、二頭の魔物が同時に飛びかかってきた。
私はすぐに気づいた。たとえ剣を一振りして片方の前脚を斬り落とせたとしても、もう一頭に隙を突かれ、障壁を攻撃されてしまう。
それではだめだ。
少し危険かもしれないけれど、私は両脚に少量の光の魔力を注ぎ込み、瞬間的な加速で奴らの攻撃を避けてみることにした。
右へ一歩踏み出すと同時に、両脚に凝縮した光の魔力を解放する。
足元で金色の光が弾けた!
瞬間的に生まれた勢いを利用し、私は素早く右側へ跳び退いた。身体が宙に浮かぶと同時に、その勢いに乗せて剣を振るう。
剣先は右側の魔物の前脚の下を素早く通り抜けた。
ザシュッ!
鋭い刃が関節の内側に食い込み、その前脚を一本、完全に斬り落とした!
鮮血が飛び散る。
魔物は凄まじい悲鳴を上げ、支えを失った身体を大きく前へ傾けると、そのまま地面に激しく倒れ込んだ。
もう一頭の魔物は、私が先ほどまで立っていた場所へ飛びかかった。鋭い爪がすぐそばを掠めていったものの、光の障壁には触れることさえできなかった。
やった!
私は宙から地面に降り立った。少し足元がふらついたものの、どうにか体勢を保つことができた。
今の加速は予想していた以上に速かった。自分の身体なのに、うまく制御するのも難しいほどだ。
けれど、今は立ち止まって体勢を整えている場合じゃない!
私はそのまま追撃することにした。もう一頭が振り返る前に、先ほどと同じ移動方法をもう一度使うのだ。
今度は、そいつの前脚も斬り落としてやる!
再び両脚に光の魔力を注ぎ込み、爆発的な加速を利用して魔物へ突進した。
しかし、剣先が前脚を捉えようとした瞬間、魔物はまるで私の狙いを見抜いていたかのように、狡猾にも後ろへ飛び退いた。
えっ!?
剣が空を切った!
先ほどの加速があまりにも激しかったせいで、身体の重心を調整する暇がない。振り抜いた剣に腕まで引っ張られ、足元がもつれた私は、そのままバランスを崩して地面に倒れ込んでしまった。
そして、魔物はこの好機を逃すつもりなどないらしい。
四肢で勢いよく地面を蹴り、大きく口を開いて私に飛びかかってきた。
まずい!
すぐに反撃しなければ!
これ以上、障壁を攻撃させるわけにはいかない!
私は慌てて片手剣の切っ先を魔物の開いた口に向けた。先ほど一頭目を仕留めた時と同じように、喉を突き刺すつもりだった。
ところが、こいつは明らかに先ほどの魔物よりも賢かった。
なんと空中で頭の向きを変え、私の剣身に勢いよく噛みついてきたのだ!
鋭い牙が刃をがっちりと挟み込み、どれほど力を込めても剣を引き抜くことができない。
私は必死に柄を握りしめ、ぐいぐいと押し寄せてくる魔物の力をどうにか受け止めた。
こうして、私と魔物はしばらく押し合う形で動けなくなってしまった。
このままじゃだめだ!
片手だけで、こんなに頑丈な魔物と力比べなんてできるわけがない!
おまけに、今の私は地面に尻餅をついている。両脚で身体を支えることさえできないのだ。
魔物の大きく開いた口がますます近づいてくるのを見て、私は慌てて片手剣の柄を左手に持ち替え、空いた右手を背中へ伸ばした。
そうだ、まだ両手剣がある!
危機に迫られた私は、右手で背中の両手剣を握ると、勢いよく引き抜いた。
この剣を片手で振るうのは少し骨が折れるけれど、今はそんなことを気にしていられない。
私は歯を食いしばり、魔物の右前脚に狙いを定めると、重い剣を力いっぱい振り下ろした。
ザシュッ!
剣先が脚の関節を斬り裂いた!
魔物は苦痛に耐えかねて片手剣を噛んでいた口を離し、頭を仰け反らせて怒りの咆哮を上げた。
今だ!
私はその隙を逃さず、左手の片手剣を前へ突き出した。まだ閉じられていない大きな口の中へ、切っ先を真っすぐ差し込み、喉の奥深くまで突き刺す。
魔物の身体がびくりと震え、もがきながら後ろへ倒れていった。
地面で何度か痙攣した後、ついに動かなくなった。
「はぁ……はぁ……」
私は荒い息を繰り返しながら、少し離れた場所へ目を向けた。
残るは、あと一頭だけだ。
先ほど前脚を斬り落とした魔物は、今も地面に倒れたままだった。必死にもがいて立ち上がろうとしているものの、どうしても身体を支えられないらしい。
私はゆっくりと、その魔物の前まで歩いていった。
魔物は顔を上げ、真っ赤な目で私を睨みつけた。その眼差しには、まるで激しい憎しみが込められているかのようだった。
すでに抵抗する力を失っているというのに、なおも口を開いて鋭い牙を剥き出しにし、喉の奥から低い唸り声を上げ続けている。
私は両手剣を強く握りしめた。
今度は片手剣を使わず、それを収めると、両手で両手剣の柄を握った。
すでに弱点はわかっているのだから、わざわざ硬い甲殻を相手にする必要はない。
私は剣先に光の魔力を集中させ、岩甲に完全には覆われていない喉元を目がけて、光斬を繰り出した。
金色の剣光が閃く。
魔物の喉は完全に斬り裂かれ、その身体はようやく動かなくなった。
やっと終わった。
私はその場に立ち尽くし、両手で握った剣を杖のように地面につきながら、乱れた呼吸をどうにか落ち着かせようとした。
先ほどは光の魔力による加速を立て続けに使い、さらに二頭の魔物と接近戦まで繰り広げたのだ。さすがに、かなり疲れてしまった。
それでも、目の前に倒れた三頭の魔物を見ていると、胸の奥から抑えきれない喜びが込み上げてきた。
やったんだ。
途中で何度も危険な目に遭い、もう少しで噛みつかれそうにもなったけれど、最後は自分の力で、三頭とも倒すことができた!
スレーとハンクは、ずっと私から適度な距離を保っていた。
私が怪我をしていないことを確かめると、二人はすぐには近づいてこず、後ろで小声で話し始めた。
「見たか?」
ハンクは前方に目を向けた。
「さっきの坊ちゃまの判断、なかなかよかったな」
「ああ」
スレーは静かに頷いた。
「開けた場所で三頭を同時に相手にするのは危険だと判断して、自ら狭い通路へ退き、包囲される危険を減らした」
「甲殻の隙間にある弱点を探すよう、私から少し助言はしたが、あの状況で素早く関節の位置を見つけ、正確に斬りつけたのは確かに大したものだ」
ハンクは笑みを浮かべた。
「そのくらいの助言も、指導のうちだろう。それにしても、坊ちゃまは魔法だけじゃなく、剣術にもかなりの素質がありそうだな」
スレーはすぐには答えなかった。
その視線は、私の手に握られた両手剣へと向けられていた。
「ただ、今の坊ちゃまはまだ身体が小さい。両手剣を使うとなると、筋力や剣そのものの重さが、かえって動きを制限してしまうかもしれない」
「お前もそう思うか?」
ハンクはスレーの方を向くと、その肩に手を置いた。
「大きく剣を振るうよりも、相手の隙を見極め、足運びを使って素早く攻撃の方向を変える方が得意そうだな」
ハンクは顎をさすった。
「うん、確かにそうだ。それなら、もう少し軽くて扱いやすい武器の方が向いているかもしれないな」
「例えば双剣だ。今後、教えてみるのもいいだろう」
スレーはすぐにそう答えた。
「ただ、両手でそれぞれ別の武器を扱うとなれば、今以上に身体の協調性が求められる。これからは、その辺りの訓練も増やさないとな、スレー」
ハンクはそう言いながら、再び私の方へ目を向けた。
「構わないさ。坊ちゃま自身にも興味があるのなら、我々も全力で指導すべきだろう」
スレーはそう答えた。




