8話 Crowの正体
『ただ今入った情報です!今、世間を騒がせているCrowが新宿での目撃情報です!殺されたのは30代男性。ハサミで喉元を切りつけられたそうです!』
テレビをつけると、ちょうどCrowのニュースがやっていた。監視カメラの映像が流れていて、証拠映像として映し出されていた。確か映っているのはCrowだ。右手にハサミを握りしめており、男性に襲いかかっている一部始終が映っている。
「…………。」
Crowと対峙した時に言われた言葉を思い出す。
『お前は甘いんだよ』
確かにそうかもしれない……。俺は、Crowを捕まえてやるという気持ちでCrowを追っていた。そして前回、Crowを拘束できた。だけど……逃げられた。それどころか、俺は腹を割かれ、強制的に現代に戻された。
「甘いか……。だったら……」
俺は覚悟を決める。“この手を血で染める事を……。どんな手段を使ってでもCrowを止める。たとえ殺してでも……。それで沙希が助かるのだから……。
「行くか……。これで終わりにしてやる……」
俺は包丁ではなくハサミを持った。包丁は、もし警察とかに持ち物確認とかされたら捕まるかもしれない。その一方でハサミは、裁縫具といえば何とでもなる。それに使いやすい。包丁とは違い、普段使っているからだろうか……?
そんな事を考えながら、ハサミをバックに入れいつもの場所へと向かった。
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「何回ここに来てんだろうな……」
それはいつも時間移動する際の定位置、トイレの裏だ。ここで何回も時間移動して、沙希を助ける努力をした。でも、今となってはCrowに勝つためになっているが。
「……よしっと」
俺はスマホの時間を午後9時にセットする。すると、周りがぼやけ、カーッと白い光に包まれた。
「んっ……?」
視界がやがてクリアになり、時間移動が成功しているのを確認する。……よし、ちゃんと戻れている。さて……そろそろのはず……。
『おい、逃げるぞ!』
『う、うん……』
広場の方から声がする。見てみると、黒いパーカーを纏った男に追いかけられている男女二人が目に入った。パーカーの男は、右手にハサミを持っており、そのハサミで彼女を刺さんとばかりに追いかけている。
「ふぅ……」
これからしようとする行動に体が拒否反応しているかのように、体が上手く動かせない。そして、ここに来る前に教えてもらった新たな情報を思い出す。
『彼が殺していた男女関係を細かく調べてみました。そしたら、驚くべき事実がありました……』
『驚くべき事実……?』
『はい……。それは……』
『被害者全員が……小中高と大学で沙希さんをいじめていた人達だと判明したのです……』
『……っ!?』
思い出すだけで胸糞が悪くなる……。被害者の共通点が中々分からなかったのも当然だ。そいつらの共通点は”沙希をいじめた“事実だけ……。その他では面識すらなく、赤の他人だったからだ。そして……Crowの正体は……”沙希の関係者“の可能性が高い……。
「いったい誰なんだ……」
そんな愚痴に近い感情を吐き捨て、ようやく体を動かした。右手には、Crowと同じハサミを持ち、沙希達とCrowの間に立ち憚った。
「えっ!?」
「……!?」
それぞれの口から驚きの声が漏れる。しかし、沙希達はこれはチャンスだと思ったのか逃げ始める。Crowも一瞬驚いたが、俺を無視して沙希達を追いかけようと走り始めた。そして俺は……
ーグサッー
「……ッ!?」
Crowは何が起きたか分からないといった表情だ。Crowの腹を見ると、赤い液体が滲んでおり、それは血であることは分かった。そして、俺の右手は……Crowの血によって赤く染まっていた。そう、俺はCrowを刺したのだ。初めて……人を刺したのだ。
ードサッー
Crowは俺の目の前で倒れた。しかし、肩は上下しているのでまだ生きている。そんなCrowを今俺は見下ろしている。そして俺は……Crowの仮面を取った。
「お前はだれ……な……ん……だ……」
俺の声はだんだん壊れたカセットテープのように途切れ途切れになる。俺が仮面を取り、見た顔はいつも俺が見ている顔だ。何故なら……
「何……してるんだ……?」
「よぉ……」
その顔は俺なのだから。いつも鏡で見ている俺の顔だ。その瞬間、俺の中の時間は驚くほどゆっくりになる。信じられない物を見ると、皆こうなるのだろうか。俺の体が小刻みに震えており、ある事実が俺の脳内をぐちゃぐちゃにしていた。
「Crowが……俺……?だったら……沙希を殺そうとしていたのも……俺?」
そう、Crowの正体が俺なら、沙希を殺したのも俺ということになる。俺が沙希を……?俺が……。俺はもう正常な思考ができなくなってた。そして俺はCrow……いや、俺に掴みかかった。
「なんでこんな事をした!?なんで沙希を殺そうとする!?」
「………」
無言。これは今までにされてきた行為だ。だけど、今はそんなのは通じない。今度こそ全て吐かせてやる。今正常じゃない俺の頭を満たしているのがその事だけだ。
「話せ!!何故こんな事をしてるんだ!?」
「…………った……」
「……は?」
「仕方……なかったんだ……」
その言葉を聞いた瞬間、Crowは涙を流し初めた。それは、今まで俺が流したことのないとても苦しそうな涙だった。
「沙希を殺さないと今の沙希が救われない……!!」
「……っ!」
それは悲痛の叫びと言わんばかりの主張だった。Crowの目はこちらをまっすぐ見ており、大粒の涙を流している。
「どういう……事だ?」
この後、俺はCrowから事件の全貌を聞かされることになる……。
来週で最終回です!