東京 2000年
葵の1歳の誕生日にと、会社帰りに立ち寄ったケーキ屋で健一が、夫婦のためにはショートケーキを、卵アレルギーがある娘のためにはフルーツゼリーを買ってきた。
ゼリーのてっぺんにはキウイフルーツが鎮座している。
葵がキウイフルーツにも重いアレルギーがあるのを、夫は失念したのだろうか。
それともいまだにわかっていないのだろうか?
アレルギーのある葵に授乳するために、眞子は日々の買い出しの際にもあらゆる購入物の原材料を確認し、心配な場合は二度見、三度見して表示を読み返している。
たまの外食でも食べたいもの、というより食べられるものを探した。
断乳はまだもう少し先でもいいのだと知りつつ、制限の多い食生活によるストレスが育児や寝不足の負担に加わり辛くなってきて、満1歳を前に人工乳に切り替えたところ、1歳児検診で、
「お母さん、まだ断乳しなくてもよかったのに。特にアレルギーのある子には母乳のほうがいいんですよ」
と非難めいた声で医者に言われておちこむ。
そのことを夫に話すと、
「へ~え、じゃあ断乳しなきゃよかったね。また吸わせてたら出ない?」
と新聞を眺めながら返された。
てめぇの乳首吸わせてみろよ、
と、どこから浮かんできたのかわからないようなガラの悪い文句を夫に向かって吐きそうになり、我ながら仰天する。
冷静に返す言葉が見つからず黙ったまま、夫にもちょっとは考えてから発言してもらいたい、と考えながら涙をこらえる。
健一は早朝に家を出て深夜に帰宅する毎日だが、休日にはオムツも替えるし、ベビーカーを押して公園にもつれていく。
感謝すべきだろう。
しかし、「明日も仕事があるんだから」夜は一人別室で朝までぐっすり眠るし、葵が熱を出そうが吐こうが病名も気にならないし、どの食べ物にどのくらいアレルギーがあるかも一向に覚えない。




