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ずっとおぼえてる   作者: ことり あきこ
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京都 1994年

 白川通りを東に入った住宅地で偶然バレエスタジオを見つけたのは、痛いほど底冷えのする2月のことだった。


 仕事のない木曜日の夕方、涼子のママチャリを借りて白川通りを走っていた眞子は、雑誌で見た「ペイストリーが自慢」というベーカリーに立ち寄り、あれもこれもとキョロキョロしながら、カスタードクリームの上にバナナがのったものや、チーズクリームの上に赤や紫のベリーがのったものなどを買って満足な気分で店を出ると、知らない間にすっかり日が暮れていた。


 心細くなる時間だ。


 早く帰らなければ。

 でもどこに?


 気が急いて必死で自転車をこぐが、近道だと思って曲がった角の先はまるで家々の迷路で、眞子は完全に方向感覚を失う。

 誰かに道を訊こうにも人影もない。

 不安なままペダルをこぎ続けているとふいに、髪をきゅっとまとめた少女が道の先に現れた。

 小学校高学年くらいだろうか。

 昔の自分の亡霊を見ているような錯覚におそわれたまま、大き目のバッグを肩から斜め掛けにしたその少女が急ぎ足で「白川バレエ教室」と記された建物に入っていく背中を見送った。




「ひやっ、眞子ちゃん、これサクサクやな」


 翌朝、焦がさないようにアルミホイルをのせてトースターで温めたペイストリーを涼子と頬張った。


 濃厚なクリームとフルーツがたっぷりとのったペイストリーは評判通りおいしかった。


 ペイストリーだけでなく食パンもクロワッサンもおいしいと判明した白川通りのベーカリーに行くたびに眞子は、二度も三度も、いや何度でも、自分でもあきれると言うかもはや感心するほどくり返し道に迷いつつも、白川バレエ教室の前をわざわざ通って帰るようになった。


 ピアノの音が聞こえずひっそりしていることもあれば、レッスンを終えた子供たちでにぎわっていることもあり、どちらにしても自分はここで何をしているのだろうとむなしくなった。



 何度通りがかっても扉を開けることができなかった白川バレエ教室に眞子がついに電話をかけることができたのは、京都に住んで1年以上たってからだ。クラッセンの同級生が、ノエルが、卒業する頃だった。


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