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ずっとおぼえてる   作者: ことり あきこ
32/114

京都 1990年 3月

         

 毎年、クラッセンに正規入学できるのは男女それぞれ12名のみ。

 合格倍率はどのぐらいの数字なのだろう…


 オーディション終了直後の充実感じゅうじつかんはすっかりうすれ、結果を待つ毎日は生きた心地がしなかった。



 幸い、合否の通知は予想していたよりも早く届いた。


 しかも封筒ふうとうはずっしりと重い。


 郵便受けから取り出す手がふるえる。


 7階の自宅に着くまで待ちきれず、中身はやぶらぬよう気をつけながらも、エレベーターの中でビリビリと封を開ける。


 We are pleased to inform you…


 え!これは…


 良い知らせを告げる文章の出だしを読んだだけで眞子は、歓喜の声を小さくもらす。



 猪熊にはクラスで直接、前川や涼子、友達や姉には電話で報告をした(前川は電話でも話が長く、切るのに苦労した)。


 報告をするたびに何度も喜びをかみしめ、そして何度も依子の顔が頭をよぎった。

 依子先生が合格を知ったら、喜んでくれただろうか?


 大興奮で何人もと電話で話した後、酸欠気味の痛む頭で眞子は、人生にはたっぷりの不運と少しの幸運が用意されているのだろうか、などと考えた。 



 合格の報告に、父の幸雄から出た言葉は

「そうか」

 の一言だけだった。


 眞子が《コッペリア》のモデルにスカウトされたときも、ニューヨークでのサマープログラムに参加したいと言ったときも、高校を卒業したらアメリカの大学に留学したいと伝えたときも、幸雄は応援もしなかったが反対もしなかった。


 初枝が生きていた頃の幸雄だったら、何一つ許してくれなかっただろう。


 喜んでもらえなくても反対されないだけよかったのだと自分に言い聞かせつつも、お母さんが生きていたら、自分はここまで踊りに執着しただろうかと、考えずにはいられなかった。


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