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29話 ネシャートの変化

久々の投稿というか再開というか……


すみません、ここしばらく「AW vs SAO」に没頭してました(ォィ


       ■



「ちッ、ムカつくわねぇ」


 アワリティアは本性を隠そうともせず、山野を見下ろして吐き捨てた。

 マリシアスにとって魔力の供給元が無い状況は好ましくはない。何より今はネシャートの力を押さえ込むための結界を維持している最中だ。すぐにでも供給元となる契約者が欲しいところだった。

 そんな胸中などおくびにも出さず、ゆっくりと市ヶ谷を睨めつける。


「ねぇ……このままじゃ「コウちゃん」も死んでしまうんだけど、貴女は本当にそれでいいのかしら?」

「良い訳がないじゃないッ!」


 アワリティアの態度が癇にさわったのか、市ヶ谷は怒りの形相でアワリティアを睨み返す。

 そもそも誰のせいで航一が死に瀕していると思っているのか。

 だが続けてそう怒鳴りたくなる衝動を市ヶ谷はなんとか飲み込んだ。


 ――惑わされちゃダメ! これは彼女の遣り口なんだから。


 市ヶ谷はアワリティアの目的を正しく理解した上で、そう自分に言い聞かせ、なんとか冷静さを取り戻そうと意識を集中する。

 それを見たアワリティアの眉間が僅かに寄せられる。その僅かな表情の変化から隠しきれない苛立ちを感じ取った市ヶ谷は、自分の選択が正しいことを確信する。ただ、このままではいずれ航一の命の火は消えるだろう。それだけはなんとか避けたいが、そのためにはネシャートの力に頼るしかない。そのためにはアワリティアがネシャートの力を抑制しているのをどうにかして阻害しなければならない。しかしそのための良い手段が思い浮かばないのがもどかしかった。


「ねぇ、そこの貴女……私と契約する気はない? そうすれば私が貴女の願いを叶えて、『コウちゃん』の命をつないであげるけど?」


 ――やっぱり来た。

 アワリティアの予想通りの『提案』に分かっていても心が動きそうになる。

 そんな自分の弱い心を奮い立たせ、市ヶ谷は真正面からアワリティアの眼を見据えて言った。


「例え笠羽君が生き返るとしても、貴女には頼まない。絶対に」

「あらぁ? 『コウちゃん』を助けなくても良いの?」


 いちいち癇に障る物言いに、心がざわつく。

 それでも平静を保てたのはアワリティアの目的が分かっていたからだ。

 市ヶ谷も焦っていたが、アワリティアはそれ以上に焦っている。魔力の供給源が確保できていない状態では、間もなく結界の維持が出来なくなる。そうなればネシャートとの力関係は逆転するかもしれない。いや、この結界すら山野に《願わせた》ものかもしれない。そうであればアワリティアの余力はほとんど残っていないと考えられた。

 問題は……アワリティアの余力と航一の命が尽きるのとどちらが早いか……。


「そのままじゃぁ、死んでしまうのよ?」

「人は本来人の手で救うしかない。そして救えなかったら、そのことに心を痛めることしかできない。それが人間なの。貴女には分からないだろうけど……」


 アワリティアの口元が一瞬だけ歪んだ。

 意外に堪え性がないのかもしれない。

 そんな市ヶ谷の思惑を察したのか、アワリティアは口元を軽く握った右手で隠してから、憎々しげな眼で市ヶ谷を睨み返す。

 アワリティアが放つ怒りの気配に、強い恐怖を覚えたが、市ヶ谷はそれでも恐怖に屈することは無かった。むしろ相手を精神的優位に立たせないよう、極めて冷静であるよう務めた。


「真面目で良い子ちゃんな答えね。面白味もないし、気に入らないけど……だったら、そっちの子はどうかしら? 貴女は『コウちゃん』を助けたくないの? 生きてて欲しいんじゃないの?」


 未だ倒れている木嶋に向かって、アワリティアはのうのうと言ってのけた。

 市ヶ谷は文句のひとつや二つ言ってやりたくなるが、それを制するように木嶋が先に答えた。


「お断りだね。僕は確かに『笠羽君』に生きていて欲しいけど、君が『笠羽君』を殺そうとしている元凶だということを正しく理解するくらいには冷静だよ。そんな君に僕たちが何か願うと本気で思っているのかい?」


「あら、そう。それじゃ仕方ないわね。なるべく穏便に済ませようと思ったのだけど」


「穏便? 僕たちを殺そうとして脅迫しておいて穏便とは、日本語の使い方を知らないんじゃないか?」


 そう言われて、アワリティアの表情から感情が消え失せる。

 反比例するように瞳には殺意の炎が見えた。


「……うるさいわね。貴女は別に死んでしまっても構わないのよ? いや、違うわね。生かしておく理由も無いと言い換えた方が適切かしら。確かにまだまだ日本語の使い方がなっていないみたいね」


 アワリティアが木嶋に向かってゆっくりと歩を進める。

 近づきながら手刀を真っ直ぐ振り上げる。手刀の周りに魔力が集まり、黒い刃を形成している。


「貴女たち二人を殺して、コウちゃんも後を追わせてあげる。下策だけどこの際仕方ないわ」


「そんなことはさせません」


 突然、前触れもなくハンマーで岩を砕いたような音が響くと、アワリティアが物凄い勢いで吹き飛び、瓦礫の山に叩きつけられた。


「があッ!」


 その後も瓦礫の上を何度もバウンドして二十メートル近く転がってからやっと止まる。

 今し方、アワリティアのいた場所の空気が歪む。何かが凝縮するような現象が収まると、そこには拳を振りかぶったままの姿でネシャートが姿を表した。

 

「ぐ……がッ……この糞ジーニーがぁッ! まだくたばって無かったのか!」

「お二人は殺させません! 私がご主人様の願いを違えることは無いと知りなさい」


 ネシャートは眦を決して、静かにアワリティアに告げた。


「はっ? 何余裕ぶっこいてんだよ、糞ジーニー。あんたは今あたしの結界で弱体化してるだろうがよ!」


 瓦礫の中から立ち上がったアワリティアが、口汚く罵る。その身に纏う雰囲気はまさしく魔人と呼ぶにふさわしい邪悪さが垣間見え、市ヶ谷と木嶋は恐怖に息を呑む。

 しかし、ネシャートはまるっきり動じず、言葉を続けた。


「なるほど、その下品な物言いが本性なんですね。そして、思わず本性が漏れ出てしまうほど、

余裕が無いのでしょう? 違いますか?」

「全くの見当違いだね。それとも余裕が無くなると期待したのかい?」

「そうですか、では単純に魔法が下手なんですね」

「ああ?」

「貴女の結界……大分、綻んでますよ? 私が木嶋さんを直しきれるくらいには」

「なッ!」


 その発言とともに木嶋が立ち上がり市ヶ谷と航一の元に近づいた。


「道理でさっきから痛みも無くペラペラと喋れると思ったよ」

「え? じゃあ……」


 市ヶ谷が明らかに完治したと思しき木嶋を見て、何かに気がついたかの様に抱きしめたままだった航一の頭を膝の上に下ろし、まじまじと見つめた。

 全身に受けた刺し傷は塞がった様子もなく、脈や呼吸も未だにか細い。

 だが、出血は完全に止まっていた。


「コウちゃん……もしかして……」

「ネシャートちゃんが?」

「はい、まだマリシアスの結界は作用していますが、先ほどと比べて遙かに弱まっています。恐らく魔力供給が断たれたことが原因で、効力を下げることでしか結界を維持できなくなっていると推測されます」

「じゃあ、コウちゃんは……」

「いえ、まだ予断を許さない状況です。マリシアスの隙を突いて木嶋さんの治療は完了させたのですが、ご主人様の治療が完了する前にお二人を守ることを優先させなければならない状況になってしまったので……」

「僕たちを……守る?」

「『木嶋さんを助けること』そして『市ヶ谷さんを守ること』……それが、ご主人様の《願い》ですから」


 ここに至って、市ヶ谷や木嶋にも明確に分かるほど、アワリティアに焦りの色が見えた。

 ギリギリと歯を食いしばり、眉間に皺を寄せるその表情からは少女の面影など完全に消え去っている。


「クソッタレッ! 大体ソイツの願いはその女共を守ることだろうがッ! なんでお前はソイツを治療しようとしてやがんだッ! ソイツの願いじゃねぇだろうがッ!」


「私が願ったからです」


「なんだって?」


「《あの人》ほど上手くは行きませんでしたが、それでも幾ばくかの《自由》は効くようになりました」


 あり得ない。

 アワリティアがネシャートの言葉を聞いて、真っ先に頭に浮かんだのはその言葉だった。

 マリシアスと違って、ジーニーは願いに忠実でなければならない。

 自らの願いに沿って魔力を使えば、ジーニーはジーニーでいられなくなり、マリシアスへと《堕ちる》。

 そうなれば己の《解放》は望めず、魔力が尽きると同時にその魂は煉獄に落とされる。そして煉獄に落ちた魔人に救済は無い。それが不変の法則だった。その筈だった。

 だからマリシアスは魔力供給者となる契約者――という名目の家畜――を血眼になって探すのだ。己が快楽を貪るために。己が煉獄に堕ちないために。

 なのに目の前のジーニーは、ほんの僅かとは言え契約に無い己の願いを叶えながら、マリシアスに《堕ちる》ことなく、ジーニーのまま己の目の前に相対している。


「何故……何故オマエはマリシアスに堕ちないッ!」


「ご主人様が、そう願ったから……」


「な……何?」


 ――もっと自由に何かを思って、考えて良いんじゃないかって。

 ――例えば誰かと一緒にいて、笑い合って……そういうのは駄目なのか?


 かつて航一がネシャートに言った言葉が甦る。

 誰かと笑い合う、たったそれだけの小さな願いを叶えるくらい……そのくらい自由でも良いんじゃないかと、航一は言った。

 誰かと笑い合いたい。

 航一達と少しでも長く一緒に過ごしたい。

 普通の人間なら誰もがそう願う小さな願い。

 航一の言葉はネシャートに小さな変化をもたらしていた。その変化を自覚した瞬間、ネシャートは当たり前のように航一の治療を実践できたのだ。

 だからこそネシャートは思う。

 ジーニーにほんの少しの自由を……それはきっと無意識に近い領域での航一の願いなのだと。

 だが、マリシアスであるアワリティアには航一の願いは理解できない。ジーニーの為に……いや、魔人の為に祈る人間などいる筈がない。そんな人間がいたら、自分はマリシアスに堕ちてはいない。


「そう……つまり、あたしにとって『コウちゃん』ってのは認めちゃいけない人間ってことね。じゃあ……どんな手を使っても殺さなきゃ……」

「させません。絶対に!」



ネシャート「あ、私の見せ場、あったんですね(棒」


……ご、ごめん。なんかちゃんと描いてあげられてなくて……

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