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シャーロット 〜魔法の調べは、観測の果てにあり〜  作者: 桜の浜


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砂の記憶

 私は一つの実験に参加していた。


 娘をロンドンに残して、はるか遠く東の地、インドへ。


 任務だけではなかった。

 お金である。


 インドへの赴任だけでは、収入はあまり変わらない。

 しかし、東インド研究所では違う。

 破格の給金が出る。


 娘の学費。

 魔導学園にはお金がかかる。


 だが、一番の理由は、私の健康の問題だった。


 余命一年。

 娘にも黙っていた。


 一年、娘と過ごす時間を捨ててまで来たのか。


 東インド研究所の研究に参加することで、最新の治療が無料で受けられる。

 可能性に賭けたのだ。

 生きるために。


 東インド研究所の職員は、私にこう言った。

 一度、細胞を核に記憶し、新たな体を、その核の記憶から再生する。


 何を言っているかは、ほとんど理解できない。

 それでも、助かるならその方法に賭けるしかない。

 実験は、私の核の記憶を調べることから始まった。


 インドの秘宝を使用したと言っていた。

 なぜ、そんなものがあるのだろうか。


 インドの民の反感を買わないのだろうか。

 警備に必要なのは、あまり恨みを持たせず、あまり関わらないことだ。


 検査をしているうちに、東インド研究所の所長と親しくなった。

 彼は、現地の研究者でも才能があれば分け隔てしなかった。

 そんな彼も、貴族と研究所と軍の板挟みにあった。

 あくまで貴族の研究所の一つであり、魔法省にも認められていない。


 彼は、酒の席でたまに私に愚痴を言っていた。


 いつだったか、少女を研究所に案内した。

 紅い、真っ赤なドレスを着た少女だ。


 貴族のご令嬢。

 確か、所長にも挨拶していた。


 そのあたりから、所長は少し変わった気がした。


 私も、自分の体と実験が佳境に入った時だった。

 体も心もすり減らしていた。


 娘からの手紙だけが、唯一の支えだ。

 久しぶりに会った所長は、私に言った。

 少し、実験を手伝ってくれ、と。

 私は断るつもりだった。

 実験の成果があまり出ていないので、疲れていたからだ。


 所長は、そんな私にこう言った。

 これは、もし君がいなくなった後に、君の娘の支えになる。

 娘という言葉は、私の全てだった。

 こんなことなら、死ぬ寸前まで一緒にいればよかったとすら考えていた。

 だから、私は所長の言葉に従って、彼の実験にも参加した。


 所長の言う通り、彼の実験には未来があった。

 私がいなくなった後に、娘がこれを見てくれることを祈った。


 治安は、どんどん悪くなっていく。

 警備なしだと、外出も厳しくなっている。


 悪い噂も流れ始める。


 反乱。

 研究所は、大規模な事故を起こす。

 軍の引き上げ。


 私の行っている治療にも、一つの成果が出始めた。

 後は、それが体全体に効果があるか。

 希望が見えてきた。


 それが起こるまでは。


 セポイの大乱。

 後にそう呼ばれた事故。


 私は、一つの任務を与えられた。


 所長の暗殺である。

 軍は、インドから手を引く。

 そして、原因は東インド研究所と所長が責任を取る。

 生きていれば面倒になる。

 私は悩んだ。


 軍人としての名誉を守るか。

 人としての尊厳を守るか。


 決めることはできなかった。

 反乱が起こるのは、一週間後。

 私は最後の治療をした。


 細胞が分解され、新たな細胞が生まれる。

 そこで、一つの事故が起きる。


 反乱が早まった。


 火をつけた後、広がるのがあまりにも早すぎた。

 読み違えていた。

 インドの民の怒りは、もっと深く、大きかったのだ。


 研究所は大混乱になった。

 私の治療も途中で終わった。


 もう動けない。

 娘にも会えない。


 研究室のベッドで寝ている私の所に、所長が来た。


 早く逃げろ、と。


 私は言った。


 もう無理だ。

 この体では。


 所長からは、


 これは一つの賭けだ。

 やるか、と。


 私は、娘に会うためなら何でもすると答えた。


 気づいた時、私の体は砂になっていた。

 私の心も砂になっていた。


 人の形の時、私は私だ。

 砂の塊の時、私は誰だ。


 私の頭には、二つの記憶がある。


 所長を殺せ。

 所長を助けろ。


 砂から人になる時、私は記憶の指示に従う。


 今日の指示は何だ。


 あの事故の時、私は所長を助けた。


 そして今、私は殺した。


 所長と同じ志を持つ仲間を。


 一人。

 二人。

 三人。


 そして、私は砂になる。


 私が気づいた時、所長が隣にいた。


 彼は私に言う。


 きっと、娘に会わせる。


 ああ、ありがとう。


 一瞬でも。

 そこにいた。


 私は誰だ。


 気づくと、ボートに乗っている。

 所長もいる。


 私の使命は何だ。


 何かが向かってきた。

 私は反射的に、所長をボートから突き落とす。

 私は川に飲み込まれる。


 体が。

 砂が。

 水に溶けていく。


 私の記憶も。

 心も。


 消えて。


 メアリー。


 私の娘。


 ありがとう。


 川の流れは、全てを飲み込んでいった。

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