お取次ぎいたします。
学生塔。
人気の授業には、大きめの講堂が用意される。
授業の内容が一番重要だが、学生の中には、単純に単位がとりやすいもの、教授の容姿で選ぶ者たちもいるので、人気にも色々とある。
その中でシャーロットが授業に出ているだけで、この講義は内容重視であると学生の中の一つの指標になっている。シャーロットは、自分の気になる授業にでているので、後日その噂をヴァイオレットから聞いて苦笑していた。
講堂の入り口の扉の近くで、ヴァイオレットはクラスメートと話をしていた。
「ヴァイオレット、その……いい? 少し相談があって」
「もちろん。どうしたの?」
クラスメートは指先を落ち着かない様子でねじりながら、声を潜めた。
「シャーロットさんのことで……」
「シャル? 何かあったの?」
ヴァイオレットは自然に身を乗り出した。
彼女にとってシャーロットは、学園で最も大切な友人であり、誰よりも信頼している存在だ。その名を聞くと、反応が早くなるのは仕方がない。
一方で――学園内の一般的な認識はまったく違っていた。
シャーロットに、クラスメートが気軽に声をかけることはまずない。
たまに男子が勇気を出して話しかけようとするものの、ほとんどが数秒で撃沈し、なぜか後日“美人の先生から指導を受ける”という謎の噂までついてまわる。
「話しかけても、シャルは怒らないわよ?」
ヴァイオレットは苦笑しながら言った。
「むしろ興味がある話題なら、あなたよりも真剣に掘り下げるくらいだもの」
「そ、そうなんだけど……あの人、ちょっと怖いの。表情が読めないし」
クラスメートは周囲を気にしながら続けた。
「魔法省にも呼ばれるし、寮長とも話が通じるって噂で……私たちとは世界が違う感じがして。」
その気持ちは理解できる、とヴァイオレットは思う。
可憐な見た目とは裏腹に、愛想はなく、会話はあっさり、結果として「近寄りがたい」という印象になるのも無理はない。
けれど――本当は、優しいのよ。
ヴァイオレットにしか分からないことがある。
彼女はシャーロットが見せる、ごく小さな仕草やわずかな眉の動きを理解することができた。
「あのね、シャルは気難しくなんてないわ。ただ、少し不器用なだけよ」
「ヴァイオレットは……シャーロットさんと仲良いよね。どうしてそんなに普通に話せるの?」
「昔、少し助けてもらったことがあってね。その時からかな」
ヴァイオレットは言葉を濁した。
説明するには長くなるし、本人が聞かれれば照れるに違いない。
そのとき――
講堂の扉が、静かに開いた。
銀髪のショートボブが朝の光を受けて淡く輝く。
シャーロットが入ってきた瞬間、講堂の空気がわずかに整列するように引き締まる。視線を向ける生徒も多いが、誰も近づこうとはしない。
ヴァイオレットはわずかな変化を見逃さない。
ここ最近、シャーロットは疲れが溜まっていたが、今朝は少し顔色が良い。
「シャル。おはよう」
呼びかけると、シャーロットは迷いなく歩み寄ってきた。
「おはよう、ヴァイオレット」
その声は他の生徒と話すときより柔らかい。
それだけで、二人の関係が特別であることが、周囲にも僅かに伝わる。
ヴァイオレットの背後で、相談を持ちかけてきたクラスメートが小さく息を呑んだ。
「あ、あの……シャーロットさん。その……お願いがありまして」
「ええ、なに?」
シャーロットはためらいなく返事をした。
クラスメートは安堵と緊張が入り混じった顔で、相談の理由を言い始める。
ヴァイオレットはその様子を見ながら、苦笑気味に肩をすくめた。
シャーロットはちらりと振り返り、わずかに目を細める。
「そうだ、ヴァイオレット、お昼、一緒に食べましょう。気になるメニューがあるのよ」
その一言に、ヴァイオレットの頬がほんのり熱くなる。




