動き出す
「きっっっっしょ」
嶺亜が最初にそれを聞いた時の第一声は、包み隠さぬ嫌悪感だった。
不機嫌を露わに機密文書である封書を机に放り投げる。
「ダメですよぉ、嶺亜さ〜ん…蒸都の成り立ちをそんな一言で…」
「あ?きしょい以外の何物でもねぇだろ。お前あれか?そっち派か?きしょ。二度と俺に口利くな。」
「そんな事言わないで下さいよぉ…!」
「………。」
F‐369の回収後、嶺亜にも開示された蒸都の真実。想像以上の内容に、自分の解釈が間違っているのかと何度も読み直したこの機密文書は嶺亜を不愉快にさせるには充分過ぎる内容だった。
「お前、この事いつから知ってた?」
「あぅ…彼が初めて兆調をした時ですからぁ…、五年程前でしょうか?」
「きしょ。」
容赦のない嶺亜の言葉に高科の眉尻がどんどん下がっていく。
「仕方ないじゃないですかぁ!私もあの時、今の嶺亜さんみたいに配属されて日が浅くて発言権も無ければ状況も分からず…」
「俺だってあいつが元々人形みたいな生き物だったらそんな気にしてねぇよ。でも…見ただろ。あれは人間だ。理由が何であれ、本人の意思に関係なく人間を人形にして良い道理はねぇ。」
F‐369が管理部の人間に楯突いた話も聞いているし、何か考えを持って“抗議”をしている。人形であればそんな事はしない。
「でもぉ…彼が居ないと、蒸都が…」
「バーカ。そんな犠牲出さねぇと成り立たない世界なんてもうその時点で終わってんだよ。」
苛立ち、机を指で何度も弾きながら考えを巡らせる。頭の硬い楊震であればまず内通者の炙り出しに躍起になるだろう。猶予が全く無いわけではない。
「高科。俺の言う条件に当て嵌まるヤツ、連れてこい。三日以内だ。」
「へ?」
「蒸都は人形じゃねぇ、人間が動かすんだよ!」




