前兆と花火と少女の闇
「何か飲みたいものある~??」
芹那さんが問いかける。
夜の帳に屋台の温い照明が照らす。
その横顔はきれいだった。
「ブラッドオレンジにしてみようかな、うん。」
「あ~、おいしそう。」
「芹那さんは??」
「私はラムネかな~、夏祭りだしねぇ。」
「あ、じゃあ、私も。なんていうか、定番って感じのが欲しいんですよね。」
「あ、わかる~。」
「おじさん、ラムネ二本頂戴!!」
「あいよ~。」
そう、定番というヤツだ。
その時の条件がそろえば欲しくなる。
不思議よね。
夏祭りなら、イカ焼きとか、ソースのにおいとか、りんご飴とか……、ラムネとか……。
ハァ……。
……私も食べ物ばかりじゃない!!
そういえば、土手でそろそろ花火だろうか。
花火が何時から打ち上げられるのかは知らないけれど、土手までの距離からそろそろだと感じる。
「……芹那さん、何か食べ物も買ってきますね。」
向かいの屋台へ、たこ焼き3人前、ゆっくり食べよう。
振り返り、芹那さんと合流する。
「おまたせしました。」
「……つっきー、いつの間に買ってきたの??」
「……へ??」
「わ、私は向かいのたこ焼き屋で、これを……。」
右手にあるビニール袋を顔の横にまで持ち上げる。
「そっか。にしては速かったね。」
「ええ。一応、芹那さんには声をかけたんですが、聞こえませんでしたか??」
「うーん、なんていうか……、そっか。」
困ったような顔のままで笑みを向ける。
「はい、ラムネ。そろそろ花火も始まりそうだし、行こっか。」
「はい。」
「あ、じゃあ、さ……。」
少し熱い。
「今度は声が聞こえなくてもいいようにさ……。」
「へ??」
「手……、繋がない??」
「……はい!!」
花火があがる。
きっとこの暑さは、祭りや夏のせいだけではないのだろうと、そういうことなのだろうと。
霧崎君……、あなたの何かによって、他人同士の干渉が、できない時間があるみたいね。
今日は夏祭りだから、大目に見てあげましょう。
でも、次は……。
空に上がって消えゆく花火、少女の瞳は暗かった。