表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/34

夜に沈む部屋

「そこは、まず、平方完成したら、簡単な形になるよ。」

「あ、もしかして、この公式にそのまま当てはまる……??」

「そうそう、これで解けたね。」


芹那さんは数学が苦手らしい。

しかし、教えていて何か変だ。

そこまで苦戦していない様子。


「本当に数学苦手なの??」

「うん、前のテストもぎりぎりでさ。」

「そうなんだ。」

「というより、つっきーが教えるのがうますぎるんじゃあ……。」

「そ、そうかな??」

「うん。公式をどうやって使うかまで教えてくれるんだもん。」


確かに、授業ではここまで細やかには教えないだろう。


「正直、最初は最初はもっと詰まると思ってたんだけど、早く終わっちゃったね。」

「これも、白夜先生のおかげですぞい。」

「そ、そうかな……、ハハハっ。」


「それじゃあ、そろそろお昼持ってくるね。」

「うん。勉強見てもらって、お昼まですまない、つっきー。」

「大丈夫。」


部屋に誰かを招くのは、家族以外では初めてかもしれない。

それでも、楽しい。

芹那さんとの会話やそこにある雰囲気がやさしく、過ごす時間が心地よい。

今も、少し鼓動が早いように気がした。


「お母さん、お昼持っていくね。」

「うん。冷蔵庫にあるわよ。作ってから10分くらいたったから、もういけるとは思うけど。」


今日のお昼は冷やし中華のようだ。

器が冷え切っている。

こういう暑い日には助かりそうだ。


「お昼食べたら、まだ勉強するの??」


麦茶をコップに注ぎながら答える。


「うん、数学が終わったところだから、次は英語か国語かな。」

「そう、家の中とはいえ、暑さには気を付けるのよ。」

「うん、ありがとう。」


おぼんに大きめのガラスの器2つ。

透明なコップも2つ。


「芹那さん、お昼の冷やし中華です。」


セミの鳴き声も今は心地よい。


「おお~、つっきーのお母さん、料理上手だね。」

「そうなのかなぁ。」


今一つ意識したことはなかった。


「盛り付けだけ見ても、かなりうまいほうだと思うけど。」

「そういうものなのかな??」


「それじゃあ、ノート片付けようか。」

「うん。」


芹那さんは、少し大きめのバッグに勉強道具を入れてきたようだった。


「さて、それじゃあ、いただきます。」

「どうぞ。お口に合うといいんだけれど……。」

「上流ムーヴですなぁ。」

「なにそれ。」


クスっと笑ってしまう。

芹那さんの口調が安定しない。

こういう話ができる相手ができてよかった。

そのあとも、芹那さんはおいしいと言いながら、冷やし中華を完食した。


「いやー、やっぱり、この暑さだと冷たいものがありがたいよ。」

「そういえば、セミの鳴き声もだいぶ前から聞いているような気がするなぁ。」

「そうかもね。」

「さて、お昼もいただいたし、続いて国語、やっちゃいましょうか。」

「そうだね。」


今日は結局、数学をおさらいしてから、国語と英語の暗記をして終わった。

夜。

少しだけ涼しい、夏の夜。

虫の声が落ち着きをもたらす。


「今日は楽しかったな。」


そう、楽しかった。

勉強をしたのだが、不思議と心苦しさはなかった。

むしろどこか元気が湧き出てくるような気さえした。


夕方、お母さんにはお礼を言った。

当然だ。

突然、友達を呼んだのに、何も言わずにお昼ご飯を作ってくれた。

自分は如何に恵まれているのかを感じていた。


「でも、今日は、それに甘えさせてもらいます。」


窓からは月光と虫の声が入り込む。

少し湿っぽい暑さが、眠りへと誘う。

布団を片方にだけ抱えこみ、静かに目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ