エピソード1:忘れられない
「拓。」
「蓮、こっち。」
拓のほうに行くと、人が倒れているのが窺えた。人盛りを抜け見てみると
楓が倒れていた。雨が、強くなる。
「楓!楓―――。」
雨にまぎれて、涙があふれてくる。無性に、大声で叫びたかった。
「なんで 楓、目を覚ましてくれよ!」
僕は、真剣だった。警察官の人の話によると、近くの道路で他の事故があ
ったらしく、救急車が間に合わなかったようだ。僕は、悔しかった。
「どうして・・・。事故なんか・・・。」
この言葉しか出てこなかった。僕は、あの日から一週間ぐらい学校に行く
ことができなかった。楓の席にある花束を見るだけで泣きたくなった。楓
はいない、この世にいない、というのが受け入れられなかった。僕の心が
拒否していたから。僕の身体が拒否していたから・・・。
昨日は天気予報で雨と言っていたくせに、曇りだったことに嬉しいよう
むかつくような感じがした。茜の問いかけに僕は、頷いた。あの時は、み
んな中一だった。今は、みんな大学生だ。楓も・・・。あの事故の前に来
たメールは今も携帯電話の中にある。
「ねえ、まだ時間あるから近くの喫茶店行かない。」
と拓が問いかけてきた。
「お、いいね。その案。」
と茜が答えた。僕は、少し焦って頷いた。喫茶店は、六年前にも楓と一緒
に行っていた近所にある通い慣れた店だ。
「連、何考え事ばっかしてるの。」
と茜が問いかけていた。
「何だっていいだろ。」
強い口調で僕は答えた。
「何よ。そんな怒らなくたっていいでしょ。楓が見てるんだからね。」
と茜が言い返してきた。僕は、何も言い返さなかった。喫茶店に着いた。
「久しぶりだな。連、拓、茜。」
とカウンターのほうから声がした。
「久しぶりです。マスター。」
と拓が大きな声で言った。マスターはまだ僕たちのことを覚えていた。
「あの・・・。」
と僕が小さな声で言った。
「はいはい、紅茶ね。」




