第69話 やっぱり銀猫さんは最強ニャンコ、ただし魔人には容赦なし
少し前、村を襲った魔獣の中にも、瘴気猪ヴェノムボアはいた。
だが、≪カリュドーンの牝猪≫は、巨大化したギンよりも、さらにデカい。
夕焼けに浮かぶそのシルエットは、もはや小山だった。
しかも今回は、ウリ坊連れのお母さんときた。
「討伐」は請け負った。けど、殺してしまうわけにはいかない。
これからも、親子仲良く森で暮らしてもらいたい。
なら、正気に戻してやるのが一番だ。
あの時の五匹の瘴気猪は、みんなギンの浄化の猫パンチで、あっさり正気に戻った。
「ギンの浄化の力に頼るしかないな」
――まかせろ!
うん。駄女神からキラキラネームを与えられた、うちの子たちの頼もしさよ!
「そうだ! イノシシを魔獣化させた瘴気の源も、なんとかしないと!」
森のイノシシ母さんを、≪カリュドーンの牝猪≫に変えたもの。
その瘴気の源は、おそらく森の中にある。
「まずは、みんなで作戦を相談しよう」
「また、魔人の仕業かもしれないな……」
カイの一言で、明日の作戦が固まった。
そうだった。影の教団。すっかり忘れてた……。
僕たちは、浄化と探索の二手に分かれることにした。
浄化担当はギン、防御担当はゲン。この二人で、母イノシシを正気に戻す。
僕は鍬を握り、リーネと一緒にウリ坊の保護に回る。
カイとポンタには、森の中で瘴気の源を探してもらう。
「この森自体は、それほど広くない」
カリスとピリカには、一応、回復役として控えていてもらう。
「一応、って何よ。このあたしをナメてんのかしら?」
カリスが、つんと顎を上げる。
「バカ勇者、私の力も知らないんじゃないの?」
主に続いて、羽虫まで目尻をつり上げる。ああ、うるさい……。
「い、いや、そうじゃなくて。女神様は、最後の砦っていうか、どーんと構えていてもらおうかと……」
「あら。そういうことなら、ここでお婆さんを守っているわ」
……お前ら主従の、そういうとこだよ。
「アタランテちゃん。アンタも本調子じゃないんだから、あたしたちとお留守番ね」
「あ、はい。分かりましたです」
うん。素直だ。
翌朝。森の入り口に着くなり、カイは木々の間へと姿を消した。
「ポンタも頼むぞ!」
「おう、まかせとけ!」
ポンタも、素早くカイのあとを追う。
僕らは、昨日と同じタマネギ畑と森の境に向かった。
「……いた」
≪カリュドーンの牝猪≫とウリ坊だ。
ギンが、魔獣めがけて突進する。
「ギン! 無茶するな!」
だが、さすがはニャンコ。
猪突猛進で突っ込んでくるイノシシ魔獣と、ぶつかる寸前。
ギンはひらりと身をひるがえし、浄化の猫パンチをお見舞いした。
ぱしん。
一発。たったの一発だ。魔獣はそのまま百メートルほど突っ走り――
ドーン!
と、倒れた。小山が倒れると、音までデカい。
ウリ坊が、倒れた母イノシシに駆け寄った。
「大丈夫。少し見ててごらん」
イノシシの体から、黒い瘴気がもやのように抜けていく。
魔獣の険しい顔も、お母さんイノシシの優しい顔に戻っていった。
「ピギッ!」
ウリ坊が、心配そうに母の顔をのぞき込む。
「ブッ……ブモッ⁉」
母イノシシが、口から魔石をころんと吐き出した。
体も一回り、どころじゃない。半分くらいに縮んでいる。
それでも、まだかなりの大物だ。
「ピギーッ!」
「ブモモッ!」
親子の鳴き声を聞いて、ようやく肩の力が抜けた。母イノシシは正気に戻り、これで「討伐」完了だ。
「魔石も確保したし、一応、完了ってことでいいよな」
そこへ、カイとポンタが探索から戻ってきた。
「魔人だ」
……やっぱり、いたのか。
「僕らの行く先々に出やがって! お前らはショッカーか? 絶妙なタイミングで絡んでくるんじゃねーよ!」
「タロウ、ショッカーって何?」
「いや……昭和の話だ。気にすんな」
カイとポンタに案内され、僕らは森の奥へ踏み込んだ。そこにいた魔人は、どうやら女性らしい。
瘴気の源めがけて、ギンの浄化パンチが炸裂する。
「うみゃあーー!」
瘴気の源は、粉々に砕け散った。
ギンさんは、魔人とその手下を、砕けた瘴気の源ごと一か所に寄せ集めた。
ざっ、ざっ。前足で地面をかく。
「あっ……」
しょーーー。
「いやあーーーっ!」
魔人の絶叫が、森じゅうに響き渡った。
「なんか、青空の下でするのが癖になっちゃってるみたいで……」
「猫ション……なかなかキツいのよね。あの匂い」
なんで天界の女神が、猫ションの攻撃力を知ってるんだ……?
「ギン様、気持ちよさそうですね!」
リーネまで……。そこ、感心するとこじゃない。
「こんな屈辱……もうお嫁に行けない……」
あーあ、泣いちゃったよ。
魔人といえど、女の子なんだな……。さすがに、ちょっと気の毒だ。
ギンさんよ。なにも「聖水」までかけて浄化しなくても……。
「ふんすっ!」
「えっ? すっきりしたかった?」
いや、浄化の光だけで十分だったよな? 後半、完全に私用だよな?
「こんな猫ション臭い連中、どうやって王都まで連行するのよ。わたし、嫌だからね!」
「お婆ちゃんにもらったタマネギで、匂いを相殺できないかな?」
「アンタ、バカなの? 相殺どころか相乗効果発揮よ!」
「確か、この近くに温泉があったわよね。まずは洗ってからよ。こんなの、そのまま連れていけないわ」
こうして僕らは、捕らえた魔人たちを連れて温泉へ寄ることになった。討伐の次は、まさかの洗浄である。
「ちょっと、バカ勇者。アンタ、何を鼻の下伸ばしてんのよ。相手は魔人よ、魔人!」




