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異相の理  作者: 赤鰯 はこぼれ
第四章 微睡の淵
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第三話 安請け合い

 特案の執務室は今日も雑然としていて、壁際の段ボールの隙間からは分厚いファイルが顔を覗かせている。いつもと変わらぬ室内。しかし、今日は異質なものが紛れ込んでいる。


 そわそわと、何処か落ち着きなくソファに腰を下ろす二足歩行の蛙。

 猫に威嚇されていた彼――名前はカワズと言っていたか――は、甘崎さんを探して自分の住処から出てきたという。甘崎さんの名前が出たからには、そのまま放置するわけにもいかない。なので、こうして特案まで彼を連れてきたわけである。

 無論、人間に危害は加えないという条件付きで、だ。


「――なるほど。濡這様の使い、か」


 事のあらましを伝え終えると、甘崎さんは小さく息を吐いた。

 カワズを遣わした“濡這様”というのは、どうやら南山区に聳える澱河山に祀られる怪異とのことだ。とどのつまり、上位――神格級の怪異である。

 かつて、甘崎さんが南山署の特案に所属していた若かりし頃――澱河山で起きた事件を担当した際に、この怪異と関わりを持ったということらしい。


「それで、濡這様は何をお望みなのかな? 人の身でも可能な依頼だと助かるのだが……」

<おい、甘崎。あまり安請け合いするでない>


 俺の肩の上に乗っていた玄が、口を挟む。

 ここ最近、玄の定位置は俺の肩の上になっているのだが、相変わらず爪が食い込んで痛い。


<怪異からの頼みなど、まともなものではなかろう>

「怪異と言っても、神の類だ。話を聞かずに使いを帰すわけにもいかない」

<ふん。どうなっても知らぬからな>

<そちらのいと尊き御方が言うのもごもっとも……。されど、これは人間にも関わりがあることなのだ。寧ろ、人間が発端とも言っていい>

<……お主、中々に話が分かる奴よの。仕方あるまい。話だけでも聞いてやろう>


 “尊き御方”と言われたのが効いたのか、玄はぱたぱたと分かりやすく尾を揺らし始める。

 ちょろすぎるぞ、この怪異。


「玄の言う通り、話を聞かせてもらおう。請け負うか否かは、その後決めさせてもらっても?」

<ええ。それは勿論、構いませぬ。では、事の起こりから――>




 ***




 事の起こり。

 それは某が日課にしている散歩の最中に起きたのでございます。

 住処としております老木の洞から枯葉の上へ降り立ち、濡這様へご挨拶を終えて、山間の河原を歩いておりました。

 その日はとても穏やかな日でありまして、某も足取り軽やかに散歩を堪能しておりました。

 しかしながら、暫く河原を進んでいるうちに、妙な物音が某の耳に飛び込んできたのです。


 木陰に身を潜めながら、某は音の方へと歩みを進めました。

 そうして、音の発する場所へとたどり着いた某は、驚愕したのでございます。


 ――そこには、数人の人間が居りました。


 甘崎殿はご存じの通り、某の住処は澱河の山間。人の立ち入りなき場所にありまして――とどのつまり、人間でいうところの“禁足地”とされる場所。

 人間の立ち入りは許されぬ地であります。


 これはいかんと思い、某は慌てて濡這様へご報告に伺ったのです。

 濡這様のお力で、人間共はこの土から追い出されたのでしょうが、問題はその後なのでございます。


 どうやら、その人間共はヤマビトらが築いた石の塔を、崩してしまっていたのです。


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