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異相の理  作者: 赤鰯 はこぼれ
第三章 わが身ひとつの 心にも
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第三話 見えない痕

 木多千区で第二の刺殺体が発見されたのは、水瀬やよいの遺体が発見されてから丁度一週間後のことだった。

 水瀬やよいの時と同様に、発見された遺体は棒状の凶器で体中をめった刺しにされていたという。

 ただし、死因は出血多量によるショック死で、時間をかけてゆっくりと体を刺され、殺害されたということが分かっている。


「――と言うわけで、今回も特案さんのお力添えをお願いしたく、参った次第なわけですよ」


 植木さんはそう言いながら、俺と御子神さんの前にいくつかの資料を置いた。

 群蜘蛛の件で一度お世話になっているが、こうして真田さん抜きで彼と会話するのは今回が初である。


「被害者の名前は不二見茜(ふじみあかね)、二十四歳。女性ですね。通行人からの通報で発見されました」

「事件内容は分かったけど、急すぎない?」


 御子神さんがペラペラと資料を捲りながら訊ねる。

 尤もな質問に、俺も植木さんの返答を待った。

 何せ、出社早々に植木さんに呼び出されて、この会議室に連れてこられたのはつい先ほどの話だ。流されるままに事件の説明を聞いていたが、あまりにも唐突――。


 御子神さんの問いに、植木さんは一瞬だけ言葉を選ぶように視線を落とした。


「……正直に言いますとね。一課に上げる前に、特案視点で一度見てもらいたかったんです」

「ふーん」


 御子神さんは相変わらずの軽い調子で相槌を打つが、資料を捲る手は止まらない。


「実は、水瀬やよいと今回の被害者には共通点がありまして――」

「……不二見茜も久我英二の浮気相手だったんですね」


 植木さんが言い終わる前に、俺は手元の資料の内容を口に出していた。


「そうなんです。なので、刑事課としても久我英二と昭子が怪しいと踏んで捜査を進めているんですが、二人にはしっかりとしたアリバイがある状況なんです」

「で、煮詰まってこちらに投げようとしてるわけだ」

「恥ずかしながら」


 植木さんは頭を掻きながら、申し訳なさそうに苦笑いする。


「刑事課の上には話は通してありますし、動くかどうかは特案の判断に任せる、と」

「なるほどねぇ」


 資料を整えながら、御子神さんはちらりとこちらに視線を寄越した。


「栗花落君、どう思う? 特案視点で」

「え、俺ですか?」


 急に話の矛先がこちらに向く。

 悪戯っぽい笑みを浮かべているところを見ると、わざと話を振ったのだろう。この人は時々、こういうことをするから困る。


「……そうですね」


 植木さんが居る手前、文句を言うわけにも言わず、俺は再び資料に視線を落とした。


「まず、単純に未だに凶器が何か分からないというのが気になりますね。あとは――」


 発見時の遺体の写真。

 直径三センチ程の棒状の凶器で体中を刺され、見るに堪えない。犯人は被害者に何らかの強い感情を抱いていたのだろうか。それとも、猟奇的な思考による犯行か――。


 そこまで考えて、俺はふと写真の中に違和感を覚えた。

 資料を手に取り、その違和感を辿る。


 不二見茜の遺体の手首を一周するようにして、薄っすらと痣のような痕が残っている。いや、どちらかというと入れ墨のようにも見える。

 それはまるで、縄で縛られたような――。


「あの、植木さん」

「どうしました?」

「この手首の痕なんですけど、被害者は縛られた状態で発見されたのでしょうか?」

「え?」


 植木さんはきょとんとした顔で俺を見る。


「ほら、ここ。手首に痕があるので」

「……いや、痕なんてどこにも……」


 手元の写真を見ながら、植木さんが困惑したような声を上げた。俺もそんな様子の彼に困惑する。

 確かに写真には痕が写っている。薄いが、見えない程薄いものでもない。


 つまり、”俺には視えていて、植木さんには視えないもの”――。


 御子神さんを見やると、無駄にウインクをされた。多分、この人にもこの痕が視えているのだろう。


「すみません。光の加減でそう見えただけだったかもしれないです……」

「もしかして、栗花落さんもお疲れですか? 俺も徹夜続きだと資料の文字が二重に見えたりするんで」

「……植木さんほどではないですよ」


 適当に誤魔化すと、植木さんは疲れた顔で笑っていた。

 本当に毎日お疲れ様です……。


「遺体は発見時、縛られたりはしてなかったですよ。俺も遺体を見ましたけど、そういった痕はなかったと思います」

「――現時点では何とも言い難いですが、特案も捜査に加わることになりそうかと。持ち帰って上に確認します」

「え、いいんですか?」


 植木さんは驚いたように目を瞬く。


「まあ、刑事課の範疇って可能性もまだ捨てきれないから、継続して被害者の身辺を洗って欲しいけど、こっちはこっちで噛んでみるのがいいかもね」


 俺の代わりに御子神さんがそういうと、植木さんはほっと肩を撫で下ろした。


「それは助かります。真田さんにも、その旨伝えておきます。必要な情報があれば、そちらに投げますんで声かけてください」

「あと、もう一人の浮気相手――北潟幸恵(きたかたさちえ)だっけ。張り込みとかしてるの?」

「はい。一応、何人か刑事を張り込ませているので、何か動きがあれば対応できるかと」

「はいはい。んじゃ、まあ、この件についてはそういうことで」


 御子神さんが席を立つ。

 俺も植木さんに会釈しつつ立ち上がり、そのままの流れで会議室を後にした。


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