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37話 コージー村はいつも

 事件が解決してから1週間がたった。


 私とクラリッサ、プラムは役所に向かっていた。

 何と今回の事件解決の功労者として表彰される事になったのだ。


 あれからイザベラとリベアルが捕まった。時を同じくして王都でニムロデも警察に捕まった。ニムロデは、泥棒集団の中でも古株のようで、15年前のアハブの死にも関与しているとみられている。新聞の報道ではそう書かれていてた。芋づる式に王都にいる泥棒集団も捕まったそうだ。ニムロデは持っていたクラリッサのティアラやダニエルのお金も無事戻ってきた。責任を感じていたプラムやメイジーもこれで一安心といったところだろう。


 アハブが隠したお宝もプラムが暗号を解き元に戻ってきた。中には、15年前ジェイクの家から盗まれた指輪も発見され、彼もとても喜んでいた。戻ってきた指輪をもってしばらく王都に出かけている。そういえばジェイクは一年中休みがなく働いていたので、グッドタイミングに訪れた春のバカンスといったところだろう。


 プラムによるとアハブが隠した宝は村のあちこちにあったそうだ。中には、教会の庭に隠されているのもあった。あの日、プラムは、そこを掘り返していた時に牧師さんと合流し、二人とも嫌な予感がすると発掘場近くの森に向かったそうだ。その予感は的中し、私とクラリッサは命拾いしたわけである。つくづく運の良い事だったが、それだけではなかった。


 プラムが探し当てたお宝は、もう時間がかなり経っているので持ち主が不明のものばかり。結局村に寄付される事になり、郷土資料館や村役場の予算の一部になった。長く貧乏状態だった村であるが、このお陰でしばらくゆとりも出来たそうで、私達もその功績を認められて、役場で表彰される事になった。


 役場の一番大きなホールが会場だ。


 村長や村役場の面々はもちろん、野次馬なのかリリーやアナも見学している。おめでたムードが漂い、みんな笑顔だった。


「嬉しいわぁ!」


 クラリッサは大興奮だった。犯人に殺されかけたのに、ちっともダメージを受けていないどころかハイテンションでダニエルから賞状をもらうとピースサインまで浮かべている。


 こんなクラリッサにさすがのプラムも恥ずかしくなったのか、身を縮めている。私もこんなの目立つ結果になるとは思わず、顔が赤くなる思いだった。


 賞状を貰うとすぐに筒にしまい、会場の隅でいく。クラリッサはみんなに取り囲まれ、堂々と「私が事件を解いた!」と笑っていたが、そこまで私は堂々と出来ない。むしろ恥ずかしい。自己アピール下手な日本人らしさが発揮されている。


「マスミ、何してるのよ?」


 マリーがやってきて話しかけてきた。相変わらず脚は悪いようだが、いつもぼ気に強そうな表情は隠せていない。


「いえ、ちょっと騒がしいのは恥ずかしいし」


 私はチラリと騒いでいるクラリッサやダニエル、リリーやアナの姿をみる。プラムも彼らに引っ張られて輪の中にいた。


「それもそうねぇ。でも事件が解決してよかったわ」


 マリーも苦笑しながら、騒がしい方を見る。


「本当に事件解決?」


 なぜかそんな台詞がポロッと溢れてしまった。事件が解決してハッピーエンドであるのに、もう一つの謎は依然として解決していないからだろう。


「まあ、本当にマスミが知らなくて良い事もあるのよ」

「そうかしら」

「そうよ。今は事件が解決したんだから、素直に喜びましょうよ」


 マリーはそう言って、笑いながら騒がしい方へ行く。

 脚を引きずりながら歩いていくマリーの後姿を見ながら、やっぱり事件は本当の解消したのだと思ったが、スッキリと晴れた気分にはなれなくなってきた。


 いつも通りの騒がしい村の女性陣を眺めながら、やっぱりこの世界の謎がひっかかる。


 私はひっそりとこの騒がしい役所を後にし、図書館の向かった。


「聞いたわよ、マスミ。また事件を解決したのね」


 図書館は司書のジャスミン以外誰も居なかった。


「ええ。ジャスミン、やっぱりこの世界は夢?」


 私は、ジャスミンの顔をまじまじと見ながら言う。

 ジャスミンは、元いた世界でもどこかで会った事のあるような気がした。


 ジャスミンの第一印象は、「同業者かもしれない」だった。そういえば、元いた世界の職場の同僚であるアメリカ人英語教師にそっくりな人物がいた事思い出した。


 その教師も「ジャスミン」という名前。ただ、日本の生活が居心地が悪かったのか、理由は不明だが半年ぐらいで仕事をやめ、アメリカに帰っていた。あまりあちらの世界の「ジャスミン」とは、接点もなくすっかり忘れていたが、やっぱり似ている。


 これは単なる偶然だろうか?


「夢かもしれないわね」


 ジャスミンは、淡く笑っていた。いつもの知的そうな雰囲気は消している。幼く見えるほどの優しい笑い方だった。


「でもね、マスミセンセイ」

「マスミセンセイ?」


 なぜジャスミンが、「センセイ」などと日本語で呼んでいるのだろうか。これだとまるで本当にあちらの世界の「ジャスミン」に見えてしまう。


「人間って弱いのよ。神様じゃないのよ」

「ええ…」


 クラリッサも前に似たような事を言っていた事を思い出す。今回に事件の犯人達のようにあんな泥棒には手を染めないにしても、コリンのように誘惑に負けてしまう事は十分あり得る事だろうと感じる。自分だって品行方正ではない。


「人間ってあんまりにも辛い事があると、現実逃避してしまうの。私も夫が事件の犯人だったってわかった頃の記憶はあんまり無いの。あまりにも辛くてね」


 ジャスミンの気持ちもわかってしまう。自分だって現実をそのまま直視できるほど強い人間だとはいえなかった。


「だから、本当に辛い時は夢をちょっと見るぐらいなら仕方ない。コージー村はいつも変わらずあるわ。辛い時だけ逃げに来ても良いのよ」


 ジャスミンの話を聞きながら、私は何故か涙が出そうになってきた。


 理由はわからないが、「寂しい」とか「儚い」とか英語にしにくい言葉が頭の中に浮かんでは消える。


 この世界の謎はもうどうでも良くなってきた。何か自分は、現実を直視していない問題がある。


 何か思い出さなければならない問題があるのに、見て見ぬフリをしている自分に気づきはじめた。


「ありがとう、ジャスミン」

「ええ。またね、マスミセンセイ」


 別れの挨拶をジャスミンと交わし、握手もし軽くハグもした。


 またと言っても、もうそれは無いような気がしていた。


 別れの時は迫っているようだった。

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