第一章 タイムペッパーショップ
※ 本書はフィクションです。登場する人物、事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※ 本作の原文は台湾華語であり、著者自身によって執筆された手書き作品です(総文字数約8万字)。
※ 本日本語訳は Gemini(AI)を活用して翻訳されたものであり、手動による翻訳ではありません。
「こんな話、笑われちゃうかもしれないけどさ。青春のキャンパスラブコメなんて一度も経験したことがない人間が、青春ラブコメを書こうとしてるんだよね」僕は苦笑しながら言った。
「だったら、少しアイデアでも出してあげようか?」向かいの席に座る彼女がそう提案してくれた。
「ううん、いいよ。これは僕自身の作品だし、どうせ全部フィクションなんだから」僕は自分の鼻を少し掻いた。
「じゃあ、作品を楽しみにしてるね。自称・文章表現者の施さん」
そう、僕の苗字は施。これは僕の新しい創作作品で、今回は8万字から10万字の長編に挑戦する予定だ。少し難しそうに聞こえるけれど、チャレンジしたことがないわけじゃない。
必死に眠り、必死に夢を見て、ようやく掴み取ったテーマなんだ。だから努力して、この夢の続きを紡いでいかなきゃいけない。
彼女から手渡された引き出物のクッキー箱(喜餅)を受け取り、僕の胸の中は少し複雑な感情で満たされていた。彼女の結婚を心から祝福しながらも、心の一角では「どうしてあの時、僕じゃなかったんだろう」と考えてしまう。
彼女は僕が十数年間ずっと片思いしていた女の子だ。一度だけ告白したけれど優しく断られ、それからずっと「ただの友達」という位置に留まり続けてきた。
もしあの時、諦めずに何度も食い下がって告白していたら、結果は違っていたのだろうか?
だけど僕はただ、引き際を知っていただけだ。ストーカーやセクハラ加害者のように、しつこく追いかけ回したくなかった。
……それも、自分への言い訳に過ぎないのかもしれない。だって僕には秀でたものなんて一つもなくて、何ひとつとして平均値にすら届いていないのだから。ましてや「重度のうつ病」という、大きな減点対象まで抱えている。
もう一度彼女に「結婚おめでとう」と伝えてから、僕はカフェを後にした。
きっとこれが、僕たちの人生が交差する最後の瞬間なのだろう。
しばらく道端で躊躇った末、僕は「タイムペッパーショップ」を訪ねることにした。
スクーターを走らせてたどり着いたのは、あまり目立たない店舗の前だった。外観はどこか新しいものの、店内に置かれている商品は至ってシンプル——ただの「紙の帯」だけだ。
看板には「タイムペッパーショップ」と書かれている。これは僕たちの時代に存在する特殊な物品だ。タイムペッパーは各国政府によって統一発行・印刷されており、専門店でのみ販売されている。購入者は全員、誓約書にサインしなければならない。「必ず使用すること」「買い占めや転売をしないこと」「いかなる理由があっても撤回しないこと」を約束するために。
それは幅5センチ、長さ100センチの一条の紙で、価格は1万元。
一見するとただの平凡な紙切れだが、人を時空の壁を超えさせ、過去へと戻して別の世界線へと歩ませることができる唯一の方法なのだ。
別の世界線へ移るということは、そこがまったくランダムな「過去の時代」になることを意味している。その世界線にはタイムペッパーを売る店が存在しないかもしれないし、そもそもタイムペッパーという概念すら存在しない可能性もある。だから実際に買って使う人はごくわずかだ。今の生活に満足している人も少なくないが、それ以上に「過去へ戻ること」を恐れる人が大半だからだ。
なお、過去へ戻ることを選んだ人間に対しては、AIとロボットによって新しい「自分」が生成され、この世界線に残留する。そのAIロボットは個人の性格や特質をすべて継承し、この世界線でそのまま生き続けていくのだ。
僕はタイムペッパーを一枚手に取り、じっくりと表面を観察した。そこにはただ「中華民国中央印刷廠印刷」とだけ印字されていて、特別な装飾は何もない。この一枚の紙が自分を過去へと連れて行ってくれるとは、にわかには信じがたかった。
「長期的な統計によると、生涯で交通事故に遭う確率は非常に高く、中でもスクーター関連の事故が全体の6割以上を占めているそうです」店主のおじいさんが、僕に向かって語りかけてきた。
「AIが私に教えてくれたデータですよ。これでも本当に過去に戻りたいのですか? たとえ今、死の災厄を免れていたとしても、別の時代では死の運命に直面するかもしれません」この店の店主たちの仕事は、タイムペッパーを売ることではなく、むしろ客を説得して購入を思いとどまらせ、取り返しのつかない結末を防ぐことにある。
そのため、タイムペッパーショップの店主になるには国家試験と面接をパスし、店主として適性があると認定されなければならないのだ。
「僕ですね……今の自分がどうしても好きになれなくて。過去に戻って、自分の人生をやり直したい(修正したい)んです」
「今の人生に不満があるのですか? これだけの年齢まで無事に生きてこられたというのに、まだ満足できないとおっしゃるのですか? 欲張りすぎるのは良くありませんよ」
「正直に言えば、今の生活にもそれなりに満足はしているんです。ただ……このうつ病にずっと苦しめられ続けるのが、たまらなく嫌で」
「うつ病ですか……。ですが、過去に戻ったところで病気が治るわけではありませんよ。それなのにどうして過去に戻りたがるのですか? 同じ痛みをもう一度味わうことになるというのに」
「僕……僕にもうまく理由は説明できないんです。ただ……今の自分がなんだか本当の自分じゃない気がして。まるで道を間違えてしまったみたいで。それに今は『お財布も空っぽで、進むも退くもにっちもさっちもいかない』状態なんです。仕事も見つからないし、お金もない」
「ご存知かと思いますが、タイムペッパーを使ったからといって宝くじに当たるわけではありませんし、株を買っても儲かる保証はありませんよ?」
「ええ、分かっています。すべてがランダムになってしまうんですよね……」
「なら、なぜそこまで過去へ戻ることに執着するのですか? いっそのこと、タイムペッパーショップの店主試験を受けて職を得るという道もありますよ。お若いのに弁が立つようですし、考え方を変えれば、この職種はあなたにぴったりかもしれません」
なぜだか、本当の理由を口にすることができなかった。本当はもう一度、キャンパスライフ(学校生活)というものを体験してみたかったのだ。僕の記憶の奥底へと追いやられ、二度と思い出せなくなってしまったあの頃の記憶を。
「それに、あなたが向かうその時代にタイムペッパーが売られているとは限りません。今よりもっと惨めな生活に転落してしまう可能性だってあるのですよ」
「再びタイムペッパーを手に入れられるなんて高望みはしていません。ただ、この一枚をちぎり続けていけるなら、それで満足なんです」
タイムペッパーの使用方法は、紙を一定の割合で破り捨てることで、その割合に応じた過去の時点へと遡るというものだ。破り続ければどこまでも遡ることができるが、あまりに破りすぎるとどんどん前の時代に戻ってしまい、最終的には受精卵の時点まで戻ってしまうことすらあり得る。
「台湾に生まれてくる確率はおよそ0.29%に過ぎません。これは生まれ変わりシミュレーターによる計算データで、AIが教えてくれたことです」
「はは、大丈夫ですよ。そんなに遠い過去まで戻るつもりはありません……たぶん」正直なところ、自分でもどれくらい過去に戻るのかは分かっていなかった。一度使ってみてバッドエンドを迎えたら、間違いなく二度目を破り捨てることになるだろうから。
「……もしかして、あなた様は今、お幸せではないのですか?」店主は悲しげな眼差しで僕を見つめた。その視線が僕の心の奥底を抉り出したかのように、視界が涙で滲んでいく。
「そんなこと……ありません。僕は……今、幸せですよ」僕は少ししゃくりあげながら答えた。
「それほど幸せにお過ごしなら、どうしてこのまま生きていかないのですか? 生きてさえいれば、きっと良いことがあります。これまで辛いことばかりだったかもしれませんね。本当にお疲れ様でした」
堪えきれず、瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。自分がこの人生で幸せであったと同時に、酷く不幸であったことも知っている。僕にはもう高校や大学時代の思い出が残っていない。それはつまり、高校時代からずっと苦しい思いをし続け、現在に至るまで二十年間も苦痛の中で生きてきたということだ。
「ああ、泣かないでくださいな。これまでずいぶんと険しい道を歩んでこられたのでしょうね。けれど、タイムペッパーは現在の問題を解決してはくれません。過去に戻ったとしても、あなたはそのうつ病を抱えたまま、今日までやり直さなければならないのですから」
「こんな病気なんて無ければよかったのに……。どうしてテクノロジーは人を過去に送ることができるのに、この病気を根治させることはできないんですか?」
「私にも……私にも分かりかねます。ですが、せっかくここまで耐え抜いて来られたのです。どうか過去に戻って、もう一度自分を苛むような真似はなさらないでください」
店主の言葉は僕の決意を揺さぶった。本当なら、格好良く店に入り、格好良く棚からタイムペッパーを取り出し、格好良く誓約書にサインして、格好良く半分に破り捨てるつもりだったのに。
「だけど、ここで僕が諦めてしまったら、物語が先に進まなくなっちゃいますよね。だって、僕に未来のことなんて分かるはずがないんだから」
「……どなたとお話しされているのですか? たとえ別の世界線へ移ったとしても、そちらの未来で何が起こるかなど知る由もありませんよ」
「あはは、すみません、店主さん。親身になって僕を説得してくれてありがとうございます。でも、やっぱり買うことに決めました。ごめんなさい」
「若い人よ……これほど言葉を尽くしてもなお決意が変わらないのでしたら、もう引き止めはいたしません」
「ありがとうございます、店主さん」
店主はカウンターへと戻った。しかし意外なことに、タイムペッパーの決済は現金のみだった。そのため、わざわざ近くのコンビニへ走ってお金を下ろしてから戻り、ようやくこの一メートルの紙帯を買い取った。
「では、こちらの誓約書にご署名を。それと、ご使用は明日になってからにしてくださいね」
精神(意識)の転移を行うにあたり、僕は国家AIロボットセンターへ足を運び、自分の性格やうつ病のデータを新しいロボットへと複製・移植しなければならなかった。
僕は買い求めたタイムペッパーを持ち、そのまま真ん中で二つ折りにすると、半分に破り捨てた。




