15話:馴染まない刃
資料を片手に戻ってきたカルレット。
私たちの前に立つと、事情聴取の結果を話し出した。
「ラナリア・クロイルさん。あなたの身元を確認しました」
1枚の資料を差し出す。そこには、調査隊員の名簿に、簡単な経歴と、役割などが書かれている。
「この街の騎士団の調査と照らし合わせても、黒ではないだろう、というのが今の結論です」
そう言い、2枚目の資料を出してくる。
それでも、このまま、解放されることは、ないのはわかる。
「ラナリアさんは、私たちとスフェリナまで来てもらいます」
ラナリアの前に立ち、拘束されていた手を解放する。
「信じるって言いましたよね」
3枚の資料を渡される。資料に目を通すと、懸念点がまとめられていた。
その資料を読んでいると、途中で目が留まる。
「調査隊との、取引相手から生まれる危険性……」
情報のカケラを持つ可能性からだろう。危険因子の排除。
「彼が現れる可能性もありますから、暗殺を警戒することになると思います」
彼、リオネスは、悪を裁く存在だ。
ラナリアが生かされた理由は、黒と判断されていなかったからかもしれない。
つまり、餌にされる可能性が生まれる。
その時、1つの考えが浮かんだ。
リオネスに黒と判断されつつ、泳がされた可能性……。
「信じることもいいですが、それで見逃すこともあるのですよ」
そう付け加えてきたカルレットは、静かに資料を封筒に入れる。
その言葉が、頭の奥に残り続けていた。
「スフェリナまで同行してもらう理由ですが、ラナリアさんはシトルフェン領でも優秀な技術者です」
ラナリアを見ると、少しだけ、誇らしげにしている。
けれど、その奥にある感情までは読み取れなかった。
「この辺りは、権力の話も絡んできますので。
最終的な判断は、ステリファル領の中心都市、スフェリナで下されます。
……こちらで抱え続けるには、少し重すぎますので」
少しの間のあと。
「出立は明日の朝にしますけど、リズウェルさんの剣の代わりを用意しないといけませんね」
カルレットは言いながら、私の腰に携えた剣へと視線を向ける。
「酷い言い方だと捉えられるかもしれませんが、その剣はどうしますか?」
形見の剣だからと、持ち歩くわけにはいかない。
だからと、捨てるなんてできないけど、解決策が浮かばない。
「見せてもらってもいい?」
そう言ってきたラナリアに剣を渡すと、受け取り、鞘から剣を抜く。
柄をゆっくりと観察している。
「柄だけ残して、刃を交換はできるけど、どうする?」
剣が折れたのは、私が未熟だからだ。
それでも、父の意志を引き継げるのなら、願ってもいない。
「それでも、元の様にはならないし、今は応急処置だから。それは伝えておくね」
「お願いします」
迷う必要なんてない。そう思い、告げる。
私の言葉を聞き、ラナリアは、手慣れているように柄の端を見る。
「カルレットさん、私の荷物を取ってきてもらってもいいですか?」
「応急用ですが、予備の刃ならあります」
カルレットは軽く頷くと、部屋から出ていく。
少しして、大きな荷物と、布に包まれた何かを持ってくる。
荷物の中には、たくさんの道具が入っているのに、ラナリアは迷うことなく、1つの道具を手にする。
柄を固定していた金具を外し、慎重に分解していく。
わずかに軋む音とともに、折れた刃を取り出し、隣に置く。
「一応、予備の刃を持って来ました」
そう言い、カルレットは、ゆっくりと布をほどく。
現れた刃と柄を見比べ、何かを確認する。
新しい刃を手に取ると、柄に嵌め込んだ。
がたつきを確認すると、ラナリアは持ち手だろう部分に布を巻いた。
隙間を埋めるように、丁寧に。
それから、嵌め込み直し、金具を取り付け直す。
剣を鞘に収める。
「鞘と刃のサイズは、なんとか合いそうだね」
そう言い、私に渡してくる。
受け取った剣は、以前より重い。
ゆっくりと剣を抜く。それすら、重く感じる。
正面に向けて構えても、重さも、重心も、どこかズレている。
自分の剣じゃないみたいだ。
「柄まで調整しようとすれば、全部ばらさないといけないし、それが原因で壊れるかもしれない」
そう言うと、柄の構造を軽く説明してくれる。
「その隙間を誤魔化すために、布を巻いたから、応急処置ね」
そう言うラナリアの表情は、どこか楽しそうだった。
手の中の剣は、まだ自分のものじゃないように感じた。
そして、不安だけが、手の中に残る。




