11話:踏み出した一歩-後編-
快晴の空の下、街道の先を調査隊が進んでいた。
列は乱れていない。
先頭では、ラナリアと男性が、何か話しているようだった。
調査隊の進む先に、ひとりの男が立っていた。
「止まって」
ラナリアは、距離を取るよう、調査隊に指示をする。
男は、ただ立っているだけだった。でも、その距離が、まるで意味を持たないように感じる。
殺気。それを感じた時、調査隊の一人が、前に出る。
男は、合わせるように、歩き出した。
「止まれ!それ以上近づくな!」
その言葉に、男は何も答えない。
次の瞬間だった。
視界の中で、人が倒れる。
何が起きたのか、理解するよりも早く、地面に叩きつけられる音だけが響いた。
動きは見えず、結果だけが、そこにあった。
「撤退準備!」
指揮官の声が飛ぶ。
その判断は間違っていなかった。
けれど、誰かが止めなければ、全員がやられる。
――
息が苦しい。
それでも、足は止まらなかった。
街道の先、何かから逃げるように、走ってくる人たちがいた。
それは、今朝見た、調査隊の人たちだった。
間に合わなかったのかもしれない。
そう思いながら、先を見ると、倒れた人影。
その向こうで、ぶつかり合う人たちがいた。
「間に合って」
そう願い、速度を上げる。
近づくにつれ、一人、また一人と倒れていく。
怖い。でも、動く選択をしたのは、私だ。
「倒す必要はない……逃げる時間を稼げればいいんだ」
剣を握り、ゆっくりと引き抜く。
「父さん。勇気をちょうだい」
「私のせいで、誰も泣いてほしくないんだ」
集中しろ。師匠から教えてもらったことを活かせ。
私は、初めて人に向かって、剣を振り下ろした。
一気に詰まる間合い。
躊躇ない反撃が速い。
思わず半歩退がる。
捌いて、捌いて……まだ足りない。リズムを掴め。
当てなくていい、距離を保て。
目の前を、掠める剣先。風を切る音。
「生き残ることだけ考えろ」
それは突然だった。
男は両手を広げたのだ。
それを、理解できなかった。絶対的とも言える隙。
なのに、私は踏み込めなかった。
腹部に、鈍い衝撃。蹴り飛ばされる。
「くっ……」
受け身も取れず、地面に叩きつけられる。
「早く立たないと……」
そう思った時には、遅く、目の前には、剣を振り上げた男が立っていた。
「あ……」
乾いた音が響いた。2回、3回と繰り返して響く音。
男は、音のした方を向き、剣を振る。弾ける音と同時に、火花が舞う。
あの時に見た、あの光だ。
「今のうちに!」
何度も繰り返される、乾いた音に混ざり、聞こえてきた声。
体勢を取り直し、少しだけ距離を置く。
私の後ろに、ラナリアが立つ。
「次の5回で、最後だから」
手には、見たことのない、武器なのかもわからないものが握られている。
それでも、男に向かって飛んでいった光は、あの時オーランが使った信号弾に似ていた。
「あいつの顔に向けて撃つから」
そう言うと、両手を前に突き出す。
ギリギリと軋むような音がした。
金属音と同時に、乾いた音。光が男へ向かって飛んでいく。
私は、光を追いかけるように、前へ出た。
男は剣を振り、飛んできた光を弾いた。
お互いに剣を振った時だった。
パキンと、嫌な音が響いた。
手の中の剣が、軽くなった気がした。
「え?」
「避けて!」
自分でも理解できないまま、半身だけずらす。
首元に、嫌な感触が走った。
何かが切れる音がして、胸元が急に軽くなる。
服の下に隠れていた首飾りが、切れた襟元からこぼれた。
前を見るのが怖い。
殺される。
助けて。
そう思った時だった。
「その首飾り……」
剣を納める音がした。
何が起きたのか、理解できなかった。
「嬢ちゃん!」
「リズウェルさん!」
どこからか、聞き覚えのある声が聞こえた。
恐る恐る、前を見ると、男の姿はもうなかった。
「助かった……?」
気が緩んだと同時に、痛みが走る。
「見せて!」
ラナリアが、私の襟元に手をかける。
「ぎりぎり大丈夫って感じだね。止血するから、首飾り外すね」
初めての戦いは、私が理解できないまま終わった。
それでも……。
「あの時の騎士……?」
そんな気がした。




