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通学電車でトナラーから助けたクラスメイトのSSS級美少女が毎日のように俺の隣に座ってくるようになった  作者: 剃り残し


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 テスト期間。土曜の昼。俺は自室の机で数学の難問と格闘していた。


 解けない。ぜんぜん解けない。集中力が途切れ、脳がこの世の全ての拒否反応を示している。


 その時、ブブッ、と。机に置いたスマホが、静かに震えた。どうせメールかニュースの通知だろう。


 俺は、視線をノートから動かさずに、スマホの画面をタップした。


『本庄紗雪』


 心臓が跳ね上がった。


 慌てて、もう一度画面を見る。間違いじゃない。メッセージの送り主は「本庄紗雪」の四文字。しかも、通知の種類は……ビデオ通話の着信。


(ビデオ通話!?)


 パニックだ。俺は、椅子から転げ落ちそうになるのを必死にこらえた。


 え? なんで? 


 寝ぐせだらけの髪。よれよれのTシャツ。散らかった部屋。無理だ。こんな姿を本庄さんに見せるわけには……


 だが、コールは鳴り止まない。


「ど、どうしよう……」


 俺は、意を決して、「応答」ボタンをタップした。ただし、ビデオはオフのまま。


「も、もしもし!?」


 我ながら、情けない声が出た。


『あ、高崎くん。ごめん、今、平気だった?』


 スピーカーの向こうから、本庄さんの、いつもの「素」の、静かな声が聞こえた。向こうもビデオにしているが、スマートフォンを机に置いているのか、見えるのは天井だけ。


「だ、大丈夫だけど……どうしたの? 突然」


『……あのさ』


 彼女は少し言い淀んだ後、小さな声で言った。


『集中できなくて。勉強』


「え?」


『一人だと、なんか……はかどらない。だから、これで……誰か一緒だと、はかどる気がする』


「これって……通話?」


『ん。そう。ビデオ、オフでいいから。音声だけ繋げっぱなしでも。ダメかな?』


「だ、ダメじゃない! ぜんぜん! むしろ、ウェルカムです!」


『ふふっ。じゃ、よろしく』


 通話は切れない。繋がったまま、沈黙が訪れた。


(繋げっぱなし……勉強……)


 不思議な時間が始まった。


 俺はスマホをスピーカーモードにして、机の隅に置く。聞こえるのは、自分の部屋の、静かな空気と、スマホから、かすかに聞こえてくる、向こう側の気配。


 カリ、カリリ……


 本庄さんが、シャープペンを走らせる音。


 パラ……


 たぶん、教科書のページをめくる音。


 時折「……んー」という、小さな唸り声や、「ふしゅんっ」という、猫みたいなくしゃみが聞こえる。


(……繋がってる)


 こんな状況で集中できるわけがない。いや、でも、本庄さんも頑張ってるんだ。俺もやらないと。


 俺は、さっきまで憎悪の対象でしかなかった、数学の問題に再び向き合った。不思議と、さっきより頭が冴えている気がした。


 ◆


(……意外と捗るな )


 集中力は案外続いた。静かな空間に、お互いの「気配」だけが存在する奇妙な共犯関係は悪くない。むしろ、最高だ。


『……高崎くん』


 不意に本庄さんが、俺を呼んだ。


「は、はい!?」


 俺は緊張で声が裏返る。


『……ふふっ。呼んだだけ』


「えぇ……」


 なんだ、それ。心臓に悪い。俺は、再び、数学の世界に戻った。


『……高崎くん』


 まただ。


「……なに?」


 俺は、少しだけ冷静に対応した。


『……呼んだだけ』


「やっぱりね!」


『……たかさーきくん』


 今度はちょっとパターンを変えてきている。俺は、あえて無視を決め込んだ。集中、集中。


『……高崎くん、寝た?』


「起きてるよ!」


『ふふっ。やっぱり』


『高崎くん』


「呼んだだけ、でしょ!」


『……あたり』


「完全に集中力切れてるね!? いやまぁ俺もそろそろ休憩だったけどさ!」


 俺が思わずツッコミを入れると、スピーカーの向こうで、本庄さんが、楽しそうに笑う声がした。


『ん。切れちゃった。もう、やめた。勉強やめた』


「え、いいの?」


『いいのいいの……あ、高崎くん、ビデオ、オンにしていい?』


「え!? お、俺? 俺の部屋、汚いけど……」


『別に気にしないよ。じゃ、私から』


 スマホの画面が、暗転し、そして、明転した。


「……」


 俺は息を呑んだ。


 画面いっぱいに本庄さんが映っていた。いや、俺の知ってる、本庄さんじゃ、ない。


 髪はラフに後ろでまとめられていて、服装は、制服じゃなく、ゆったりめのTシャツだ。


 そして、彼女は……ベッドの上、だ。枕に顔を半分うずめている。


 寝転がりながら、スマホを持っているんだろう。


 映った瞬間、本庄さんはニッコリと微笑んだ。


 これは「素」を通り越した、「オフ」の本庄さん……!


『やっほ。高崎くん、生きてる?』


「い、生きてる……と思う……」


『ふーん……なんか、変な感じ。高崎くん、声だけなのに、同じ部屋にいるみたい』


「そっ、そうだね……」


『もう数学やだ。高崎くんは、得意?』


「いや、俺も……ていうか、本庄さん、その服……」


『ん。部屋着。見てみて。ここ、先週食べたナポリタンのシミが残ってる。意外と落ちないんだねぇ』


 本庄さんは服を引っ張ってナポリタンのシミと思しき物を見せてくる。何だか、オフを覗き見しているようで変な気持ちだ。


『……高崎くんもそろそろカメラオンにしたら?』


「あ……う、うん」


 一度椅子から立ち上がって鏡で髪の毛をチェックした後、咳払いをしながら椅子に戻りカメラをオンにする。


『ふふっ。まだ机にいたの? 高崎くんの居場所はそこじゃないよ』


 本庄さんは早く休めとばかりに俺をベッドに誘導してくる。


 言われるがまま、ベッドに移動して横になる。整えた髪の毛はすぐに乱れてしまった。


 本庄さんも横になって乱れた髪の毛を目の前から避けながら微笑む。まるでベッドの上で二人で横になって見つめ合っているみたいだ。


『なんか添い寝してるみたいだね』


「う……本庄さん、いよいよ勉強で頭おかしくなってきたんじゃない?」


 俺が同調するのはなんだか変な気がして強がってしまう。


『や、まだ大丈夫だよ。あ、そうだ。息抜きついでに私の部屋見る? ルームツアーだよ』


「え!? い、いいの!?」


『私から提案してるわけだし。やっぱダメとか言い出したら裁判所行きだよね』


 本庄さんがベッドからゆっくりと起き上がる。カメラが揺れ、外向きのカメラで彼女の一人称視点に切り替わった。


『ここが私の城です。じゃーん』


 カメラが、部屋をぐるりと映す。


 家具はモノトーンを中心に整理されていて、色使いは意外と普通。ピンクや白中心の女の子っぽい部屋を想像していたが、そうではないところがある意味本庄さんらしい。


 机は勉強用とパソコン机の2つがあるようだ。


『こっちがパソコンデスク。ここで……まあ、色々やってる』


 机の上には、パソコンと、あと、見たことない機材がいくつかある。キーボード……音楽制作用かな……?


『で、こっちが……あ』


 カメラが、ぐいっと変な方向を向いた。部屋の隅に置いてある椅子がアップになる。


 そこには、脱ぎ散らかした制服……白いポロシャツと、スカートが、ぐちゃっと乗っていた。


『わ、わ、わ! 今のナシ!』


 本庄さんが慌てた声を出す。


「完璧な本庄さんも、服、脱ぎっぱなしにするんだね」


 カメラを天井に向けながら本庄さんが「もー」と言う。


『昨日、帰ってそのまま寝ちゃってさ。もっ、もう終わり! ルームツアー終わり! 代わりにこっち。こっちはベランダで……』


 彼女が立ち上がり移動する。カメラが再び、ぐらぐらと揺れた。


 そして、一瞬。本当に、一瞬だけ。


 ベランダに干されている洗濯物が、映り込んだ。


 タオル類と一緒に、いくつかの洗濯物が、干してある。その中に明らかに女性用の下着があった。


(!!!???)


『……ん? あ……やばっ! こっちに干してたか……』


 そこでカメラがインカメに切り替わる。本庄さんは見たことがないくらいに顔を赤くしていた。


 カメラ越しに髪の毛を整えているさまがなんだかとても女の子っぽい仕草でドキドキする。


「あ、あのー……本庄さん、どうかした?」


『や、なっ……何もなかったよね?』


「うん。急に顔に変わるからびっくりしたよ」


『……ふふっ。そっかそっか。あ、見てよ、ここ。鼻の頭ー。ニキビできてさ。絶対に勉強のストレスだよね。消えるかな? ってかさ――』


 結局、二人ともベッドに横になって顔を映したまま会話が続き、この日の進捗は想定の7割しか進まなかった。


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