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通学電車でトナラーから助けたクラスメイトのSSS級美少女が毎日のように俺の隣に座ってくるようになった  作者: 剃り残し


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 憂鬱なテストが翌週に控えたこの頃、朝の時間に加えて「帰りの電車」という、いつもとは違う時間帯の新たな聖域が生まれていた。


 テスト勉強のため本庄さんも真っすぐ家に帰る毎日。自然と同じ電車になり、俺と本庄さんは今日も自然とロングシートの端とその隣に座っていた。


「……高崎くん」


「ん?」


 窓の外を流れる景色を見ていた俺に、本庄さんが、ぼそりと話しかけてきた。


「テスト勉強……どう?」


「……聞かないでほしい、かな……。特に数学」


「あ、私も。数学、たぶん、やばい」


「え、本庄さんが? 成績良いイメージだったけど……」


「や、私だって、やばい時はやばいよ」


 意外な言葉に驚く。


「……でさ」


 本庄さんが、そこで言葉を切り、少し言い淀んでいるのがわかった。


「あのさ、テスト勉強でわからないところを教え合いしない?」


「教え合い? いいけど……今ここで?」


「や、家で」


 いっ、家で!? どっちのだ!? 俺は背筋を伸ばして次の言葉を待つ。


「……だから、あのさ」


 本庄さんは、自分の膝の上で、指を組んだり、ほどいたりしている。いつもの指ドラムとはリズムもテンポも違う。


「……連絡先、交換しない?」


「……え?」


 時が止まった。


 家なのに連絡先……


「自宅学習中に分からないところを聞くってこと?」


「ん。そう。家にお招きいただいてもいいけど……多分集中できない。ベッドの下にエロ本がないかなーとか気になっちゃうから」


 本庄さんは肩をすくめて微笑んだ。いろいろと俺の考えが見透かされていたようで恥ずかしくなる。


「いつの時代の話をしてるの……スマホで――」


 いや、俺は何の話をしてるんだ!


「ん? スマホで? 使ってるサイト名くらい教えてくれてもいいよ?」


 本庄さんは俺の尻尾をつかんだとばかりにニヤニヤしながら追撃を仕掛けてきた。


「れっ、連絡先の話だったよね!?」


「ふふっ。逃げられた。ま、嫌ならテスト期間中だけでもいいから。勉強でさ、分からないところとか、写真をシェアする用に。どうかな?」


 限定的な条件が、やけに本庄さんらしいと思った。だが、そんなことはどうでもいい。


「う、うん! する! しよう!」


 我ながら、食い気味にもほどがある情けない声が出た。本庄さんは、俺のその異常な反応には触れず、少しだけほっとしたように息を吐いた。


「ん。じゃ……これ、私の」


 彼女がリュックからスマホを取り出す。その仕草だけで、緊張が走る。俺も慌ててスマホを取り出し、震える手でQRコードの画面を開いた。


 ピコン、と。軽い電子音がして、俺のスマホの画面に「本庄紗雪」という四文字と、雪だるまのアイコンが表示された。


「よろしく……っていうのも何か変だね」


「こ、こちらこそ、よろしく、お願いします……」


 本庄さんは、何事もなかったかのようにスマホをリュックにしまい、再び窓の外を眺め始めた。だが、その耳が、心なしか赤く見えるのは、西日のせいだろうか。


 会話は少なく、各々が単語帳を開いてじっと眺めていると、やがて、電車がいつもの駅に着いた。


「あ、じゃあ、また。……テスト、よろしく」


「う、うん。また明日」


 本庄さんは、それだけ言って、いつもより少しだけ早い足取りで、電車を降りて駆け足でホームの階段を登っていく。


 ホームに残された俺は、スマホの画面に表示された「本庄紗雪」の四文字を、ただ、呆然と見つめていた。


 ◆


 駅の改札を抜ける。一人になった瞬間、さっきまで必死に抑え込んでいた何かが、一気に爆発した。


「……ふっ」


 だめだ。笑いがこみ上げてくる。口元が勝手に緩んでしまう。


(やった……!)


 私は自宅に向かいながらイヤホンを耳に突っ込んだ。いつもは楽曲制作のために、参考資料として暗くて重い、どんよりしたアンビエントかマニアックなインストばかりを聴いている。でも、今日は違う。


 再生したのは、最近見つけたインディーズバンドの、サイダーみたいに爽やかなギターポップ。


(ひゃっほぅ!)


 心の中で、力強く拳を突き上げる。


(ゲットした! 高崎くんの連絡先!)


 現実でも拳を突き上げる。


 音楽に合わせてくるくると回転する。


 少しスカートが浮き上がったので慌てて抑える。


 テスト勉強のシェアなんて、我ながら完璧な口実だった。あれ以上、自然な流れがあっただろうか? いや、ない。私、天才か? 連絡先交換が科目にあったら百点じゃないか? ジャマイカ?


 これでいつでも……週末も……いや、まずは目の前のテストだ。でも、テストが終わっても、この「シェア」が終わるとは一言も言ってない。何なら消すつもりは一切ない。


 ギターの軽快なカッティングに合わせて、自然と歩くスピードが速くなる。アスファルトを蹴る足がいつもより軽い。


(ん。こういうのも悪くない)


 爽やかな音楽。浮かれた気分。私には、似合わないかもしれないけど。


 じっとしていられない。居ても立っても居られない。私は、誰もいない河川敷の道に出ると、そのまま走り出した。


「ふふっ……!」


 気分は最高。右足を追いかけるように左足が前に出て、また右足が前に出る。


 さながら有馬記念に出走する馬のようだ。それか、ハンターから必死に逃げる鹿。つまり馬鹿。


 馬鹿みたいに全速力で走る。


 ……あっ。


 浮かれすぎた足が何もないところでもつれて――


 ◆


 連絡先を交換した翌朝。いつもの始発駅で本庄さんが電車に乗り込んできた。


 彼女を盗み見ると、ある違和感に気づいた。彼女の白い膝。そこに、やけに大きなガーゼ付きの絆創膏が貼られている。


「本庄さん」


 俺は隣に座った瞬間に本庄さんに話しかけた。


「ん?」


「その膝……どうしたの?」


 本庄さんは、「あ、これ?」と、自分の膝に視線を落とした。そして、気まずそうに、ポリポリと頬をかいた。


「や、慣れないことをするもんじゃないね」


「慣れないこと?」


 転んだんだろうけど、何をしたら、そんな派手に……。


「……走った」


「走った?」


「昨日、気分が良くて。それで走った。そしたら、転んだ。前のめりに。ズシャーって。ヘッドスライディングくらい滑ったよね」


「大丈夫……でいいんだよね?」


「ん。奇跡的に。良かったよ、顔面を怪我したら私のつよつよビジュアルが台無しだった」


「本当にそうだよ……」


「や、そこは『何を言うてんねん』くらい言ってくれないと私が痛い人になっちゃう」


「けどまぁ……事実だし」


 本庄さんは「うっ」と言うと顔を赤くして天井を向いた。やっぱり大丈夫じゃなさそうだ。


「本当に大丈夫?」


「や、大丈夫。モーマンタイ。マイペンライ。ノープロブレム。ただ走ることに慣れてなかっただけだし」


「走ることに慣れてないって現代人すぎない!?」


 走ることに「慣れる」も「慣れない」もあるのか?


「や、本当にね。サバンナだと生きていけないよ。私はガゼル以下だ」


「ガゼルがどのくらいのティアにいるのか知らないけどさ……こけるほど走るってよっぽど気分が良かったんだね……っていうか勉強のストレスじゃないの?」


「や、絶対に違う。単に嬉しいから気分が良かっただけだよ」


 本庄さんは少し拗ねたように唇を尖らせて、窓の外に顔を向けた。


(嬉しくて走って転ぶって……)


 昨日、そんなに嬉しいこと、何かあったのか……? 俺の連絡先を知ったところで、本庄さんの方が成績はいいはずだから、大したことないはず……いや、そうやって少しでも点数を上げる努力をしているのか!


「本庄さんってストイックだねぇ……」


「ふふっ、何が? 絶対勘違いしてるよ、それ」


 本庄さんは首を傾げ、苦笑いしながら俺を指さした。

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