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ハレを望む  作者: 明深 昊
9章『ここにいる理由』
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6話 召喚の魔法陣

 比較的人手が薄そうな場所に転移してひたすら魔物を切り刻んでいく。そろそろアズサたちが外に出てきていると思って並行してキリトとアズサの気配を探ってみたが、さすがに街中で戦闘が行われて魔力が散乱している状態では居場所が掴めない。


『アズサ、今どこにいる? キリトと一緒だよな』


 魔法陣無しで念話を使えるかは把握していないが、アズサ分の魔力も負担すれば使えなくても返せるだろう。


『え、アクト? 今キリトと軍の近くにいるよ。この辺は人も多いからって』


 そう言われて、ぐっと軍本部の周辺へ探知を寄せる。


『……あぁ、いた。今行く』


 近くに転移すると、アクトと念話していなかったキリトが驚いて声をあげた。


「びっ……くりした、アクトか。やばいな、それ」


 魔力のことだろう。キリトらしい素直な言葉に、思わず笑ってしまう。


「ユリに二人も王都にいるって聞いて……大丈夫かなって」


「あ、ユリに会えたのか。よかった」


「うん、一度ギルドに帰ったから」


 そっかとアズサがうなずいて、平気と拳を握った。


「こんな大変なことになってるのになにもしないのは違うと思って。私だって戦えるからさ」


 キリトも同意して、頼もしい笑顔を見せる。そんなに心配する必要もなかったかなと気づいた。


「気配隠せるキリトもいるから大丈夫だろうけど、魔物の数が多いところ、強い奴がいるところには不用意に近づきすぎないこと。この状況じゃお前らも魔物もお互いの気配に気づき辛いから」


「任せとけ、アズサに怪我はさせねぇから」


 茶化すように口にしたキリトの言葉に、思わず吹き出す。


「うん、任せた。キリトも怪我するなよ」


 そう言って、二人の体に結界魔法陣を描いた。初めて三人で森へ行ったときと同じもの。しかし、その強さはそのときの比ではない。


「絶対怪我することねぇなこれ……」


 アズサもうなずいて、アクトに一歩近づいた。


「ねぇ、双風」


「うん」


 アズサに双風と呼ばれたことがどこか恥ずかしくて、苦笑いを返す。そんなアクトをよそに、アズサは優しい笑みを浮かべてアクトの頬に手を添えた。


「今、あなたは学校の英雄だよ。きっとこの街の英雄にもなる。だから大丈夫。双風は……呪いなんかじゃない」


「うん……ありがとう」


「また、学校で会おうね。みんな無事に帰ろう」


******


 王都全体を巻き込むほどの巨大な召喚陣。そんなものを実現可能にする技術には敵ながら驚かざるをえない。


 この魔法陣を稼働させている……恐らく少なくない数の術者が必ずどこかにいるはずで、その者たちをなるべく早く見つけ出して殲滅しなければならない。


 ラルクと軍の象徴的存在である中の一人、地帝は、同じ目的を持って行動を共にしていた。褐色肌のスキンヘッドにハンマーを背負う姿は、何も知らない者なら敬遠してしまう。しかし、話してみれば人当たりのいい笑顔を浮かべる男だ。


「まさか聖域を使われるとはなぁ」


 地帝がつぶやいて、ようやく破壊できると意気込み指を鳴らした。


 王都の北南には比較的人の手によって整備された森があり、聖域も存在している。王城にある聖域とこの二つの聖域を使って王都は守られていたが、逆にそれを利用されたらしい。


 北の聖域には闇帝と風帝、光帝が向かってすでに魔法陣を破壊した連絡を受けている。この召喚魔法の解析を成し遂げた水帝は恐らく特別報酬がでるだろうな、などと地帝は場違いなことを考えていた。


 この聖域を奪い返せば格段にことが進むはず。アイコンタクトを交わして一気に攻め込んだ、のだが。


「っ……!」


 そこにいたのは魔力を供給するだけのもの。聖域の柱を中心とした巨大な魔法陣の中に白い法衣を着た三十人ほどが横たわり、現れたラルクたちのことは意に介さず魔力を陣に捧げていた。


「これは」


「とにかく陣を」


 地帝がそう言って、地面の土に直接描かれた魔法陣の一部をかき消す。それでは効果がなく、魔法で地面を大きく掘り返した。横たわる彼らも巻き込まれるが、抵抗する様子は見せない。一切動かないのを見て、二人はようやくそれが人形だと気づいた。


 魔法陣がその形を失い、王都を包んでいた禍々しい魔力が消えていく。ひとまずこれ以上の魔物の増加を防ぐことができたことに安堵するが、人形の不気味さに素直に喜べずにいた。


「なんだこの人形……」


「人なら生け捕りにして尋問するなりできたんだが」


「これじゃ敵のことも目的もわからずじまいだな」


 とりあえず一体は地帝が解析のために軍へ持ち帰ることになり、他の人形はラルクが全て焼き尽くした。


 疑問は残るが、目の前の問題がまだ片付いていない。考えていても今は何もわからないし、時間の無駄だ。


「まずは魔物の殲滅だな……」


「いや、ラルクさんは休んだ方が。ずっと戦ったりギルドで指揮をとったりしてるだろ」


 休むべきというのは主観的に見ても正論で、ぐうの音も出ない。既に熱も出てきているし、長期的に見たら仮眠を取った方がむしろ効率が良いだろう。途中二時間は休憩していたが、それでも六時間以上気を詰めていると無理もきかなくなってくる。


「……すまない、お言葉に甘える。地帝は平気なのか?」


「俺も少し休憩もらうつもりだ。魔法陣壊したんだ。俺らが休んだところで誰も文句は言わねえよ」


 その言葉に、思わずそれもそうだと笑ってしまった。


 軍の結界の手前まで転移で移動し、地帝が話を通して空き室を貸してくれる。


「普通にギルドに戻ればよかったんだが……」


「軍にとって幻光さんはそれだけ重要な人ってことだよ。実際今回もギルドには助けられてるしな。それともギルドにいた方が良ければ送るけど」


 歳自体はラルクの方が上なのだが、立場は地帝が上。とはいえお互い気楽な口調の方が接しやすく、ラルクにとっては帝の中でも特に気の合う人物。


 だからこそ、彼が二つ名で呼ぶということはそれが嘘偽りないことだとわからせてくれる。


「いや、ギルドはもう各自の判断で動いてもらってるから問題ない」


 そう言うと、さすがだなと地帝は微笑んだ。


「ゆっくり休んでくれ。なにかあったら帝はこの部屋出て左に進んだ先の大部屋に誰かしらはいるから」


 ふらふらと手を振って出ていった地帝を見送り、どさりとベッドに腰掛ける。ギルドの留守を任せている者に軍で休んでいることだけ伝えて、そのまま仰向けに体を預けた。

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