侵入してみる
ハローはろーまいねーむいずうブラックドラゴン~いぇあ。
低級の魔物たちの襲撃も落ち着いてきたころ、カナレアちゃん軍は休憩もそこそこに進軍を再開していた。
ギリギリ死傷者は出なかったけど、そこそこの重傷者は出たらしく、どうするのかなと見守っていたらカナレアちゃんが回復系の魔法を適当に使っていた。
ただ本当に適当と言うかやる気がない感じだったので、魔物との戦いの傷が完全に癒えたものなどおらず、大なり小なり人間さんたちは消耗している中で進軍が再開されてしまってびっくり。
「…だいじょうぶなの?」
とさすがに心配になって聞いてみたけれど、「大丈夫ー」という答えしか返ってはこなくて…それ以上口を出すのも違う気がしたので私も良しとした。
正直この銀神領の皆々様方がどうなろうと私の管轄ではないので何かしようとは思ってない…と言うのもある。
死んでしまうのは他人であれあまりよくはないと思うけれど、住む場所が変われば生活に価値観に想い…そんなものは変わるのだ。
私だって森に住んでいたころにネムを育てていたころ、そして黒神領に落ち着いたころとでそう言うのは変化しているのを実感した。
だから余所者である私が、私のあずかり知らないところ、目的の範囲外である部分に干渉するべきではないと思うのよね。
最後に住んでいた森に移住した時にも母に口を酸っぱくして言われたのだ。
文化など少し離れただけで変わるのだから外から来たものが一方的に押し付けるものではないと。
だから人間さんたちがいくらピンチになろうと、私に関係がないのならスルーだ。
ただもちろん私にだって最低限のラインがあるので条件次第では手を出しますよ?具体的に言うと知り合いに何かが起こりそうな時だ。
妹は当然として短いとはいえここまで一緒にいるカナレアちゃんに身に危険が及びそうだったのなら行動をする。
「まぁそんなことにはならなそうだけどねぇ~」
人間さんたちの中で一番強そうなのが妹には手も足も出なさそうな感じの強さで、それ位の強さの人間と互角に戦争している魔族たちも相対的に脅威ではないと思うし、妹は大丈夫。
カナレアちゃんは…正直よくわかんない。
回復の魔法は私も少しビックリするくらいの実力だし、それ以外にも力を隠していそうな感じで…うーん…ちょっと強さが読みにくい。
しかし結論は不測の事態が起こらなければ大丈夫でしょうという事でおっけーとする。
そして不測の事態なんてそうそう起こりはしないので大丈夫!がっはっはっはー。
「なぁに一人でぶつぶつ言ってんだぁー怖いぞー」
「あら失礼あそばせ」
カナレアちゃんは私を背負って移動しているので確かに耳元でぶつぶつ言われたら気になってしまうかもしれない。
静かにしていよう。
しかしおやつもないし、暇なのでなんとなく周囲の景色を見ていたのだけど、ちょっと不思議なことがあった。
「ん、あれ?カナレアちゃんー。あっちの道の方が広いけどこっちからいくのん?」
どう見ても進軍しやすそうな道が隣にあったのに、カナレアちゃんはわざわざ通りにくそうな狭い道を通っていくのが気になった。
「おー広い道をわざわざ通って行ったら向こうに見つかるかもしれないだろー」
「…でもこっちも道ではあるよ?」
隠れるというのなら大変だけどそれこそ獣道などを通ればいいのに、あくまで進んでいるのは舗装されている道だ。
ならば広さはそこまで気にする要素なのだろうか…いや、たしかに狭いほうが広い方よりは相手の意識が向いてない可能性もあるけど…なんとなく釈然としない。
「…はぁ~めんどくさいことに気づきやがってーちびっこのくせにー。道を通っているのはどうでもいいんだよー。ただ向こうの道は銀聖域に繋がってるからな―。いろいろと不都合があるんだよっ」
「銀聖域…」
なるほど?つまり今向こうの道を行けば私たちの目的の場所と思わしきその場所に行けると。
…
……
………
…………
……………行くか。
身体にくくられていた縄を解き、ぴょんとカナレアちゃんの背中から飛び降りる。
そしてすかさず広い道に向かってスーパードラゴンダッシュ!
「んな!?おい!ちびっこ!なにしてんだー!どこにいくつもりだー!こらー!」
背後からの叫び声をひとまず無視しつつとにかく走る。
すぐに戻る(予定)だからごめんよー!
とりあえず振り返って手だけ振っておく。
その時にカナレアちゃんが慌てた様子の人間さんたちに声をかけられて、これまたなにか驚いているような表情をしていたのが気になったけど…ひとまずはこのまま銀聖域を目指す。
しかし道の先がつながっていると聞いただけで詳しいことは分からないのでどうしようとハイパードラゴンダッシュをしながら悩んだけど、そんな必要はないくらいその場所は分かりやすかった。
大きな祭壇に囲まれた静かな場所…明らかにここだけ空気が澄んでいる。
まるで不純物のすべてが弾き飛ばされているかのようだ。
「おお~ここが銀聖域かなぁ~?おーい銀龍さんいますか~?」
まだ龍かはわからないけど、この感じは何かがいる。
私の中の野生ドラゴンセンサーがそう告げているのだ。
そして祭壇を辿るように歩いていると不意に薄い壁のようなものがあった。
よく見てみるとぐるっと円形状に周囲を覆っているようでどうやら結界の類らしいのが分かった。
「にゃるほど…この先が銀聖域だな?…よしっ!おじゃましまーす」
壁があるのなら危ないので乗り越えようとはするな。
殴って穴をあけろとは母の教え。
ひとまずどれほどの強度なのかと結界にぶつかってみたのだけど…それに触れた瞬間に私の中から熱意のようなものが消えるのが分かった。
…別に今頑張ってこの向こうに行かなくてもいいんじゃないか?むしろ迷惑かもだしやめた方がいい。
そんなことを考えてしまう。
でも結界から数歩離れるとなんでそんなことを考えたのかもわからなくなって…。
「なるほど…そういうやつね」
物理的に強い結界ではなく、メンタルにくるタイプの奴だ。
これは厄介だぞ…正直私の専門外だ。
さてどうしたものか…。
うーんと頭を悩ませてみたもののいい案が浮かぶわけもなく…カナレアちゃんのところに戻ろうと視線をずらした時だった。
私はそれを見つけた。
「果物…」
結界の向こう側に生えている木においしそうな果実が実っているのだ。
ぐぅ~と私のお腹が果物を求めて鳴り響く。
状況も状況だったので満足に食事ができていない私の空腹感はそこそこ限界…お腹が空いている。
そして目の前にはおいしそうな果物が。
行かないはずがない。
「とう!!」
私は欲望のままに飛び上がり、結界を通り抜けて木に登り、果物ゲットした。
「わーい、いただきまぁす」
基本的に皮は剝かないのが私流。
服で軽く汚れを拭ってから果物にかぶりつく。
口に広がったのはねっとりとした甘さだった。
しゃくっとしててみずみずしいタイプではなく、果肉が柔らかくてどっしりとしているタイプだ。
噛めば噛むほど中にある重たい甘みが口の中に広がっていく…これはすごい糖度だ。
疲れた体に甘さが循環していく。
適度に咀嚼して飲み込むとそれまであった甘みは後を残さず綺麗に過ぎ去って行った。
ほほう…すっごく甘いのに口の残らず後味はさっぱり…これはおいしい!果物ソムリエのドラゴン級を所持している私が点数をつけるのなら120点くらいになる代物だ。
「もぐもぐ…これはいいご当地スイーツを見つけてしまったなぁ~…ってあれ?」
そこで私は知らないうちに結界を越えていることに気が付いた。
どうやら私の食に対する想いが結界の拒絶を上回ってしまったらしい。
「えぇ~?そんなことある?そんなんじゃ誰でも突破できるじゃん」
お腹の空かない生き物なんていないのだ。
ご飯が嫌いな生命体なんて存在しないのだ。
つまり誰でも突破できるじゃんね?
「…まぁいいや。入れたのなら探索しましょう~そうしましょ~。銀龍さんいるといいなぁ~」
私は迷惑にならない程度に果物を収穫し、銀聖域の探索を開始したのだった。
超フリースタイルドラゴン。




