お邪魔してみる
果物片手にひとまず前に進んでみている今日この頃。皆様はいかがお過ごしでしょうか?
私は前が見えなくて大変です。
と言いますのも相変わらずずっと雪が降り続けているのだけど、銀聖域に入ってから思いのほか積もっていると言いますか…見た感じではまっすぐ平坦な道が続いているようだったのだけどいざ進んでみるとあら大変。
どうやら緩やかに下り坂になっていたようで、それが平坦に見えていたという事はつまり、それだけ前に進むほど雪が積もっているという事。
そうなるとどうでしょう?私のミニマムボディーは進むたびに雪の中に埋まっていき、今では辛うじて頭頂部だけ外に出ているだけになってしまいました。
まぁだからと言って不都合は特にないのでそのまま前進。
果物も食べてちょっと元気なので力づくで雪を押しのけながら進んでいるのですよ。
良い子は真似しないでね。
ドラゴンとの約束。
しかしどうしたものかなこれは。
このまま雪の中を彷徨っても前が見えないので何にもならないし…飛んでみてもいいけどまたお腹がすいちゃうんだよねぇ~…いやでも飛ぶしかないよね…また果物とかあるだろうか?
でもなんというか先ほどはお腹がすきすぎて不可抗力だったけど、ここは神様のお家の可能性があるのだ。
人の庭に勝手に入って食べ物を勝手に食べまくるのはどうなのだろうか?という極めて常識的な思考が働いているのでこの行く手を阻む雪も食べずに払いのけているわけなのですが…。
んー…なんて悩んでても何も変わらない。
もう数十メートルほど進んだら頭も完全に埋まって移動がめんどくさくなってしまいそうなので飛ぼう。
そう決心して魔力を操り、魔素の翼を作ろうとした時だった。
「んみゅ?」
なんか頭に圧力を感じる。
こう…前と後ろから何かに挟まれてじんわりと締め上げられてる気がする。
なんだなんだ?と思っているとそのまま私のミニマムボディーが一気に雪の中から引っこ抜かれる。
あまりに勢いが良すぎて空中に投げ出されて、雪と共に自由落下を始めてそれの正体が分かった。
でっかい熊みたいな魔物が下にいて大口をあげている。
たぶんあの子に頭を噛まれて引っこ抜かれ…そしてそのまま食べられようとしているわけだ。
ふむふむ…なるほど?いや、これは渡りに船だ。
あの子に乗せてもらえばいいのだから。
「私は食べるのは好きだけど食べられるのはまだちょっと遠慮したいな。我がままだけどね」
くるっと空中で縦に一回転して態勢を整え、口をよけて熊の顔面にへばりつく。
そして目を覗き込みながら「お願い」をする。
会話の基本は目を見ること。
母からの教えだ。
「ねーねー悪いんだけどちょっとのせってってー。だめ?」
「――――!!」
私が鼻の上にいるのにものすごい叫び声を上げられてしまってすごくうるさいし、すごく揺れる。
どうやら怒ってしまったらしい。
うんうん、なつかしいねこの感じ。
かつて私と母がうっかりミスで元々住んでいた山を燃やし尽くしてしまった後にお引っ越しをした先の山ではこういうことがよくあった。
野生を満喫している彼らにも縄張りや、カーストというものは当然あるわけで…新顔がなにでかい顔しとるんじゃわれぇと言うやつだ。
見た目が見た目だったのでさすがに母に正面から喧嘩を吹っかけてくるようなやつはほとんどいなかったが、私は逆に見た目が見た目だったのでよく絡まれてた。
その度にこの拳でよく「理解」らせていたものだ。
というわけでして拳を握りしめていざ私の4000飛んで82ある必殺の一つ。
超絶絶叫理解らせ拳を放――
「きゅぅ~ん…」
とうとしたところで熊が私を顔に乗せたまま雪の上に伏せて可愛らしい鳴き声を上げた。
どうやらちょっとだけ怖い思いをせずともわかってくれたらしい。
「思ったより聞き分けがいいねキミ。もしかして以前にもおいたしたことある?」
「きゅぅ~ん…」
一瞬ですっかり大人しくなってしまった熊くん。
野生の動物及び魔物の中にはこの子みたいにたまにやけに聞き分けのいい子がいる時があるのだけど…それは大抵自分より強いものにいたいことをされたことがある子なのだ。
見たところ上級ではないとはいえなかなか強い魔物のように見えるから、この場所には思ったよりすごいのがいるかもしれないぞ。
できればお友達になりたいな。
そんなわけで熊くんの背中に乗ってのっしのっしと雪の中を改めて進んでいく。
随分と楽になったのでありがとうの意を込めて熊くんの頭を撫でつつ、果物を一つあげた。
美味しそうに食べていたので彼とは仲良くなれそうだ。
事が済んだら黒神領に連れて帰ってもいいだろうか?…いや、こんな雪が降ってる場所で暮らしてるんだから向こうでは合わないよね。
無理に連れて帰るのもかわいそうだし、諦めよう。
「がうっ」
「お?」
ぼんやりと考え事をしながら景色を眺めていると熊くんが唐突に立ち止まった。
どうしたのかと正面を見るとなにやら古びた建物がそれまでの景観を無視して聳え立っていた。
あれだ、前に無色領でみた教会に近い建物だ。
というより教会なんだろうな。
とうぜんあちらとはデザインは違うみたいだけど。
「ここに何かあるの?」
「きゅぅ~ん…」
言葉は通じないけれど何かはあるらしい。
この先には熊くんが行こうとはしないことから、なにかが住み着いてるのかも。
「よっし、では行ってみますか~熊くんありがとうね」
「がうっ」
お礼をしてのっしのっしと帰宅していく熊くんに手を振る。
帰り道はどうしようって見送ってから気が付いたけど、さすがに自力で帰ろう。
「はい、というわけでお邪魔しまぁす」
人がいるとは思わないけど何かはいそうなので礼儀としてお邪魔しますはしておく。
教会の中は寂れてはいるけれど、思ったよりは片付いているというか…綺麗だ。
家具なんかもあるし、まるで少し前までは誰かが住んでいたような?
んー…ただどちらにせよ埃が積もったりしているのでここ数年くらいは無人なのかなぁ…?
それにしてもやけに扉が多い。
扉を開いて、また開いて…そして扉。
まるで迷路みたいだけど、長年の山暮らしで培った勘の良さを舐めないでいただきたい。
たとえ迷路のような構造の建物が相手だろうと余裕で攻略して…。
「ぶほっ」
扉を開くと外でした。
しかも開いたと同時に振動で屋根のが落ちたのか私を生き埋めにするかのような勢いで雪が落ちてきた。
なんてこったいスノーブレイク。
あわや雪だるま…いや、雪ドラゴンになるところだったよ。
山育ちが長かったせいで外に続く道を引き当ててしまったらしい。
こりゃ一本取られたわね。
気を取り直して捜索再開。
なんとキッチンを見つけてしまったが、ここの捜索を始めると間違いなく他人の家での礼儀を欠落してしまう自信があったために理性を総動員して離れた。
無我夢中で目を閉じながら逃げるようにしながら走ったために勢いあまって壁をぶち抜いてしまったけれど許してほしい。
私は頑張った。
「ん…なんだろうあれ…」
私が壁からダイナミックこんにちはをした部屋の中…明かりも入っていない薄暗いその中心に何かがあった。
あれは…ベッドだろうか?いや、違う。
なんだっけあれ…確か母の記憶に…。
あぁわかった。あれは…棺だ。
氷でできた…水晶のようなきれいな棺の中で銀髪の女の人が眠っている。
母の記憶によれば棺というものは人が死んだときに埋葬するための…死者が安らかに眠るためのベッドのようなものらしい。
ならあの中の人は…。
私は恐る恐る棺に近づいて中を覗き込んだ。
「生きてる…?」
近づいて分かった。
この女の人は生きている。
そしてもう一つ。
この綺麗な銀髪の持ち主は…間違いなく龍だ。




