もやもやしてみる
パチパチと燃えている焚火の前でカナレアちゃんと一緒に暖を取っている私こそ皆様ご存じ私です。
もはや私レベルのドラゴンになれば「私です」ですべて伝わるのよね。
威厳がありすぎるというのも困ったものだよ。
「おーい焼けたぞー」
「わーい」
カナレアちゃんから焚火でこんがりと焼かれたお肉とチーズを受け取る。
その姿はまごうことなきただの幼女だが、いくら威厳があったとしてもそんなもの腹の足しにならないのである。
三等身なめんな。
「あ!熱いから気を付け――」
「もぐもぐ…」
「なくていいのかー…口が強いなー…」
「んみゅ?」
何か言っていたようだけれど、食事中の私に話が通じるだなんて思わないで欲しい。
ご飯はすべてに優先されるのだ。
普通そうじゃない?
「それにしてもよく食べるなー。その小さな腹のどこにそんなに収まってるんだー?」
「さぁ~」
私もたまに気になるときがあるけれど、なんかこう…うまい具合に隙間に挟まったりしているのだろう。
収納上手なのだ私の胃袋は。
「ふむぅ…足りないみたいだし私ちゃんのも食べていいぞー」
「わーい」
と反射的にカナレアちゃんが持っていたお肉を受け取りそうになったが、さすがに子供から奪うような真似はできない。
私は食事が大好きだし、空腹が死ぬほど嫌いだけど、だからこそそれを他人に味わってもらいたくはないのだ。
それにこどもはたくさん食べないとだからね。
というわけで丁寧にお断りした。
「子供が遠慮するなよー」
「その言葉そっくりそのまま返すぜー。小さいのだからたくさん食べなさい!」
「私よりはるかにちびっこのくせになぁに言ってんだー」
「むむむ…」
そんな攻防を繰り広げていると少し離れたところで人間さんの大きな声が聞こえてきた。
「魔物が出たぞー!総員武器をとれ!!」
「おお?」
声に気を取られたその瞬間、カナレアちゃんにお肉を口に突っ込まれた。
完全にやられてしまった。
一度口の中に入れたモノを吐き出すのはありとあらゆる意味でダメな事なので食べるしかない。
くそう…おいちぃ…。
「わっはっはっはっ。ちびはいっぱい食べてでかくならないとだめだからなっ!いっぱいくえくえーっ!わっはっはっは」
「私のセリフなのにぃー…それはそうといかなくていいの?カナレアちゃん。なんか大変そうだよ?」
声の聞こえた方向が騒がしい。
さっきみたいな大声は聞こえていないけれど、それでも多少の怒鳴り声のようなものは聞こえるし、それに金属音というか戦っているような音が聞こえている。
これはいわゆる襲撃と言うやつなのではないでしょうか。
これは巫女様としてカナレアちゃんの出番が…。
「んー?まぁ大丈夫でしょ。ほらはやくごはんくえー」
出番がないらしい。
この騒音に全く興味を示さずにチーズを食べている。
「行かなくていいの…?」
「どうせあれだろー。野生の低級魔物に絡まれてるだけだろー大丈夫大丈夫」
「…それも結構な事なんじゃ?」
黒神領で過ごしていて分かったけれど、人間たちにとっては低級の弱い魔物でも十分な脅威だ。
私基準で対処するまでもない弱っちいのが一匹、生活圏に出てきただけで人間たちにはそこそこの大騒ぎになる。
領の皆も最近は色々頑張ってるから私が対処しなくても魔物を相手にできるようになってきてるから全くの無力と言うわけではないだろうけど大変は大変だ。
カナレアちゃん率いるカナレアちゃん軍はちゃんと武装してるし強さ的にも一番強そうな人で8分の1くもたろうくんくらいの強さはありそうだったので全く何もできないってことはないだろうけど…。
「いいんだってー。みんな戦いたくて仕方がないんだから戦争なんてしてんだぞー。少しくらい遊んでおいた方がいいってー」
「ええー…」
なんか断末魔の悲鳴みたいなのもちらほら聞こえてるけど本当にいいのだろうか。
「そんな心配そうにするなってー。いいんだよー勝手にやらせておけばー」
「…カナレアちゃんは人間さんたちの事が心配じゃないの?」
「うん。これっぽっちも」
「ええ…」
なんというか…いきなり別人になってしまったかのようにカナレアちゃんがドライだ。
本当に興味なさそうと言うか…むしろ痛い目にあってほしいとでもいいたげだといいますか…。
ちょっと打ち解けてきたと思ってたけど、急にわからなくなってきた。
だからだろうか…私は思わず聞いてしまった。
「カナレアちゃんは…何がしたいの?」
「戦争を終わらせたいんだぞー…なぁちびっこー。外から来たお前に聞いてみるけれど、なんでこの国ではずっと戦争が続いてるんだと思うー?人間と魔族がずっとごちゃごちゃやってるのはなんでかわかるか―?」
「わかんない」
そもそも意思のない低級の魔物が襲ってくるのは別としてちゃんと文明を持っている者同士争う意味が私にはよくわからない。
森にいたころはいろんな種類の魔物がなんやかんや仲良く暮らしてたし、そこに人間のネムが入ってきても大きな問題にはならなかった。
なのにここではどうしても仲良くできないらしく…その理由を問われても何もわからぬとしか言いようがないよね。
「だろー?わかんないだろー?」
「うん。ちなみになんでなの?」
「知らんっ」
まさかの答えが返ってきた。
あまりにまさか過ぎてお肉と間違えて火のついた薪を食べてしまったけれどカナレアちゃんは私のことを見てなかったのでセーフ。
「知らないの…?」
「知らんっ。というか誰も答えられないと思うぞー…いや、正確には具体的な答えは返ってこないかなぁ。たぶん「あの魔物どもが―」と「人間どもが―」としか誰も答えん」
「どういうこと?」
「だから誰も知らないんだよ。なんで戦ってるのか。ただずっと戦争なんてしてたものだから意味もなく戦ってるってわけ―。何が憎いのか、何が始まりだったのか、何が嫌で最終的にどうしたいのかって言うのも誰も答えられないくせにずっと戦ってるんだぜーバカみたいだろー?」
それが本当なら確かに馬鹿みたいだとしか言えない。
争う理由もないのに、昔からやってるからという理由でなんとなくそんなことを続けているのだとしたら…あまりにも馬鹿らしい。
わたしならめんどくさくなって寝ちゃうレベルの意味わからなさだ。
「そしてそんな馬鹿のために悲しい想いをしてる人がいるんだ。そして馬鹿に巻き込まれて死んじゃう子たちも…だから私が…私たちが全部終わらせてやるんだっ。それが私ちゃんの目的。わかるかー?」
「…なんとなく?わかったようなわからないような?」
「うんうんそれでよいそれでよい。お前のねーちゃんを巻き込んだのは悪かったって思ってるけど、それはそれとして絶対に私から離れるんじゃないぞー。この国ではな子供なんて大人の勝手で生贄にされるだけだからなー」
それを最後にカナレアちゃんは黙り込んでしまった。
この子はこの子でいろいろとあるらしい。
…そろそろ逃げ出して妹と合流しようと思ったけれど、向こうは向こうでうまくやってくれるだろうし、私は今しばらくカナレアちゃんについていくことにしたのだった。