続々・能動してみる
前回のあらすじ。
能動オブ能動。以上。
ノロちゃんを連れて屋敷を練り歩くもなかなか人に出会えない。
エンカウント率が限りなく低すぎて何も起こらないのである。
みんな忙しいのかにゃぁ…。
私が何かのアクションを起こそうとして見たところで、それを受けてくれる相手がいないんじゃどうにもならない。
能動への道のりは険しいという事ですかね。
そして数十分後。
結局誰にも会えないまま再び中庭に戻って来た。
うさタンクたちは既におらず、どこかに行ってしまったらしい。
しかし私がここにやって来たのには別の狙いがあるのですよ。
この賢さにおいてブラックドラゴン界隈で二本の指に入る私がなんの意味もなく屋敷を練り歩き、中庭まで一周してきた…なんてことがあるわけないのだ。
私が長々と時間をかけて屋敷を一周した理由…それは!!
「これだけ歩いて運動したし、ノロちゃんもそろそろお腹空いた?」
「…いえ」
作戦失敗である。
まぁ「ぜんちぜんのー」な気がしている私でもたまにはこんな日もある。
しかしここで諦める私ではない。
一度目がダメならもう一度。それでだめならもう一度。それがだめでも何度でも。
何度やってもダメなら次こそはともう一回。100回失敗したとて101回目も失敗するなんて確証はどこにもない。
物事の確率は全て二分の一。失敗か成功か。出来るまでやれば成功確率は1億パーセント。
母が言っていた我が家の家訓である。
そんなわけでノロちゃんのお腹がすくまでひたすらお散歩大作戦続行である。
うむ、この判断もまた能動。
そうしてノロちゃんの手を引き、足を踏み出したところで…。
「ん?」
「…どうか…しました、か…伴侶様…」
「今なんか…揺れなかった?」
「…いえ…私は何も…」
「そう?」
確かに私も地面を踏んだ瞬間になんか揺れた気がしないでもない?という感じたかどうかも定かではない感じなので気のせいかもしれない。
…ここは普通は気にも留めず忘れてしまう場面だろう。
だがしかし!今は違う!
今の私は雰囲気や思い込みに流されない!なぜなら能動100パーセントドラゴンだから。
ここは流さずに突き詰めることこそ能動。
いいや、アルティメット能動。
更に超えて…えー…うーん…超アルティメット能動。
少し前にアンダーソン君というつるはしを手にした奇人を目にしたばかりだし、ここは彼を参考にし、地面が揺れたものとして少し確かめてみよう。
能動…それは止まらぬという事。
能ある動は地面を穿つ。
能動──のうどぅ──のっとどぅいんぐ──のどあめ。
能動とは何か…その意味を見失いつつある気がしないでもないけれど、そんなものを気にして能動はならぬと私のハートが叫んでいる。
という訳でいざ、能動のその先へ!
────────────
油の独特な香りと耳にのしかかるような重低音が響く場所でセンドウとウツギが厚く大きなガラスを通して何かを見つめていた。
二人は何も喋らず、顔にはうっすらと汗が滲んでいるが、それを拭う事すらせずにただただガラスの向こう側で行われている何かに視線を注いでいたが…しばらくすると倒れ込むように傍にあったテーブルに身体を預ける。
同時に数秒ほどの知覚できる揺れが部屋全体を襲う。
「…また失敗だな」
「ええ…やはり行き詰ってしまってますねぇ」
「原因は分かってんだろ?」
「まぁ…しかしいくら原因がわかっていようと、それに対処するための手段がないという状況でして…試行錯誤を繰り返しているのですが中々ですねぇ…強度と柔軟性…どちらかを立てればどちらかが立たず…なんとか折衷できるといいのですがぁ…」
「なんにも出来ねぇで見学してるだけの俺が言うのもなんだが…ちょっと根を詰めすぎじゃねぇか?全体的に空気が重いぜ?」
ウツギの言う通り、この場所で作業をしている者たちの表情はどちらかと言えば暗い。
最初は良かった。
全てが手探りで…しかし確かな進歩がみられてその度に達成感を得ることができたから。
しかし一定以上に【作業】が進んでしまった現在では事情が変わってしまっていた。
センドウの知識に作業員たちの熱意、そしてソードの助力。
それらを駆使しても超えることのできない巨大な壁に当たってしまい、とにかく打ち破ろうと努力はしているが…希望の光すら見えていないと言うのが現状だ。
何度試行錯誤を繰り返してもすべてが徒労に終わり、いつの間にか目の前だけではなく、周囲を壁で囲まれているかのような閉塞感に捕らわれている。
研究者としてセンドウはそのような感覚にも「慣れ」があるが、他の協力者たちはそうではない。
このままでは何かが決定的に破綻してしまう…それは分かっているのだが、どうにもできない。
それが余計に焦りを募らせていく悪循環を形成していた。
「何か一つ…ほんの一欠けらでも希望が見えるといいのですがぁ…」
全体を統括し、計画を進めている自分でさえ見えていないものをどうやって…とセンドウは深くため息をつく。
そう、慣れを考慮してたとしてもこの場で最も行き詰っているのは他の誰でもなくセンドウ自身なのだ。
この場所で行われている【作業】はもちろん、同時に彼が抱えている二つの案件も進歩がよろしくない。
一つは【黒血薬】の改良だ。
枢機卿の使う呪骸の力に対抗することができると証明された薬はこれから先、確実に必要となってくる。
しかしその代償は大きく、センドウは前回の使用後になんとか命を拾う事が出来たが、使うたびに命を担保にする必要のある薬など論外であり、そんなものを頼りにすることは研究者としてありえない。
なんとかその大きすぎる副作用を克服したいところだが…実は黒血薬には呪骸に耐性を持つ者…つまりはメアにより提供された血液を素材に作られており、そのおかげで呪骸に対抗できるが、同時にそのせいで副作用を消すことができない。
メアの血と言う人の身体には劇物以外の何物でもないうえに、生半可な方法では力を弱めることすらできず、まさに過ぎたる力といえた。
そしてもう一つ…これもメアに関連することなのだが、彼女に託された【日記】の解読が思わしくないのだ。
【ニホンゴ】という独特な言語を用いられたそれはセンドウの知能を持ってすらやや手に余っていた。
例えばだがセンドウが少しだけ解読できたページにアップルパイの作り方が記されていた。
センドウは「りんご」という文字を解読できたのだが、その次におそらくりんごの事を書かれているであろう部分に「リンゴ」という文字が使われており、さらにその次には「林檎」と記されていたのだ。
おそらく文脈的に同じものを表した言葉であるはずなのに、こうも字面が変わっていると言うのはどういうことなのか…いつもならばもう少し柔らかく考えることもできたのかもしれないが、諸々と行き詰ってしまっているセンドウにはやや難しく、思考の中で迷宮に囚われてしまっていた。
そんなこともあり、ただでさえ不健康そうな見た目がさらに悪化しており、今は病人にすら見えてしまう。
ウツギもさすがにまずいとは考えており、色々と手を尽くしてはいるが…やはりどれもうまくいっていない。
「…なにかうまいもんでも食うか…?どっかから取り寄せて」
「…何もしないよりかは気晴らしになるかもしれませんねぇ…しかしここの全員分となればそこそこの量になりますがぁ…」
「あー…アザレアとかに怪しまれるかもしれねぇかぁ…難しいもんだぜ…。つーか、さっき結構揺れたが、上は大丈夫なんか?」
「ええ問題ありませんよぉ~防音と耐震には気を使ってますからねぇ…ここら一帯の壁には魔鉱石という特殊な素材が使われてましてねぇ…魔力を通すことで強度を高めることができるのですよぉ。しかもその効果は流した魔力の強さに依存するのです。つまりはソードさんの魔力を拝借することでかつてないほどの強固さを実現できているのですねぇ。それを計算した形に複層させ、組み合わせることで地上に音や揺れが伝わらないようにしているのですよぉ」
「ほ~?すげぇんだなぁ~…ん?つーかその魔鉱石?ってやつをアレに使えねぇのか?」
「なにぶん貴重な物ですからねぇ…私の貯蔵分とソードさんの伝手でかき集めたものなのでこの場所を作った段階でほとんど使い切ってしまいましてねぇ…」
「おおう、それは…何と言うかだなぁ…」
「ええ、おもに金神領で採れる貴重な物でして…そちらに伝手があれば話は変わるのかもしれませんがぁ…まぁここを秘匿すると言うのが一番大事な要素ではありますし、無駄ではないですがねぇ。当然外からの衝撃にも強いですから緊急時には解放して地上の皆さんを避難させるシェルターとしても使えますからぁ。ちなみに強度はソードさんに攻撃してもらう事で確認済みですねぇ。龍の力を解放してもすぐには壊せないほどには硬いですよぉ~それが何重にも重ねられているのです…たとえ強い龍だとしても簡単には突破できな──」
「ねーねーセンドウくん。お腹空かない?ウツギくんも」
「あー?そういや今日はそもそも飯まだだったか。うまいもんはともかくいったん休憩を…あ?」
いつの間にかセンドウとウツギの間にメアがいた。
まるで最初からそこに居ましたけど?とでも言いたげな顔で平然と椅子に座り、こくこくと水を飲んでいる。
「おおおおおおおお、お前!チビ!なんでここに!?」
「う?」
「う?じゃねぇよ!そんなんでごまかせると思うな!まさかメア様教のやつらが漏らしたんか!?」
「いえ、そんなはずは…メアさん、どうやってここに?」
「どうやって?上から普通に」
上?とセンドウとウツギが天井を見上げる。
そこにくりぬかれたような小さな穴が開いていた。
それを確認した瞬間、弾かれたようにセンドウは立ち上がり、ガラスの傍に置かれていた機械のスイッチを入れて叫ぶ。
「皆さん!非常事態です!作業をいったん止めてくださぁい!」
天井の穴からは微かに光が差し込んでいる。
つまりそれはこの隔離された場所に文字通り穴が開いてしまっているという事であり、このままでは音や揺れが地上に伝わってしまうとセンドウは慌てて作業を中断させたのだ。
「んん?どうしたのん二人とも。怖い顔しちゃって」
「お前のせいだよ!お前の!なんだよあの穴!もしかしてそこから入って来たのか!?」
「うん。なんか揺れた気がしたからこう…すぽぽぽぽぽぽぽ!って感じで」
「わかんねえよ!」
「えー?だからこう…」とメアは両手の指をピンと立てて床に突きたて…まるで砂を掘り起こすかのように魔鉱石で作られた床に穴を開け始めた。
「うおおおおおおお!?まてまてまて!なんだそりゃ!?気持ちわりいって!なんで硬い床がそうなるんだよ!?とまれとまれ!それ以上おかしな光景を見せるな!おかしくなる!」
「う?」
「いやはや…相も変わらず規格外ですねぇメアさんは…」
ソードの全力の攻撃を受け止めることのできた壁もメアにとっては砂と変わらない。
もはや笑うしかない光景にセンドウは張りつめていた何かが緩んだのを感じた。
上を見上げればそこから差し込む小さな光が顔を照らす。
そこでセンドウは…何かに気が付いた。
「あぁ…なるほど…私としたことが失念していましたねぇ…ひっひ!確かにこれでは道など切り開けるはずがない…あぁ失敗だぁ…やはり慣れというものはイケませんねぇ…」
「おいセンドウ。なにをブツブツ言ってやがんだよ。それよりなんか連中が集まってきてんぞ」
ウツギの言葉通り、急な作業中断を告げられた作業員たちがぞろぞろと上がってきてしまい、メアの姿をみてざわつき始めていた。
彼らは黒神領の住人であり、つまりはほぼ全員が【メア様教】の信者だ。
メアの姿を見て盛り上がるなと言うのは無理な話だろう。
「おーみんなこんなところに集まってたんだ。ねーねーお腹空かないー?ご飯食べに行こうよー」
ええ?!メア様とご飯!?
メア様がモグモグしてるところを見れる!?
それどころか一緒に食事を!?
むしろ我々が食事に!?
わーわー!ともはや作業の音よりも大きな騒音になりかけた作業員たちをウツギが怒鳴って黙らせる。
しかし一度盛り上がってしまった熱までは奪えない。
「どうすんだよコレ…もう作業どころじゃねぇだろ…」
「ひっひ!まぁいいのではないですかぁ?なんにせよまずは天井の穴を塞がなくては作業を再開できませんしねぇ…再び騒ぎになる前に地上に戻るとしましょう。いい息抜きになるでしょうしねぇ…ひっひ!」
それしかねぇか…と大移動が行われ、地上に出たメアたちはそれぞれ食料を持ち寄って突発的な食事会…否、お祭りを始めてしまった。
そこにアザレアやうさタンクたちも合流し、その日は夜通しでどんちゃん騒ぎが続いたという。
そしてその数日後。
ゲートを通ってセラフィムが黒神領に帰還した。
その傍らに金神領神父ポリアデルスを連れて。
更新にかなり間が空きすみませんでした!お待ちいただきありがとうございます!
実は虚弱キャラで人生をプレイしており、薬も体質的にあまり飲めないのもあり、まだ全快とは言えないのですがおおむね日常生活に戻れる程度には回復したので更新を再開していこうと思います!
執筆活動は趣味でやっていますので無理はしないようにしているのでそこらへんはご心配なく!また別にライフがデンジャーという訳でもないのでそこらへんも大丈夫です!
体調が悪くなるとまた間が空いてしまうかもしれませんがお付き合いいただければと思います!




