24.ゼロンの進む道
ポチはフュノからの『伝言』をゼロン達に伝えるため、城内を走り回っていた。
過去の教訓から『フュノの見張役兼世話役である『森の主』は城内を自由に動き回って良いし、もし『森の主』がゼロンかタルマウスを探している場合は、城内のモノは全員『森の主』に協力をする事』というお触れが出ている。
ゼロンもタルマウスも、日々どこで何をするのかは不定期だ。
ポチには特定人物の位置を把握する能力が無いので、今はとにかく探し回るしかない。
先程すれ違ったメイドから、二人は執務室にいるという情報を入手した。
ポチは急いで執務室へ向かっているはずなのだが……。ずっと同じ所をぐるぐる回っているだけの気がしてならない。
城内は複雑に入り組んでいて特徴的な装飾品もなく、風景はどこも似たようなものだ。道案内無しに、迷わず執務室へ辿り着くのは困難を極めていた。
唯一の道標であるゼロンの肖像画は、ここ数日の間に、フュノがコレクションと称してポチの部屋へ全て回収してしまっている。
ポチも半分楽しんで回収に加担してしまったが、今は本当に自分の行動が悔やまれる。
(早く、二人を見つけねえと……!)
桃色に輝く、一片の蝶。
あれは、聖竜コハルからの手紙だった。
蝶はフュノの手に止まると、一呼吸置いて柔らかな女性の声を発した。柔らかくも、どこか棘のある声を聞いた瞬間、フュノは顔を曇らせた。
以前フュノは『聖竜の長女コハルは、桃色の竜』と言っていた。おそらく、これは桃竜からの手紙だろうとポチにも理解できた。
――蝶は一方的に、フュノへ用件を伝える。
それは、聖竜フュノに対する、合流指示だった。
蝶は、桃竜コハルは魔竜を倒したものの、緑竜ナツキと橙竜シュウカが各々魔竜に敗れて『聖なる大地』へ戻っていた事、さらに、体制を立て直すので、一度合流するように、という内容を伝えた。
だが、コハルが指定してきた合流場所は『聖なる大地』ではなく、何故か『狭間の大地』だった。
フュノも『なんでだろう?』と、悠長に首を傾げてはいたが……。
そもそも、『聖なる大地』へ入るためには、フュノは一旦人の姿から聖竜の姿に戻る必要があるらしい。
だが、『契約の鈴』があるので、フュノは竜の姿に戻るつもりはない。
『よくわからないけど、合流場所が『狭間の大地』で丁度よかったかも』
と、フュノは笑顔を見せた。
フュノは桃竜からの手紙を聞き終わると、しばらく黙って考え込んでいたが……。
『流石に、無視はできないか』
と呟き、指定場所へ行くことを決めた。
『少し遠いけど、今から全力で走って合流して、少し話をしたらすぐに戻って来るわね。
それなら、明日のお昼過ぎには城に戻れると思うの』
というのが、フュノの中で決め手になったらしい。
最弱とは言え、フュノも『竜』。竜が『全力で走る』となると、狼男のポチでは、それに付いては行けない。
ポチは、フュノを一人にはできない、危険だ、と全力でフュノを止めた。
だが、フュノは首を振るだけで、その意思を変えなかった。
『大丈夫よ、危険はないわ。
聖竜の後継者争いは後回し状態だし、もともとわたし達は仲良し四姉妹だったのよ?』
そう言うと、フュノはポチに心配させまいとして、笑っていたが。
そもそも、ポチはフュノ以外の聖竜を知らない。本当にそうなのだろうか、と、不安でたまらない。
それに、とフュノは続ける。
『わたしはもう竜の姿には戻るつもりはないし、お姉様達と合流しても足手まといになるだけだわ?
魔竜との争いも、後継者争いも辞退するって宣言してくるだけよ』
その時、フュノは胸に手を添え、自分に言い聞かせているようにも見えた。
『わたしが、後継者争いから脱落して、候補から外してもらえたら……。
その後は『狭間の大地』でのんびり暮らせるわ』
それは、フュノ自身が『竜であること』を否定し、『竜としての生き方』を捨てるという意思表示でもあったのだろう。
ゼロンに知られると心配をかけてしまうし、聖竜の話に巻き込んで迷惑をかけるわけにもいかない。
『お姉様達とは聖竜同士だもの。魔竜とは違って話も通じるし、危険も無いわ。
ねぇ、ポチ。明日には絶対……絶対、戻るから。
『今日だけは約束を破ります、ごめんなさい』って、後で、ゼロン様とタマちゃんに伝えてもらってもいいかな?』
フュノはポチをきゅっと抱きしめると、そう言い残し――城を出て行ってしまった。
竜の全力疾走は想像を超えていた。『待って、フュノ!』そう言う間は一切なく。ポチは、一瞬でフュノの姿を見失ってしまった。
(危険はないし大丈夫、とか言っていたけど。
元々は後継者争いの『敵』なんじゃねえの……!?)
フュノの言葉を何度思い返しても、ポチは胸騒ぎしかしない。
ゼロン達を探し回るポチの中には、不安が渦巻いていた――。
◇◇◇
――執務室。
ゼロンとタルマウスは黙々と書類捌きに打ち込んでいた。
ある程度作業の区切りがついたところで、タルマウスがぽつりと声を上げる。
今これを言うべきタイミングなのかどうかは微妙だが、今を逃すと、またしばらく言葉が出てこない気がする。
「ゼロン様。アタシ、フュノと『狭間の大地』に残る事にするわァ」
それは、タルマウスがずっと悩んでいた事だった。
自分はゼロンの片腕であり、腹心である事は理解している。
『魔竜王』となったゼロンと共に、タルマウスは『魔の大地』へ戻るべきだろう。『魔竜王』になった直後は式典等、色々とやる事が多く、自分が居ないとゼロンが困る事になる。
それは分かっているが。
それ以上に、タルマウスには、フュノを見捨てられない。
その時。ゼロンは困る事になっても、最終的には一人で全てをこなせるだろう。
だけど、フュノはそういうわけにもいかない。バッドエンド一直線の中、孤独に、一人で最期を迎えて欲しくはない。せめて、最期まで寄り添ってあげたい。
全てが終わり、フュノの最期を看取った後、『魔の大地』へ戻りゼロンに仕える。
これが、タルマウスが決めた道だった。
以前のゼロンであれば、こんな話一蹴されて終わるだろうけど。今のゼロンなら、一定の理解を示してくれるはずだ。
ゼロンは顔を上げると、手を口に当てて、タルマウスの言葉を反芻した。
自由に自分の道を選べる『竜以外』の存在は、純粋に羨ましい時がある。
「それなら、ボクも『狭間の大地』に残るけど?」
「ちょ……ちょっとォ! 何を言っちゃうのかしらァ!?」
想定外の返しに、タルマウスが慌てて席を立つ。
椅子はガタリと後ろに倒れ、机の上に並べられていた書類が舞い上がる。
タルマウスは、フュノを心配しつつも、当然のようにゼロンも大事にしている。
慌てふためくタルマウスの姿に、ゼロンが笑う。
「ふふ。安心しろ。大丈夫だ」
(まったく、何が……大丈夫なのよォ)
ゼロンの柔らかい笑顔に、タルマウスは顔を赤らめて黙り込んだ。
フュノに出会う前のゼロンがこんな表情を見せる事は無かった。この変化は、見ているタルマウスの方が逆に恥ずかしくなるので、ついその笑顔からは、視線を逸らしたくなる。
「フュノは『魔の大地』へ連れて帰るから。
その方法が見つかるまで、ボクも『狭間の大地』から離れるつもりはないよ」
タルマウスは驚いて、ゼロンを凝視した。
それのどこまで本気かはわからないが……ゼロンが冗談を言っているようにも思えない。
冗談であろうが本気であろうが、後継者争いを常に見守っている現魔竜王が、それを許すはずもない。
それは、ゼロンも分かっているはずだ。
「やだわァ。ゼロン様。そんな事言っても、現魔竜様が許されるはずが……」
「あ。もう、現魔竜王とは全部話がついているから」
「んはァっ!?」
バッサリと言ったゼロンの爆弾発言に、タルマウスは全身の力が抜けて床に崩れ落ちた。
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ゼロンさんは結構、行動派です。




