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嘘だろ......?
間に合わなかった......。
どうして?いきなりあんな錯乱状態になるだなんて思ってもいなかった......。
魔術さえ解いてしまえば、彼女は助かるとばかり思っていたのに......あんな......。
一瞬だけ触れた指先が徐々に冷えていく。
いや、まだだ!!まだ助けられるかも知れない!!!
「な、何とかしてくれ! まだ間に合うだろ!! 今落ちたばかりなんだ......だからあの子を......!!」
男に慌ててすがり付き、助けをこうが男は困った表情を浮かべて黙って首を横に振るだけで何もしようとはしない。
そっと肩に手を置かれ、落ち着くように宥められる。
「異空間は次元も時間もめちゃくちゃなんだ。落ちたら最後、決して助からない」
「で、でも! お前屋敷と外を行き来してるだろ!? それが出来るなら」
「それは特殊な魔術を使っているからだよ。空間転移魔術と結界魔術を掛け合わせてるんだけど......ようは、理屈が違うんだ」
そんな......。
俺はただ......あの子を助けたかっただけで......。
なのに、こんな事になるなんて......。どうして......。
「どうして......どうしてあんな......」
震える唇から同じような言葉を繰り返す。
どうして、なんで。
頭の中で何度理由を考えても分からなかった。
次第に、俺が男に魔術を解くように言ったせいで、あの子が死んだんじゃないかと思い始める。
もっと冷静になっていれば、もっと思慮深く行動していれば。こうならなかったんじゃないか、て。
足から力がぬける。
情けなくもへたりこみ、開け放たれたままの玄関から見える真っ黒い異空間を見詰める事しか出来なかった。
「皐月」
茫然自失となっていた俺に、男が俺の身体を支える為に肩を抱きながら呼び掛けて来た。
あれだけ触れられるのが嫌だったはずなのに、今は振り払う気力も無い。
無反応な俺の様子を伺うかのように、男が顔を覗かせると僅かにその表情を曇らせる。
「酷い顔色だ......部屋に戻って休もう。彼女の事は仕方がないよ。皐月のせいじゃない」
......仕方がない?
なんだよ、それ。
仕方ないで、済まされる訳ないだろ。
だって、殺したも同然なんだぞ。
今、こうしている間にもあの子はこの真っ暗な異空間で、為す術もなく死を待つしかないんだって考えると、何て残酷な事をしてしまったんだって、自責の念に苛まれる。
それに、そうだ。こいつは言ったんだ。
"本当にいいの?"
そう言った。確認するかのように。まるで、こうなる事を予想していたかのように。
「お前......あの子を元に戻したら、おかしくなるって知ってたのか?」
それならどうして、何も言わずに魔術を解いたんだ?
「知ってたけど、それがどうしたの?」
「どうしたの......って、言ってくれよ! 教えてくれてたら、魔術を解いてくれだなんて言わなかったのに!!」
「そうなの? 皐月が解いて欲しいみたいだったから、特に言う必要が無いと思ってたけど、ごめんね、次からは気を付けるよ」
......なんだよ、それ......。
「なんだよ、それ......」
ごめんね。
次からは気を付ける。
取り返しのつかない事をしたんだぞ?
それなのに、男の言葉は全く重みがなく、子供が悪いことをしたのを理解出来ないまま、ただ謝ってるだけのと同じように見えた。
そうして、俺は漸く気づく。
この男は子供なのだ。
善悪の区別がつかない子供。
自分が心を許した人間の言葉を鵜呑みにする子供と、同じなんだ。
それなら、やっぱり俺のせいじゃないか。
男の根底を見抜けずに、サイコパスだのネジが外れてるだのと自己解釈して、怖がって距離を取っていた。だから今の今まで気付けなかった。
それに、もっと早く気づけていたら、あの子を死なせる事は無かったんじゃないか?
......俺の......俺のせいだ。
―――オマエノセイダ
誰かが、そう呟いた気がした。
「皐月!!!」
男が珍しく焦った顔で声荒げながら俺の名を呼んだ。肩を強く捕まれて少し痛い。
でも、どうしてだろう?
視界が段々黒く塗り潰されていく。
―――オマエノセイ、オマエノセイダ
誰だ? 誰が一体......
「皐月! 止めろ......! しまった、俺とした事が!!」
なんだか、凄く眠い。
男が何か叫んでいるけど、ほとんど聞き取れなくなってきた。
何となくだけど、ヤバい気がする。
朧気な危機感を抱きなから、俺はそこで気を失った。




