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美少年に転生したら男にモテる件について  作者: しらた抹茶
軟禁生活編
60/79

9

 屋敷の部屋を一つ一つ確認しては、俺は落胆した。


 どれだけ探し回っても、ネズミ一匹見つける事ができなかった。


 部屋を探してもそこにあるのは家主が住んでいた面影のみで、誰も居ない。


 家捜しのように、クローゼットから暖炉の中まで覗き込んでみたが、意味はなさなかった。


 家具も服もドレスも食器も、暮らすのに必要以上の物が揃っているし、誰か生活していたのは確かだと思うんだけど......。


 まるで、忽然と人だけが消えたみたいだ。



 もしかしたら旅行にでも行ってるんじゃないかって、そんな希望的観測をしてみたけど、そんな都合良く出掛けているだろうか。



 単純に考えても、あいつが何かしたとしか思えない。



 屋敷を駆け回り、がっくりと肩を落とした俺が玄関に戻ると、メイドは下駄箱の前に座って靴を磨いている最中だった。


 真っ赤なヒールを磨く彼女の手つきは馴れたもので、くすんだ赤色がみるみる鮮やかなワインレッドに輝く。


 これから磨くつもりなんだろう。辺りには丁寧に並べられたヒールや男性用の靴が下駄箱から出されていた。一貫した彼女の仕事がここで暮らしていたはずの人間の訴えを代弁しているようで、俺は言い知れない気持ちに苛まれる。




「なぁ......他の人達はどうしたんだ?」




 俺の問いかけに、メイドは答えない。


 虚ろな瞳にヒールを写して規則正しい動作でヒールを磨いている。




「どうして君だけがここに要るんだ......? 何があったんだよ? ......頼むから、何か言ってくれ!」




 何の反応も返してくれないメイドに、俺は少し苛立ちを隠せず彼女に詰め寄った。


 肩を掴み、メイドの顔を無理やり俺の視線と合わせるが彼女の表情はピクリとも動かない。まるで能面だ。硝子玉のような瞳には光がなく、全く感情を読み取る事ができない。



 どうして。どうしてこの子はこんな風になってしまったんだ......?



 この子だって、元からこんな人形みたいな人間なはずがない。


 喋ったり、笑ったり、もっと表情豊かな女の子なのかもしれない。


 それが今、ただ家事をするだけのロボットになってしまっている。



 どうして?



 それを知るのは。一人しかいない。




「あれ? 皐月......こんな所で何してるの?」




 俺がメイドと対峙していると、玄関の扉が音も無く開きあの男が帰って来た。


 茶色い紙袋を腕に抱えた男は、普段部屋から出ない俺が玄関先に出ているのを不思議がり、首を傾げる。


 男の姿を目にして、色んな感情がない交ぜになった俺は喉がつっかえたように声を出す事が出来ずにいた。そんな俺の横で、メイドは磨いていた靴を床に置くと静かに立ち上がり綺麗なお辞儀をする。


 まるで、主人の帰りを待っていた従者のようだ。



 そんなメイドに目もくれず、男は真っ直ぐ俺に歩み寄るとにこやかな笑みで語りかけた。俺が、怒りに震えているのも知らずに。




「身体は大丈夫なの? 町に出たら林檎があったから買ってきたんだ。一緒に食べよう」




 紙袋から取り出された林檎は真っ赤に熟れていて確かに美味しそうだ。



 けど、そうじゃない。


 こいつから聞きたい言葉は、そんな事じゃない。




「これ、剥いてくるから皐月は部屋で待ってて」




「―――――っ」




 なんだ。


 なんなんだこの男は。


 彼女が見えていないのか?


 俺に、この子の説明の一つもしないで、どうして初めから居ないかのように扱える。




「お前......!!!」




 嫌悪感が、こんなにも気持ち悪くなる感情だとは知らなかった。



 そうだ。


 こいつは人を人だと思わない。


 自分のバーターや手駒にするのに何の躊躇いも罪悪感も持たない奴なんだって、知ってたじゃないか。




「お前! この子に何したんだよ!!!」




 身が裂ける声を出した。


 腹こらふつふつと胸を焼く怒りに狂いそうになりながら、俺はあらんばかりの力を込めて男に怒鳴り付けた。


 しかし、男はどうして俺が怒っているのか分からないと言わんばかりの表情で立ち尽くしていた。


 唖然と口を薄く開き、ブラウンの瞳を見開いてる姿に俺は更に怒りが増す。



 なんだその態度は。



 どこまで人を蔑ろにすれば気がすむんだ。




「皐月......どうしたの? 何かあった?」


「はぁ? 何かあった? じゃねーんだよ!! 白々しい態度取りやがって腹の立つ!! テメェこの子に何したんだって聴いてんだ! それに、ここに住んでた人達はどうした!? 聞きたい事は全部はぐらかしやがって! いい加減俺の質問にも答えろよ!!」




 怒りに任せてマンシガンのように捲し立てる。


 後半は支離滅裂で、意味の分からない言葉になってしまった。


 息を乱した俺に、男は聞いていたのか分からない顔つきをしている。


 何かを思案しているのか、腕を組んで天井を仰いでいる男は何かを思い付いたのか「ああそうか!」と声をあげると、清々しい表情で俺に笑いかけた。




「皐月はこの子が目障りなんだね」


「............は?」




 ............なんだって?


 こいつ、俺の話し聞いてなかったのか?




「急にそんな事聞いてくるからおかしいと思ったんだけど、俺と皐月以外に誰かがいるのにびっくりしちゃったんでしょう? 屋敷の掃除とか流石に一人じゃ難しいから、一人くらいは"生かして"たんだけど、皐月が嫌なら"片付けよう"か」




 "生かす"


 "片付ける"



 その二つの単語で、俺は最悪な結論にたどり着いた。


 そして、これからこいつがやろうとしている事にも。




「止めろ!!!」




 慌てて彼女を背に庇い男の視界から遮る。



 もう、これ以上こいつの勝手で誰かを死なせるものか。


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