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この世界の街並みは、レンガを基調とした西洋造りの家や街道が美しいと俺は思う。
大海原とか、山頂から見える景色とか、所謂絶景ってのも魅力的ではあるけど、俺はどちらかと言うと身近な風景を写し出した写真や絵が好きだ。
簡単に言えば人が居るか居ないかの違い。
別に、芸術とか良く分からないんだけどさ。
人の居ない、ただ綺麗な風景ってちょっと怖いんだよ。まるでそこが、人が排除された世界に見えてさ。異質に見えてしまうんだ。
静止画なら尚更。
今回男がくれた結晶石は、テレビの中継みたいに見たい景色を映し出してくれる。
映して貰うのは勿論、街中だ。
まだ午前中だからなのか、市場では魚を叩き売りしている人や果物と野菜を売っている屋台が建ち並び活気に溢れている。
行き交う人々の忙しない動きや表情、それを塀の上からのんびりと欠伸をしながら眺めている野良猫の姿まで、結晶石は鮮明に映し出してくれた。
他にも、開店準備の店の前を掃除するウェイターとか、花壇に水をあげるお姉さんとか、広場のベンチで新聞を読むおじさんとか、とりとめのない平穏な日常がそこにあった。
屋敷に籠りっぱなしかと思えばいきなり田舎の村に連れていかれて、都心部の街中を見たいと思いつつもその機会が無かった俺にとっては......認めづらいけど、この結晶石は少し嬉しいプレゼントだった。
「皐月はこんなのが楽しいの?」
結晶石を見つめている俺に、男が不思議そうに訊ねてきた。
他人の行動眺めて何が面白いんだ?
ってな顔してる。
別に楽しいって訳じゃない。
ここに来てからやること無さすぎるので超暇だから外眺めてるみたいな感覚だ。
......本当は、プリヒュ教会がどうなってるのか確かめたいのが本音なんだけど......。
またこの男がフェルムット達を殺しに行くだなんて言い出すんしゃないかと思うと、プリヒュ教会を映して欲しいだなんて言えなかった。
見ず知らずの他人よりも、フェルムットやスギナがどうなったのか気になる。本当はあの人達の顔がもう一度見たい。
元気そうだったらそれでいいんだ。
ただ、無事でいるのか一目だけでも確認したいんだけど......。
「皐月?」
「......え?」
ぼんやりと結晶石を眺めている俺に、男が声をかけてきた。
呆けたまま返事をすると、男が俺の顔を覗き込んでいたのに気付く。
「浮かない顔してるけど......飽きて来ちゃった? 別の景色を映そうか?」
「あ......うん......」
「何処がいい?」
うーん......。
何処と聞かれても......。
恐る恐る男の様子を伺ってみれば、相変わらず甘い笑顔で俺を見つめている。
その笑顔、逆に怖いんですけど......。
「何処でもいいかな......人がたくさん居る所なら」
やっぱり、言えない......。
適当に頼めば、男は「人がたくさん居る所かー......」と、指を顎にかけて思案する。
「施設とかなら人が居るよ。病院とか、学校とかならどう?」
「学校......?」
この世界に、学校なんてあるのか?
学校。
俺、生きてたら今頃高校生だったんだよな......。
失った青春......。悲しみ......。
と、感傷に浸るのはそこまでとして。へー学校かぁ。この世界の学校てどんなんだろ?ちょっと気になる。
「学校がいい」
「分かった」
男が手をかざすと街中の風景が歪み、次第に別の形を造り始めた。
水に浮かべた絵の具が混ざるように混沌とした映像は、ゆらゆらと揺らめく水面のように不安定だ。それが、ゆっくりと鮮明な映像になる。
男が手を離すと、そこには異界のとある学校が写し出されていた。
白塗りの壁には等間隔に設置された豪勢な扉に、中央の広場らしき天井からぶら下がるはきらびやかなシャンデリア。広場を行き来するのは俺と差ほど歳の変わらない少年少女だ。
着ている服は制服なのだろうか、女子は上品な白いカットソーワンピースに胸元には大きなリボンを付けていて、男子は詰襟に似た白い背広を着ている。
建物の内装といい、着ている服といい、彼らは何処か気品のある人達に見えた。
「ここって......」
「貴族や上流層の学校だね。もっと庶民的な学校もあるけど」
へー。貴族も学校に行くのか......。
ニベウスには家庭教師が付いていたみたいだし、てっきり学校には行かないとばかり思っていたけど......。
もし、お母様とお父様が捕まらなかったら、俺もこの人達みたいに学校に行ってたんだろうか......。だとしたら少し残念だ。青春と取り戻すチャンスだったかもしれないのに。
「いいなー......」
楽しそうに学校生活を送る連中が羨ましくて、頬杖をついた俺は結晶石を眺めながら溜め息混じりにそう溢した。
「学校、行きたいの?」
「うん」
男の問いかけに、つい反射的に答えた。
「本当は、行くはずだったから......」
あーあ、俺だって生きてたらこいつらみたいに学校に通って部活もやって、何だったら彼女だって作ってたのに。
彼女、と考えると自然と結晶石に映る女子をまじまじと見てしまう。俺に見られているとも知らず、お嬢様がたは楽しそうに談笑しながら広場を優雅に歩いていた。今こっち向いた子、おっぱいおっきかったな......。
..................。
............ちょっと待てよ?
向こうがこっちに気付かないって事は......女の子の部屋とか覗き放題って事じゃね?
風呂覗き放題って事じゃね?
いや、待て、それは犯罪だ。いくらなんでもゲスすぎる......。見られていると知らずにあられもない姿をさらすおにゃの子は見たい。すっげー見たい。けど、それは、それは......。
つい、ちらちらと男の顔を伺ってしまう。
......こ、こいつも男なら......女の子の裸に興味くらい......。
俺の脳内で、悪魔の俺が誰にも気付かれないならいいじゃねぇかと囁く。同時に、天使の俺がそんなゲスな真似をしたら駄目だ!人として恥ずかしくないのか!と、止めに入る。
見ちまえ!駄目だ!見たいんだろ!駄目だって!!
ぐるぐるぐるぐる。
悪魔と天使が頭を飛び交う。
ぐぬぬぬぬぬぬ!!!!!
「消してくれ!!」
「え?」
「早く!!!」
「皐月、どうしたの?」
「いいから!俺が人として最低な行動をとる前に!早く!!!」
ぐっらぐらに揺れ動いた俺の心は、ギリギリ天使に軍配があがったのであった。




