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言ったはいいが、警備隊ってどうやってなるんだろうね。専門的訓練を受けるって事は学校でもあるんだろうか。今度よく調べないとな......。
スギナが俺の要望を受け入れてくれたらの話しだけどね。
「............いいの?」
「ん?」
調べものは図書館に行けばいいのかな?そもそも図書館ってあるのか?と、考え込んでいると、スギナの掠れた声で何やら不安そうに呟いた。
顔を見れば、目に涙を零れんばかりに溜め、頬を微かに赤くしながら苦しそうな表情をしたスギナが俺を見詰めている。
さっきの台詞にそんな顔する要素あったか?
「いいの?って、何が?」
「俺なんかで......いいのか?」
絶賛自信喪失中のスギナは少し卑屈になってるみたいだ。俺には人を励ませる程の包容力は無いんだけどな......。たく、しゃーねぇ奴。
「なんかじゃねぇよ。スギナが良いんだ」
拳を握ってスギナの胸に軽く小突き、重くなりそうな空気を払拭しようとなるべく明るく笑いかけた。
すると。
「うぁぁぁぁあああああああ!!!!」
スギナは堰を切ったように泣き出した。
何故だし。
「......なんで泣くぅ?」
「ごめ......う、俺......俺強くなるっ......強くなって、ニベウスを守る!!」
「お、おう」
ジ〇リ泣きしてたかと思えば、最後は決意を露にした主人公みたく凛々しい顔つきになりやがった。スギナの情緒が今一分からないんですけど。
でも、元気になった......んだよな?それなら良かった。
「ニベウス様、お身体の調子はどうですか?」
ずっと死んだようにどんよりとしていたスギナの瞳に、生き生きとした光が宿った事に安堵していると、リディがスープを持って部屋に入って来た。
具沢山のスープからはほかほかと湯気がたち、微かに香る生姜が食欲をそそる。そのタイミングで、俺の腹は大きな音を発てた。ちょ、俺の腹の虫自重しろし。
ばつが悪く苦笑いをする俺の横で、リディが穏やかな笑みで笑いかけた。
「恥ずかしがる事はありませんよ。二日間飲まず食わずでは仕方ありません。さぁ、ゆっくりと召し上がって下さい」
「ふ、二日間!?」
な、なんだってー!?
あれから二日間も眠っていたのか?てか、こんなこと前にもあった気がするんですが......。
「ですので、急いで食べずにゆっくりと飲み込んで下さい」
「はい......」
もしかして、また呪いのせいで眠ってたのか?
そうじゃなきゃ、二日間も眠ってられるとは思えないし......。
「......あの」
自分の身体の異変はやはり気になる......さっきのスギナの態度からして不安は残るし。
気になってリディに問いかけようとした俺だったが、部屋の戸から顔を覗かせるアンジュの姿が目に入り、口を閉ざした。
俺と目が合ったアンジュは、スギナのようにビクリと肩を震わせ顔を半分戸に隠した。
何でこの子そんなよそよそしくしてんの?
「アンジュ......」
栗色の瞳を潤ませ、おずおずと顔を覗かせるアンジュに俺は出来るだけ優しく話しかける。
「こっちにおいで......」
「............」
暫しその場に止まっていたアンジュだったが、弾かれたように部屋に入ると俺に抱き付いて来た。
危なっ!スープ溢す所だった......。リディが空かさず押さえてくれたお陰で助かったぜ。
「......アンジュ......」
スギナが眉間に皺を寄せ、唇を噛みしめて顔を伏せた。辛そうにしている。
そっか、こいつアンジュの両親連れてくるって大口叩いて出ていったんだもんな......。
結果はこの通りぐずぐずだった訳で......。
「ごめんな、アンジュのママとパパ、連れて来れなくて......」
俺の首筋に顔を埋めるアンジュは首を横に振ると、泣くのを堪えているのか震えた声で「いいの」と呟く。
「ママとパパに会うより、ニベウスお兄ちゃんとスギナお兄ちゃんが居なくなる方がヤダ」
居なくなるって、大袈裟だな。俺が二日間も眠っていたから、アンジュは俺が死んでしまうのかと不安にさせてしまったのかも知れない。
俺はアンジュの頭をそっと撫でた。
「大丈夫、どこにも行かないよ」
でも、そうか、ママとパパより俺達をとってくれたのは嬉しいな。
本当は両親に会いたいだろうに。俺達が不甲斐ないせいで余計な心配かけさせちゃったな。
「うわぁああああ!!!!」
アンジュの頭を撫でつつ、今後は無茶はよそうと自己反省をしていると礼拝堂からトニーの悲鳴が聞こえた。
「スギナ兄ちゃーん!!」
続いてボーンがスギナを呼ぶ声が部屋に届き、慌ててスギナは部屋を出ていった。
どうした!?何が起きた!?
リディがスギナに続いたのを見届けた俺は、ベッドからおりてアンジュと一緒に礼拝堂に向かった。
戸を開いて礼拝堂に出ると、そこにはフェルムットが扉の前で気まずそうに立ち尽くしていた。
ゴロツキ達をぶっ飛ばして来たんだろう。顔には疲労が見てとれた。
そんな事よりも、だ。トニーやボーンが茫然自失となって眺める視線の先に、後からやってきた俺達は絶句して釘付けになった。
教会に帰って来たフェルムットの背後には、ゴロツキのリーダー。筋肉隆々の大男が立っていたのである。
「し、神官......?これは、どういう......」
ぶっ飛ばすっつったのに、何で連れて帰ってんだと言わんばかりにリディが問いかけると、フェルムットは明らかに動揺して視線をさ迷わせる。「いや〜」だの、「その〜」だの、フェルムットにしては珍しく歯切れの悪い返事しかしない。
すると、大男がおもむろにスギナの前まで歩いて来た。
ずしずしと足音が聞こえてきそうな巨体を動かし、スギナを見下ろす。
何をする気だ?
スギナも警戒して身構える。
「私の手下があなた達に酷い事をしたと聞いたわ......ごめんなさいね」
..................は?
「............え?」
大男は、喉太い声で、女口調でおかしな事を言い出した。
「私、もう自分に嘘をついて生きてくのは止める事にしたの......だから、これからは自分の罪を償っていくつもりよ......」
どうした?頭でも強く打ったのか??
「......神官?」
「その、あれだ、まぁ、そう言う事だ」
「いや、どういう事だし!!!」
分からんわ!!ちゃんと説明しろ!
「止めて!彼を責めないで、私が悪いのよ。どうしてもあなた達に謝りたくて、無理を言ってここに連れてきてもらったの......」
「は、はぁ......」
いや、俺が聞きたいのはあなたがどうして唐突にお釜口調になったかを説明して欲しいのですが?
喉太い声でそんなお釜口調されちゃうと、某声優の某事件の楽曲が脳内リピートされちゃう。
ゆっりゆらゆら♪
「あの、貴方はもしや......」
リディが心当たりがあるのか、大男に近づき見上げ言葉をかけると、大男は静かに頷いた。
「そうよ......私、身体は男だけど、心は女なの......ずっと、それを隠して生きて来たわ......」
あ、元からその仕上がりだったと?
この世界にもお釜は存在するのか......。
「でも、皆が知っている通り、男が女の心を持ってると周りから迫害されてしまう......生きて行く為に、強くなるために私はずっと男のふりをしていたの」
日本はお釜とかニューハーフには割かし寛大だったけど、この世界では迫害されてしまうのか......。昔の日本や他国でも病気扱いされていた頃もあったし、性同一障害って"障害"扱いもされている訳だから、闇が深いよな......。
「でも、私は恋をしてしまったの......」
ん?
誰も聞いていないのに、この大男勝手に恋ばなしようとしてない?
やめて、そんな喉太い声で乙女みたいな恋ばなされたら絶対笑っちゃうでしょ。誰か止めて。
「私、フェルムットさんに恋をしてしまったの!!」
「はぁ!?」
「ええっ!?」
「うぐっ!」
大男のしなくていいカミングアウトにそれぞれナイスリアクションする面子の中、俺だけ頬の肉を噛んで笑いを堪えていた。
フェルムットさんにwww恋をしてwwwwしまったのwwwwwww
「彼に初めて会った時、私確信してしまったわ......私はこの人と出会う為にここに来たんだって」
頬を赤らめ、うっとりと話す大男の一方で、フェルムットが顔を歪めて視線を明後日の方角に向けている。
だよね、こんなゴツくて自分よりデカイ男に告白されても困るだけだよね。
大男は(誰も聞いていないのに)様々な事を白状した。
この村に居座ったのはフェルムットのそばに居たかったからだとか、度々教会に来てフェルムットと戦ったのは、どんな理由でもいいからフェルムットと会いたかったとか......まぁ砂糖でも吐き出したくなるようなあまーいお話だった。スイーツ☆ミ
さっきフェルムットが襲撃した時に自分の手下が俺達に仕出かした事を訊き、もう自分の勝手な考えで周りを振り回すのは止めようと心を入れ換えたらしく、手下達とは別れを告げて俺達に謝罪に来たらしい。
「あなたは、これからどうするおつもりなのですか?」
リディが大男に問いかけると、大男は少しだけ悲しそうな顔をしたが、清々しい表情でリディの顔を見返した。
「自首するわ......きっと禁固刑でしょうけど......でも、でも......もし出てくる事が出来たら......またここに来ても良いかしら?」
男のささやかな願いに、リディは慈愛の満ちた笑みを浮かべた。
「はい。勿論です」
「おい......」
フェルムットが冷や汗を掻きながらリディに手を伸ばす。
「ありかとう......きっと私、フェルムットさんに相応しい人間になって戻って来るわ」
「はい......心からお待ちしております」
「おい!勝手に話進めんな!俺は待たねーぞ!」
フェルムットの意思など聞かずにしっとりとした雰囲気でちゃっかりと再会の約束をする二人に、今まで黙っていたフェルムットが慌てて口を挟んだ。
扉の前から石のように動かなかったのが、よっぽど焦ったのか大股で礼拝堂に入りリディに詰め寄る。
それに対し、リディが厳しい目付きでフェルムットを咎めた。
「神官。彼女は己の罪を償い全うな人間になろうと決意したのですよ?神官であるあなたが導かず拒を露にしてどうするのです」
「いや、オメーな。そいつはよ」
「身体が男だから何だと言うのです!ネフェリーナ様に仕える神官であるのでしたら、受け入れる許容を見せて下さい!」
「ネフェリーナ様関係ねぇ!受け入れるって何をだ!ふざけんのはその乳だけにしやがれ!!」
「私の胸こそ関係無いでしょう!!」
始まった。
何か、馴れると二人の口喧嘩って只の痴話喧嘩にしか聞こえないんですけど。
ふと、大男に目線をやれば羨ましそうに二人のやり取りを眺めていた。
「あははは!」
アンジュが笑った。
気が抜けたのか、リディとフェルムットを見ていたアンジュが明るい笑い声を上げた。
その声に、喧嘩をしていた二人も口を閉ざし驚いた表情でアンジュをみやる。
彼女の、こんなにも明るい笑顔は久しぶりだった。
それを皮切りに、一人二人と笑い出す。
今まで散々迷惑かけてたのが、まさかの恋沙汰とは確かに笑える。
何だか俺も可笑しくなって、いつの間にか皆が笑っていた。
「こんにちは」
笑い声が響き渡る礼拝堂に、若い男の声がした。
静かで、穏やかな声なのに、不思議とその声はうるさい程笑い声が響く礼拝堂に、違和感なく強い存在感と強制力を持ってその場の全員を黙らせた。
「......いや、もうこんばんは、かな?」
細身の若い男だ。
真っ黒いローブを身に纏い、フードを目深に被った男が教会の門前で不気味に立っていた。




