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美少年に転生したら男にモテる件について  作者: しらた抹茶
教会生活編
39/79

19

*第三者視点*


 教会の門に立つと、気が抜けてその場に倒れてしまいそうになる。後もう少しだ。自分にそう言い聞かせ、スギナは教会の扉を力の入らない震える手で叩いた。




「はい」




 教会の中からリディの声が遠く聞こえた。

 間を開けず、扉を開けてリディが姿を表すとスギナの変わり果てた容貌に小さな悲鳴を上げる。




「だ、誰ですか!?」




 別人にまで顔が腫れ上がったスギナを認識出来なかったリディは、驚愕を露にして警戒心を強めたのか、一歩後差ずった。


 閉じかけた扉に肩を入れ、空かさず声を出す。




「俺だよリディ......」




 その声は弱々しくも掠れていて、果たして自分と気付いてくれるか不安になったが、そこは幼い頃からスギナの面倒を見てくれたリディは直ぐに気が付いた。


 口元を手で覆い、目を見開いたリディは背負われたニベウスにも気付いたらしく、慌てて教会の中に二人を入れた。




「な、何があったと言うのですか!?その顔は......一体!?」




 自分の心配をしてくれるリディだが、それよりも見て欲しいのはニベウスの方だ。


 背中から伝わる体温は次第に下がり、息も殆どしている気配がない。このままでは死んでしまうと、スギナはそう感じ取っていた。




「おい、どうした?」




 部屋に居たであろうフェルムットが、リディの叫び声を聞きつけ礼拝堂に入って来た。


 スギナを見た瞬間、加えていた煙草を落とす。




「フェルム......ニベウスが......ニベウスが......」




 フェルムットの視線がニベウスに移動すると、瞬時に彼は顔色を変えてスギナに駆け寄り己が濡れるのもい問わずニベウスを抱き抱えた。


 背負っていた重みが無くなり、身体が軽くなると同時に緊張の糸が切れたスギナはその場に崩れ落ちる。



 スギナの頭上で、フェルムットが大きく舌打ちしたのが聞こえた。




「リディ!直ぐに湯を沸かせ!!それから、ありったけの結晶石を用意しろ!!」


「は、はい!!」




 普段の気だるげな態度しか見せないフェルムットから、鋭い指示が飛びリディは素早くうなずくと沐浴室に走って行った。


 気が遠くなりそうなスギナに、フェルムットが怒りを孕んだ瞳を向ける。




「オメー、こいつに何しやがった?」




 この男は、基本自分の懐に入れた人間には何処までも寛容だ。


 だこらこそ、スギナはフェルムットにこんなにも敵意を向けられたのは初めてだった。




「......分からない......俺も、何がどうなってるのか......」




 洞窟で見た得体の知れない不気味な腕と声。


 スギナ自身、あの現象をどうやって説明すればいいのか分からない。そもそも、自分がニベウスを連れ出したのが事の発端だとは頭で理解してはいたが、現状に至る経緯まで確りと伝える事は今のスギナには出来そうになかった。


 スギナも、顔色は紙のように真っ白で体調の悪さを物語っている。


 フェルムットは自らの苛立ちを何とか押さえ込み、ニベウスを抱き抱えると沐浴室へと走り出した。




「話しは後でしっかりと聞かせてもらうからな。さっさと着替えて来い!風邪引くぞ」




 それだけ言い残すと、フェルムットは礼拝堂から出ていった。


 一人取り残されたスギナは、ゆっくりと立ち上がると部屋に向かってよたよたと歩き出す。

 礼拝堂から子供部屋へと続く戸を開けると、ボーン達が三人並んで自分を見詰めていた。




「スギナお兄ちゃん......」




 アンジュが、ヘーゼルの瞳を少し揺らめかせてスギナにすがるような視線を向ける。


 その幼い無垢な瞳に耐えきれず、スギナはスッと目を反らした。




「ごめん......」




 その一言だけを告げると、誰も何も言っては来なかった。


 アンジュは黙って悲しそうにうつ向き、ボーンとトニーはかける言葉が見付からず狼狽えるのみだ。


 いつものスギナなら発破をかけ元気付けるのだが、そんな余裕など無くなっていた彼は、狼狽する子供達を尻目に自室に戻って行った。




「......最悪だ......」




 アンジュに、両親を連れてくると言い出したのは自分なのに、まるで当て付けるかのような態度をとってしまった自分に自己嫌悪する。



 ニベウスを巻き込んで、アンジュを傷つけて、リディやフェルムットに心配を掛けさせて......。



 自分は一体。何がしたかったのだろう。



 部屋に入り、着替えもせずぐるぐると負のスパイラルに陥ったスギナはそのまま気を失い、風邪を引いてしまった。



 床に伏せて熱を上げたスギナを発見したのは、いつまでも経っても部屋から出てこないスギナの様子を心配して伺いに来たリディだった。


 直ぐ様温かいお湯で絞ったタオルで身体を吹いてもらい、服も着替えさせて貰ったスギナはフェルムットにベッドまで運ばれた。




「......ニベウスは?」




 熱で狭まった気管を無理にこじ開け掠れた声で訪ねると、フェルムットはムスッとした表情のままスギナの頭を乱雑に撫でる。




「アイツの事なら心配すんな。オメーは寝てろ」




 このぶっきらぼうな言い方は、スギナの落ち込んで弱った心にじわりと染み渡った。乱暴な言い方でも、この男の言葉は安心するのだ。


 彼が心配するなと言うのならば、本当に心配する必要はないのだ。


 それは、スギナが心からフェルムットを信用しているからこそ、彼を信頼し、スギナはそのまま深い眠りに落ちた。



 その後、二日に渡り熱で寝込んだスギナが回復すると、そこには愕然とした現実が待ち構えていた。



 ニベウスが目を覚まさないのだ。



 どうやら、ニベウスが目を覚まさないのには例の毒が関係しているらしく、様々な方法を用いて浄化を試みても効果が無く、依然としてニベウスの目は閉ざされたままだ。

 これにはフェルムットも頭を抱え、リディは眉間に皺を寄せて腕を組み口を引き結んでいる。


 ニベウスは貴族の嫡男だ。


 もしもの事があればフェルムットやリディが責任を追うこととなる。


 そうなってしまえば彼らはこのプリヒュ教会から出ていかなければならなくのるかもしれない。

 今更ながら、自分の仕出かした事の重大さにスギナは足元が崩れるかのような衝撃を受ける。



 このまま、ニベウスが目覚めなかったら。


 フェルムットやリディが居なくなってしまったら。



 ベッドで眠り続けるニベウスの顔を眺め、スギナは追い詰められながら拳を握った。




「何らくねー面してんだガキ」




 眠るニベウスの横で、疲れた表情を見せがらも煙草を吹かしたフェルムットはスギナに顔を向けた。




「心配するなっつっただろ。......まだ方法はある......オメーには聞きたい事もあるからな......こいつ助けたかったら協力しろ」




 小さく頷いたスギナは、やっと整理のついた頭でたどたどしくも事の顛末をフェルムットに話した。



 アンジュの両親を探しに隣町まで出掛けようとした事。

 その途中でゴロツキの一人と出くわした事。

 男の口車に乗せられ危うく売り飛ばされそうになった事。


 そして、ニベウスから出てきた謎の手と暗闇の事。




「..................」




 フェルムットは苦虫を噛み潰したような顔をし、後ろでは戸の前に立っていたリディが口元を抑え蒼白い顔で小さく震えていた。


 暫く押し黙っていたフェルムットは、スギナを値踏みするかのような鋭い視線で見詰めると、おもむろに口を開く。




「そのうちオメーも知る事だろうから説明しておく......。ニベウスはな、訳あって身体にリスクを背負ってる」


「......黒魔術師のせいだろ?」




 ニベウスの両親が黒魔術師と結託して謀叛を企んだのは最早国中に知れ渡った話しだ。

 ただ、ニベウス自身の容姿を国中が知っている訳ではない。


 このボシュルー村人も、ニベウスの両親の噂は知っていても彼の顔を知っては居なかった。むしろ、そんな事件の渦中の人物がこんな片田舎にやって来るとは露にほど思っていないだろう。


 だからこそ、ニベウスはここに来ても何ら疑われる事なく村人に受け入れられた。


 しかし、そんなニベウスを引き取る教会側の人間として、スギナは事前に説明はされていた。


 以前された説明は、黒魔術師に厄介な魔術を施された時の後遺症が身体に毒だから、それを浄化する為に一時的に引き取ると言われていた。


 その事を思いだしながら口にするスギナに、フェルムットはやや思案すると煙草を加え直した。


 何かを隠そうとする時の、彼の癖だ。




「確かに俺はそんときは毒だと言った。だがな、今はそんな生優しいもんじゃ無くなってる......オメーがみたっつー黒い手......それは恐らく呪いの意思だ」


「呪い......?」


「詳しくは話せねぇが......黒魔術ってのはややこしいんだよ。最初は人体に影響を与える程度の魔力の毒が、肥大して呪いに転じたってとこだ......そんで、その呪いはニベウスをいつか殺しにかかるだろうよ」




 フェルムットの物騒な物言いに、スギナは思わず震え上がった。


 殺す?それは、あの鶏冠男のように暗闇に引きずり込むと言う事か?




「ニベウスは、助からないのか!どうすれば助けられる!?」


「落ち着け、オメーにやれる事はねーよ」




 ピシャリとはね除けられ項垂れるスギナを他所に、フェルムットは大きな溜め息をつくと煙草をへし折りポケットにそれを押し込んだ。




「しっかし、あの連中がそんな舐めた真似しやがるとはなぁ......こいつばっかしは俺の落ち度かね......おい、リディ、スギナ」




 不意に名を呼ばれ、キョトンとした顔でフェルムットを見ると「出てけ」と一言だけ告げられた。


 突然の言葉に一瞬立ちすくんだスギナとリディにフェルムットは更に言葉は続ける。




「これから最終の手段に入る。ちょいと強力な浄化を施すから集中する為にもオメーらには出てってもらう。此でニベウスが起きなかったらいよいよ俺達の首がはねるのを覚悟しねーとな」




 スギナの喉がごくりとなった。


 首がはねる。それは、物理的な意味を指しているのか......それとも、仕事の事を指しているのか......。


 とは言え、無力な自分が意味もなく居座っていては仕方がない。リディは自分が手伝えないのを少しばかり気に病んでいたが、集中する為に出ていけと言われてしまってはそれ以上何も言えない。


 黙ってスギナとリディは部屋を出ていくしかなかった。




「なぁリディ......」


「何ですか?スギナ」




 扉の前に立ち、フェルムットがニベウスを助けようと奮闘しているのを創造する。何も出来ずただ立ち尽くす自分を不甲斐なく思い、腫れが引き、傷の残った頬を撫でながら、スギナはぼそりと呟いた。




「俺、こらからどうして行けばいいかな?」




 もう、魔術剣士だなんて名乗る事は出来ない。


 夢から覚めてしまった少年は、どうやって現実を生きて行けばいいのか分からなくなっていた。




「そんな事、自分で決めなさい」




 教会の助神官は、決して優しい言葉をかけてはくれなかった。




 


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