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美少年に転生したら男にモテる件について  作者: しらた抹茶
教会生活編
24/79

4

 服に着せられてる感半端ない神官だったが、祝詞を唱える姿はなかなか様になっていた。気だるげな態度しか見せなかった男が、聖書を開いた途端、中低音の甘い声で真面目に祝詞を唱え始めた時は思わず面食らってしまったほどだ。信仰心なんて持ち合わせていなさそうな印象だったけど、案外、仕事はきちんとこなすタイプなのかもしれない。


 お香が焚かれているのか、爽やかなラベンダーに似た香りが漂う礼拝堂で沈静に浄化の儀式を受けた俺は、腹の虫と格闘しながら悠に十分間、何て言ってるか分からない祝詞を右から左に受け流しつつ、真剣に神様に祈った。呪いが消えますように、みたいなのを、ひたすら。




「はーい終了〜」




 畏まってじっとしてると、十分でも体感時間は長く感じるな。

 膝まずいたいた足が痺れて来た頃、祝詞を唱え終えた神官が聖書を閉じて怠そうに大きなあくびをした。




「フェルムット神官!神聖な祈りの場でだらしのない姿を晒さないで下さい!」




 すかさずリディが目くじらをたてて神官の振る舞いを咎めると、男は面倒くさそうに頭を掻いて溜め息を吐いた。




「あーはいはい。分かったから早く飯の支度しろよデカパイ」


「んなぁ!?」




 デ、デカパイって、それセクハラ発言やん......。


 リディは顔を真っ赤にさせて固まり、目に薄い涙の膜を張って小刻みに震え出した。


 あ、泣いちゃう.......。




「い、いつになったら神官として自覚ある立ち振る舞いをして下さるようになるのですか!?あなたが来てから、このプリヒュ教会の神位は堕ちてばかりです!!!」


「俺のせいにすんなよな〜。こんなど田舎のボロい教会、俺が来た程度で良し悪しが変わるかよ」


「あなたは国からこのプリヒュ教会を任された責任者なのですよ!?教会の行く末をもっと真剣に考えて下さい!!」




 ねぇ二人とも、一仕事終えたからっていきなり痴話喧嘩を始めないでくれる?膝まずいた格好のまま動けなくなってる俺に気づいて。デカパイ発言はムカつくかもしんないけど、そこはその胸と同じ大きな心で受け流してくれませんか?




「たくっ、いちいち些末事に鶏冠とさか立てやがって。皺が増えるぞ。いい年だろうが」




 だから、それセクハラですってば。


 リディは神官の言葉に絶句すると、諦めたのか無言で身を翻すとキッチンの中に入ってしまった。次の瞬間、けたたましい音を発てて戸が閉めらる。


 衝撃で礼拝堂のシャンデリアが揺れ、リディの怒りの強さを物語っていた。




「こわー。ありゃ生理だな」




 だから、それセクハ(ry


 このデリカシー無し男。そんなんじゃ絶対嫁さん出来ないぞ。いい年はお前も同じだろうが。見た目おっさんのくせして中身高校生かよ。

 同じ神官でも好青年だったハーグとは全然違うな。あの物腰柔らかい爽やかスマイルが恋しくなってきた。フレア教会の司祭と神官のハーグは、良き上司と部下って関係だったのに、この二人は反りが会わないらしい。 




「飯だ飯、オメーも腹減ってんだろ」


「あ、はい」


「こっち来い、食堂案内してやっから」


「......ありがとうございます」




 口は悪くても面倒見はいいんだな、この神官。てか、俺この人の名前知らねーや。リディが名前言ってたけど、意識して聞いてねぇと日本人の名前と違って横文字の発音は覚えづらい。今後の為にも自己紹介をしておくか。





「あの」


「あ?」


「自己紹介、まだでしたよね。ニベウス・マーシュマロウです。よろしくお願いします」


「おー......」




 男はポケットから煙草とマッチを取り出すと、煙草を口にくわえながら名を名乗った。




「俺はフェルムット・ティガー。ま、お互い気楽にやってこうや」




 気の抜けた口振りでそこそこ友好的な言い回しをしたフェルムットは、煙草に火を点けると早速ぷかりと煙りを吐き出した。


 食堂はキッチンと直近いるらしく、スープを温めていたリディを素通りして裏口とは別の戸を開けると、手狭だが木造作りの暖かみある食堂にたどり着いた。長テーブルとベンチが設けられており、テーブルの上には小さな花瓶に小振りな赤い花が生けられている。


 正直、お腹が空いて力が出ない状態の俺としては、落ち着いて座れる場所があるのは有難い事だった。ベンチに座るフェルムットに習い、俺も適当な場所に座る。右側ベンチの一番奥。


 隅とか奥って結構落ち着くよな。昔から外食とか病院の待合室とかで率先して隅とか奥に座っていたから、今回も無意識で端に座りホッと息をついた。




「......」


「......」




 気まずすぎワロタ。


 フェルムットは相変わらず眠そうな目で煙草を吹かしているだけで、話しかけてくる気配は無い。


 俺、コミュ力低いから。


 こんな時、どんな話題をふればいいか、分からないの。




 ―――ガンガンガンッ!!




 ビクゥッ!!


 ちょっ、何か金属を激しく叩く音が突然聞こえたんですけど!唐突過ぎてびびったわ!!




「おーおー、喧しい奴らが来るぞ」


「へ?」


「リディがガキ共起こしに行ったんだよ。朝飯前にあーやってフライパン鳴らしてな」




 お母さんかよ。あ、あいつらにとっては母親代わりみたいなもんか。


 こりゃ失敬。


 フライパン目覚ましが発動して物の数分、元気100倍アソパソマソみたいな勢いで二人の男子が食堂に入って来た。



 スギナと坊主ガキ大将である。




「おはようフェルム!!今日こそこの魔術剣士スギナに稽古をつけて貰うぞ!!」


「貰うぞ!!」




 朝っぱらから元気だなこいつら。

 血圧どうなってんだよ。普通起きて直ぐにそんなテンションになれねぇだろ。




「だーから魔力もってねぇオメーじゃ何しても魔術使えねぇっつってんだろ。いい加減諦めろ」


「諦めない心が!奇跡を産む!!」


「奇跡を産む!!」




 え?スギナって魔力もって無いの?魔術使え無いの?なのに魔術剣士とか言っちゃってるってそれ何て厨二病。


 ヒーロー戦隊みたいな決めポーズをとるスギナを可哀想な者を見る目で見ていると、言葉を真似していた坊主と目があった。同時に後ろから目を擦りながら赤毛幼女と眼鏡童児が現れる。




「スギナ兄ちゃん!あいつ―――」


「あーーー!ニベウスお兄ちゃん起きた!!!」




 坊主の言葉を遮って、赤毛幼女が顔を輝かせて俺の元に駆け寄った。俺の隣に飛び込むように座ると、思い切り抱きつく。




「やったぁ!!これでニベウスお兄ちゃんと遊べるね!!アンジュといーっぱい遊んでね!!」




 純粋無垢な笑顔で可愛い事を言う幼女、アンジュだが、遊ぶと言うのはあのスペシャルハリケーンフラッシュの事だろうか。それなら、いっぱいは無理かなぁ。




「待てアンジュ!それはこいつが俺の試練を受けてからだ!それまでニベウスを我々の仲間として受け入れる事は出来ない!」


「えー!やだ!ニベウスお兄ちゃんに酷い事したらスギナお兄ちゃんなんか嫌いになるからね!!」


「安心しろ!俺は女には乱暴な真似はしない!!」




 こいつまだ俺を女と勘違いしてんのか。




「随分となつかれてるじゃねぇか。良かったな」




 良かったなって、棒読みじゃないですかフェルムット神官。性別を誤解されてんですけど。




「皆さん!朝御飯が出来ましたから運ぶのを手伝って下さい」




 美味しそうな香りと共にキッチンからリディの声が食堂まで届いた。一斉に子供達が我先にと反応をする。




「はーい!」


「はーい!」


「俺に任せろ!!」


「任せろ!!」




 どたどたと足音を鳴らしてキッチンに向かった子供に続き、俺も腰を上げて手伝いに行こうとした。


 小さい子供達とご飯て、親戚の集まりを思い出すな。




「待て」




 キッチンに向かう俺をフェルムットが引き止めた。


 何やら神妙な顔付きでゲンドウポーズをとっている。




「オメーは行くな」


「......はい?」




 何でですのん?


 理由を聞こうとするが、それは朝飯を運んで来たリディと子供達によってタイミングを逃してしまった。




「ニベウスお兄ちゃんはアンジュの隣ね!」




 朝飯を並べたアンジュは端に座る俺にぴったりくっついてご満悦な様子だ。


 リディと他の子供達もベンチに座り、祈りのポーズをとる。




「ではフェルムット神官。食前の祈りを」


「はいよ。天地の恵みとネフェリーナ様の加護に感謝し、祈りを捧げよ」




 しん、と静に祈り始める皆。


 それに取り残される俺。


 食前の常套句は「いただきます」の六文字で済ませていた日本人の俺。


 何度も言うけど、一日絶食してたから腹減ってるんですって。具沢山の豆とトマトのスープについ涎を垂らしそうになる。餌を目の前にして待てをされてる犬の気分てこんな感じなんだろうか。



 祈りが終わると早速がっついた俺だったが、スープとパンだけではどうしても物足りない。


 おかわり欲しい。


 でも、来たばっかりの新参者で図々しくおかわりも頼みづらい。


 あっという間に皿を空にしてしょんぼりする。




「足りねぇだろ」




 声をかけてきたのはフェルムットだった。


 気にかけてくれたのかフェルムット神!




「あ.......はい」


「丸一日飲まず食わずだったんだから当然だな。だが、いきなり食い過ぎると身体に悪い。辛いかも知れんが我慢しろ」




 むぅ......。


 フェルムットが気付いてくれた時は神かと思ったのに......。


 肩透かしを食らった俺はまたしょんぼりと縮こまった。




「......アンジュの、少しあげようか?」




 余りにも哀れに見えたのか、アンジュが上目遣いで俺を見上げる。



 何ていい子なんやこの子!!!


 その優しさだけで泣いちゃいそう!!!




「いいんだよアンジュ。お兄ちゃんお腹一杯になってきたから」


「本当?良かった」




 にっこり微笑むアンジュに俺は思わず癒された。断じてロリコンでは無い。


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