番外編2 桜歌とガウカの冒険譚4(挿絵付き)
桜歌の歩く世界。
光が裸電球でほのかに暗い船内でのことだった。
「びええええ、ママー!」
洋犬のような耳のたれている少年が泣いている。
「安心して! 大丈夫、きっとお兄ちゃんが助けに来てくれるから」
桜歌は泣いている少年を抱きしめた。
「女王様、御兄様がいらっしゃったのですか?」
今度は狐耳の幼女が声をかけた。
「桜歌のお兄ちゃんは高校生だよ?」
「桜歌? 高校生?」
そう幼女が聞き返すといきなり船が揺れた。
バキボキと何かが折れる音がした。そしてはしごのかかってある上蓋が開いて、溢れんばかりの光が桜歌の身を包んだ。
「良くも桜歌を! 一体残らず皆殺しじゃ!」
太陽のガナリ声が聞こえた。
ガリイイ!
エーアイロボットが上から降ってきた。
桜歌を攫ったエーアイロボットだった。手足が千切られ動かなくなっている。
「桜歌!」
四角い出入り口からにゅっと顔を出す太陽。
「お兄ちゃん!」
桜歌はエーアイロボットを足蹴にして、はしごを登った。
「良かった! 無事で」
「あの、女王様。これは一体?」
幼女はそう言うと不思議そうに桜歌を見た。
「皆、デッキに行こう」
「「「はい」」」
捕虜になっていた4人は太陽が手を引き、甲板の上に全員集合した。太陽の手にはオイルと血が混じっていた。
他にいたロボットはボコボコに壊されていた。
「少し揺れますわー!」
「おもかじいっぱーい、ヨーソロー」
ローリが調子よく舵を取り、右向きに船が半回転した。
船が大きく動くのにつれて、皆は立ってはいられなくなった。
船は進んでいく。
「良かった、助かったんだ」
幼女が呟く。
「ありがたく思うんじゃな」
「女王様が……2人いる?」
「ごほん、わしが本物の女王、ガウカ・スターリングシルバーじゃよ」
「女王様! この度はありがとうございました」
「ローリ様、風が怪しいですわ。このまま船で帰るよりも願い石で帰ったほうがいいのでは?」
「ふん、ロー君はそんな事分かってるのじゃ」
「いかがなさいます?」
ネニュファールは操舵室のローリに聞きに行く。
「ネニュファールと僕は半月の力で空から帰るよ。他の皆は願い石で帰そうか」
「願い石は貴重なんだ! そんなホイホイ使っていいわけないだろ。船で帰ろう」
「まあ、確かにテイアは天空にあるので、相当の大きさが必要ですわね」
「ある程度の願い石は持ってきたから大丈夫だよ」
「話の途中でごめん! 信号が送られてきた! このまま船にいたら追撃される!」
太陽は操舵室にて叫んだ。
向かう水平線に黒い艦隊が影を伸ばした。
「さっきはケチケチしてたクセしてそう言うんじゃな」
「パース! 全員、僕のもとに集まってくれ。これから願い石を使う。致し方ない。ネニュファール。君も僕と一緒に唱えてくれたまえ」
「はい」
ネニュファールは大玉スイカのような金色の石を受け取る。
「リコヨーテの城の中庭に」
「リコヨーテの城の中庭に」
ネニュファールが復唱する。
「僕らの周り半径2メートルの人を」
「わたくしらの周り半径2メートルの人を」
そんな2人を6人が見守る。
「移動させてくれたまえ」
「移動させてくださいませ」
ネニュファールとローリはお互いを見合い、その石の反対方向にキスをした。
かっと願い石がきらめくと2つに割れてハートマークに見えた。そして世界が暗転する。
「お兄ちゃん」
桜歌は中庭で眠る太陽をゆすり起こした。
「ん? 桜歌? 戻ってこれたみたいだな」
太陽は辺りを見渡す。
中庭には奴隷船に乗っていた人々が眠っていた。
「ローリ、おい、起きろ!」
「うーん、あまり好ましくない目覚めだね」
ローリは耳をふさぐと、目を覚ます。
「ネニュファール、起きろ!」
「今起きてますわ、目を閉じているだけですわ」
「と言いつつ、寝るな!」
「うるさいですわね!」
ネニュファールは勢いよく飛び起きた。ゴン! と、太陽の頭にぶつかった。
「痛いて!」
「はい、皆さん、起きてください!」
ネニュファールは頭をおさえて、皆を抱え起こす。
「全員無事に戻ってこれてよかった」
「それはいいのですが、月影8体分の願い石を使ってしまいましたわ。お説教が待ってますわ」
「俺も説教食らうよ」
「どちらかというとハンティングの方を手伝ってもらいたいのだけれど」
「分かったよ」
「わしは後2日、日本に行くんじゃな?」
「だめ! お兄ちゃんと桜歌は一緒にいるの! もうバイオリンはちゃんと教室に入って練習するもん。だめ? お兄ちゃん」
「桜歌がそうしたいんならいいよ。そうだ、タイムカプセル掘り起こそう!」
「昨日埋めたばっかりだよ! 気が早いよ、お兄ちゃん」
「やっと書きたいことが見つかったんだ、頼むよ」
「しょうがないなぁ」
「僕もいいよ。ガーさん、僕は君と離れるとろくなことはないよ」
「まあ、給食とやらの再現をしてくれたらわしはいいぞい」
そうして落ち着いたのであった。
「おかえりなさいませ、女王様! お怪我はありませんか?」
ネムサヤを始めとする、使用人が集まってきた。
やはり、ガウカではなく、桜歌に話しかけている。
「着替えに便所行こうかの、桜歌?」
「そうだよね!」
ガウカは桜歌と仲良く手を繋いで城内に入った。
こうして、入れ替わりは解消された。
次の日。
「「「桜歌さん、おはようございます!」」」
遅刻ギリギリで教室に入ると皆が席を立って挨拶してきた。
桜歌は小学校では人気者になっていた。
「何かあったの?」
「桜歌ちゃん、元に戻ったんだね。良かったー!」
「イケイケだったのに。ちょっと残念」
「桜歌、何したの?」
桜歌は疑問を問いただす。
「運動神経、美的センス、抜群だったんだよ」
皆十人十色に会話した。
「桜歌が!?」
桜歌は驚き、呆気にとられた。
当たり前に学校生活を送って、家に帰ると手紙が置いてあった。
『帰ったら、俺の高校の、三本杉の、教室の窓際に埋めてある、タイムカプセルを掘り起こす』
太陽は高校の校門の前で待っていてくれた。小さなスコップを手に持っている。
掘り起こした、タイムカプセルのガラスの瓶には写真と手紙が入っていた。
タイムカプセルの太陽の手紙を見つける。次の事が書かれていた。
”桜歌へ お元気ですか? ちゃんと寝れて、ちゃんとご飯食べて、ちゃんと勉強して、幸せですか。俺は桜歌がしっかりとした大人になっていてくれたらそれだけで幸せです。もしも俺になにかあったら美優を頼ってくれ。桜歌に力添えしてくれるように頼んでおく! 大好きだよ。桜歌。
美優へ お元気ですか? もしも俺達に子供ができたら優陽と名付けるようにしたい。もし優陽がテイアに地に足をつけなかった場合で、俺がテイアで稼いでるときには、日本のマグロの漁師になったって伝えてくれ。いつもありがとう。美優のことを心から愛している。これからもよろしくな。”
「ローリへ」と次を読もうとすると太陽に手紙を取り上げられた。
「読むな、これはお兄ちゃんの内緒だから」
「桜歌にも読ませてよぉ、お兄ちゃん」
「写真でも見てろよ」
太陽の渡した写真には、テイア、リコヨーテ、日本の写真で、色々なメンツで並んでいた。桜歌は心がポカポカするのを感じた。
「それじゃあ、埋めるぞ」
「うん」
桜歌が答えている途中で、太陽が金色に光る石をガラスの瓶に入れた気がした。
新たに、同じ場所に埋められたタイムカプセルはこのときの情景をも相まって、桜歌と太陽を歓待してくれるだろう。掘り返されるその日まで。
挿絵はskimaでほっこ様です。




