番外編2 桜歌とガウカの冒険譚1
小学生の石井桜歌はうずくまっていた。
8月の熱波が飛んできた。
ここで、暑いがやることがあった。
♪
誰かがトランペットを吹いている。曲は”剣の舞”だ。澄んでいる音だ。
ここは高校。そして時間は放課後の時間だ。
「なにか面白いことないかな」
「そろそろ合奏の時間よ」
この2人の声はよく遊んでいる人の声だ。
前者の風神美優は練習をやめて、後者の竹中美亜に従う。
美優が窓を開け、トランペットを乗り出して、管をいじっている。
隣りにいる我が兄、太陽に何かが降り掛かってきた。
「おーい、何か垂れてきたんだけど!」
太陽は上を見上げた。
「太陽!?」
美優が上から覗き込んだ。
男子高校生の太陽は裏庭にタイムカプセルを埋めていた。
桜歌はガラスの小瓶を1つ手に持っていた。
「部長の彼氏?」
美亜の声が美優の真後ろに迫っていたらしい。
不意に声をかけられたのだ。
部長というのはもちろん、美優のことだ。
「あのさ、部長だなんて堅苦しいな、全くもう」
「……」
美亜は美優に続いて、窓から顔を出した。
「あら? 雨男じゃないのよ!」
「なんだ、おチビも一緒かよ! 俺は雨男じゃないやい! ところで何だこの液体?」
太陽は髪についた液体の匂いを嗅ぐ。
「太陽、ごめん、それあたしの唾! あ、ちょっと、匂い嗅ぐのやめて!」
「とんだ変態だわね……」
「ううー」
美優は恥ずかしくなったのか、窓を勢いよく閉めた。
桜歌は木に張り付いて様子をうかがっていたが、どうやら見つからずにすんだようだ。
「これを埋めたらテイアに行こう、ガーさんに怒られる前に」
太陽は1つのガラスの小瓶を埋めた後、桜歌の手を引いて裏庭に向かった。なるべく駆けていく。
2人は裏庭で大きな木の側まで来た。
桜歌は急き切る。
「桜歌大丈夫か? ウォレスト」
太陽の前に太陽のマークがあしらわれているグランドピアノがボンと出現した。
「ぜえぜえ、全然平気!」
「そうは見えないけど」
「いいの! ウォレット・ストリングス!」
桜歌は桜模様のバイオリンを出した。4分の3のサイズだ。
2人はすぐさま、あらかじめ練習しておいた”ジムノペディ”を弾き始めた。
♪
パチパチパチパチ
太陽は拍手した。
桜歌は弓の適切な圧力をコントロールできずに、何度か引っ掻いているような不快な音を出した。それでも弾ききった。
大人1人分くらいの青い濁流が木にできている。
「俺先行くよ」
太陽は濁流の中に入って消えた。
桜歌も思い切って飛び込んだ。
ぐるぐると世界が回っていくようだ。
「パース」
足元に四角い箱が現れた。
ドン!
桜歌は箱の上に着地していた。
テイアに無事に来れたので、太陽は安心した様子だった。
「虫除けスプレーつけとこう」
太陽は箱の中から小さめなスプレーを引っ張り出すと全身につけて、桜歌に渡した。
その時だった。
「太陽様」
「太陽君」
「太陽」
周辺の芝生が刈り取られた所から少し離れた所に、ネニュファール、ローリ、ガウカが佇んでいる。
ネニュファールはメイド服にアーガイルチェックのケープを羽織っている。
ローリはアーガイルチェックのインバネスコート姿。
ガウカは緑と白のワンピースにアーガイルチェックのリボンの付いた三角帽をかぶっている。
彼らの側に大きなカブトムシの外骨格がある。それと大きなクマの骨もきれいに残っている。この世界で言う”月影の屍”だ。
どうやら先に狩りをしていたようだ。
「2体だけだったのか!? 待たせてごめん」
「ええ、待ちましたわ、何してらっしゃったのです?」
「ネニュファール、静かに。そのようだね、君たちを待つ間に戦っていたよ」
「俺も金を稼ぎたいから、月影がいたら言ってくれよ?」
「構わないよ」
「お兄さん、桜歌にバイオリンを教えてください」
桜歌は上目遣いでローリを見る。
「うん、いいよ」
「ロー君、わしの目の届く範囲じゃぞ? 抜け駆けは許さん」
「がー様がいらっしゃったら、出来るものも出来なくなりますよ」
「ふむそれもそうじゃのう。じゃ、わしは久々に城下町ぶらつこうかの」
「今はクライスタルに向かいがてら、月影を倒そう、そんで、リコヨーテ組の演奏でリコヨーテに行った後、例のことをしよう」
「3日だけだからね」
「了解したよ」
「何の話じゃ?」
「あれ? 言ってなかったのか? ガウカ、お前は桜歌と入れ替わって、3日間、日本の小学校に通うんだよ?」
「にゃあんと!? 聞いてないぞ!?」
「ごねるから言わなかったんだ。ガーさん、僕の頼み聞いてもらえるかい? 小学校では美味しい給食とやらが食べられるんだ」
「ギューもチューもしてくれるんだったらしてやってもいいぞ」
「分かったよ、おいで」
ローリはガウカを抱きしめて、ガウカの頬にキスをした。
「ずるいのじゃ、口にせい」
「そんなこと言ってなかったからね」
「まあまあいいじゃありませんか?」
「ふん。3日、わしを恋しくなっても知らんからな」
5人は歩幅を合わせて、ジャングルの獣道を歩いた。
「援護奏は何を弾くんだい?」
「”凱旋の歌”、”ヘンデル”の!」
桜歌は瞳をキラキラ輝かせている。
「おお、おった」
ガウカは木の陰から見る。
2メートル程の大きなラクダの月影だ。真っ赤な赤い目をしている。
「「ウォレスト、遷移」」
ネニュファールとローリは楽器の変形した武器を作り出した。
ネニュファールはニッケルハルパの銃。ローリはバイオリンを上に引き抜いたかのような剣と盾。
「わしが驚かすから、そのうちに叩くのじゃよ」
ガウカは木に登っていき、見事な水龍に変身した。
ボロロロ!!!
大きな声の威嚇が来る。
皆は耳をふさぐ。
「チャンスだ」
太陽の言った途端、ネニュファールの銃が火を噴く。
ドン!
その銃弾はラクダの月影の肩に被弾した。
獰猛化したラクダの月影はガウカに一矢報いようと超越したジャンプ力を見せる。
ローリは先程までいたラクダの月影の着地地点を予測しているようだ。走り出し、しゃがむ。
「パース」
箱を足元に出すと、どんどん箱が伸び上がっていく。ルービックキューブの模様の箱だ。
ラクダの月影が降りていくのに合わせてローリは上がっていく。剣をまっすぐ突き出す。
ラクダの月影は左半身に大怪我をおった。
ブハァ!
赤紫色の血を撒き散らしながら、吠えている。
「今のうちに、曲を弾こう。ウォレスト」
「ウォレット・ストリングス」
桜歌のバイオリンが擦れて余計な音を出す。
ラクダの月影はこちらを気づいた様子だ。駆け出して近づいてくる。
「パース」
ネニュファールの眼前に大きな海のような箱が出てきた。
周りは細い木々が生えており、ラクダの月影は急な斜面を強行突破しないとこちらに来られない。もしも来たとしてもネニュファールの銃の餌食だ。
「パース」
「パース・ストリングス」
桜歌と太陽も箱を出した。桜歌は白色と緑色の箱。太陽はヒノキのような箱。2つとも手乗りハムスターのサイズだ。
「行くぞ、桜歌」
「うん!」
♪
緊張してるのか幾分か小さなバイオリンの音と、比例して大きなピアノの音が流れた。
グルルル!
ネニュファールの箱を飛び越えて、月影の血肉は金貨、銀貨、銅貨、装飾品、貴金属、宝石に変わり、二人の箱に入っていく。だが、太陽の箱に殆どが集約されていった。
しばらくしてローリが声を上げる。
「ネニュファール、箱を消したまえ」
「やっつけましたの?」
ネニュファールは箱を消した。
頚椎のある、赤褐色の骨が妙なバランスで直立していた。
ローリはその横で座り込んでいる。武楽器や箱はもう見えない。肩から血が出ている。
「ああ。半月の力で傷は回復するから。あの魔法曲の必要はないよ」
「もし、お疲れでしたら肩を貸しますわ」
「いいや、半月化するのなら、わしが持って歩くのじゃ」
「君たち、ありがとう。では、ガーさん、悪いけどしばらく持っていてくれるかい?」
ローリは風で髪をなびかせながら、一瞬光った。そしてフェレットの半月になった。
「お任せなのじゃ」
しばらく歩いていると獣道から舗装路に変わる。
クライスタルが見えてきた。青色のクリスタルが所々に刺さっている。
検問の男性が宿舎から出てくる。
「貴様ら、何奴だ?」
「パース」
ガウカは白色と青色の箱から何かを取り出した。
「受け取るがいいのじゃ」
「袖の下ってやつか」
「太陽、そういう事やすやすと言うんじゃないぞ」
ラピスラズリのようなものが検問の男性の手に渡った。
「通って良し! 門を開け」
「はいよ!」
見張り台の人々は門を開けた。
全員が入ると門は大きな摩擦音とともに閉まった。
女子トイレにて桜歌とガウカは服を交換した。そして、ガウカは桜歌に化粧を施した。
しまいにはガウカは自分の瞼にホクロを描いた。
「ガー様? 桜歌様?」
「リコヨーテに行こうよ」
「ガウカ、お前なあ」
そう言っている太陽の頭にジャンボセキセイインコが止まった。
ぱあっと光が発せられてネムサヤに変わった。
「女王様、陛下、やっと発見いたしました。二人とも帰りますよ!」
ネムサヤはケータイを使って兵士長に電話をかけているようだ。
ガウカに扮する桜歌に太陽以外は気が付かない。こぞって、桜歌の事をガウカと勘違いしている。
「桜歌、頑張るね」
「おう、頑張れ」
太陽が返事をすると、桜歌はネムサヤに手を引かれていった。ローリも大事に抱えられている。




