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呪い泣かせ  作者: 平田 一
3/11

闇の奥

今回は雪湖の家でのやり取りになりますが、もう一人の重要キャラがここから登場していきます。

「ただいま」


 学校から帰った私は、一応試しに言ってみる。

 時刻は既に夕方で、日もとっくに落ちていて、ドアを開けると真っ暗な玄関だけが出迎える。

 私の言った“ただいま”に、返事は帰ってこなかった。

 靴を脱いで、電気をつけて、そのままリビングへと向かい、テーブルに置かれたメモを、早速見つけて読んでみる。


「今日も帰りが遅いから、先に夕飯済ませてね」


 両親は共働きで、帰って来るのは夜7時。遅いときは夜8時か9時までかかることがある。メモが置いてあるってことは最悪9時も覚悟だろう。

 特に不備とも思わずに、私は鞄を近くに置いて、手洗い・うがいを済ませてくると、冷蔵庫を開けに行く。鶏肉、ニンジン、じゃがいも、玉ねぎ、カレーのルーを中から出して、ラジオをつけて、台所で、作り方を確かめる。


     ◆ ◇ ◆


 カレーとサラダ、麦茶を味わい、ひとつ残らず完食すると、流しへ運んで、使った食器を水に浸けて、離れてく。丁度ラジオが流していたのは、聞いたことのない洋楽。何となくわかる言葉は“アザーサイド”がどうとかだ。

 リビングの明かりを消して、勿論ラジオも切っておくと、階段を上っていって、2階の自室に辿り着く。部屋の明かりをつけてくと、現れたのは不法投棄の温床みたい部屋だった。俗にいう女子力なんかゼロパーセントの自分の汚部屋。


「……」


 ホントにちゃんと、片付けなきゃ、とは思う。

 床が確認できないほどに、色んな本が散らかっていて、勉強机は映画やアニメのDVDが山積みに。

 私はどうにか爪先立ちで、勉強机へ行き着くと、机の横に鞄をかけて、自分の椅子に腰かける。取り敢えず、後ろの惨事は後回しの方向で、いつも使ってる手書きのノートと、筆記用具入れを出す。

 カリカリ、カリカリと、ノートに直接記入を始め、私は今日まで感じたことを、ひとまずまとめることにする。

 送られてきた写真は三つ。

 「赤い印が書かれた扉」「欠片の赤も省いたお部屋」「黄色い雨具を羽織る被害者」……これらが示していることは……。

 きっとこれにはモチーフが、間違いなく存在してる。そしてそれは調べたように2004年の『村』だろう。

 でもあれは隔絶したコミュニティのお話だ。

 当然ここは隔絶どころか開放されてる“ソサイエティ”……つまり一般社会だ。シチュエーションは違ってる。

 なのにこれを引用してまで、何を言おうとしてるのか? そもそもこれらは本当に、一連との関わりが?

 偶然か、計画的か? それとも“自覚がない”ものか?

 考えに考え続けて、頭がクラクラし始めた。

 まるで靄がかかったように視界がぼやけ始めてて、流石に色々考えすぎて、もう限界かもしれない。


「……いい加減に休むか」


 いくら謎が気になるからって、執着しすぎちゃ身体に悪い。こうして身体が不調のサインを発しているなら尚更だ。

 ここで今日は終わりにして、完全にゆっくりしよう。決めた私はノートを閉じて、椅子から立って、着替えることに。


 部屋着に着替え、ベッドに放置の、ゲーム機を手に取った。老舗ゲームメーカーの携帯型ゲーム機だ。そこから私が持っている、数少ないソフトから、脳を鍛える大人のトレーニングゲームをプレイする。


     ◆ ◇ ◆


「きいろ。き・い・ろ!」


 色を答えるゲーム中で、私は“きいろ”を連呼する。

 正確には“黄色”であって、書くなら漢字表記だろう。しかし何度も何度もやっても、最初で必ず躓きが……特に黄色のパートになると、ゲームが認証してくれない。言っても言っても私の黄色は“きいろ”か“キイロ”になってしまう。


「何で認めないんだよ……」


 もう口に出しちゃうほどに、私はムカムカしっぱなし。

 乱暴かもしれないけれど、ゲーム機投げつけたいほどに。


「……き!いろ」


 “き”の部分を強調して、ハッキリ黄色と言ってやった。するとゲームは認めたのか、ゲームクリアーに。


「っしゃ!」


 熾烈な色当てゲーム戦は、私の勝利に終わった。これでようやく色当て以外にたっぷり時間を費やせる。

 そう思っていたのも束の間、着信が割り込んだ。


「ん?」


 好きな映画のサントラが流れてる。

 せっかく勝利に浸っていたのに、空気を読まない着信アリに、私は少しムッとしたけど、気持ちを切り替え応対に。


「……ハイ。名古木です」

『……』

「……あれ、もしもし? もしもし? 名古木です」


 応答は無かった。


(あれ、おっかしいな……最近変えたばっかりなのに……)


 携帯の不具合か?……と、考えてた時だった。


『……し』

「?」

『……し、もし』


 何か、聞き取りにくいけど、向こうの問題だったらしい。向こうの声が小さすぎて、電話が成立しなかった。


「もしもし、もしもし?」


 私は声をかけてみる。

 しかし相手は返事もせずに、『……』と黙秘をし続ける。


「……用があるんでしょ? 言うまで待ってるよ……糊塗(こと)


 確信をもって私は、親友をそう呼んだ。

 かつて一緒に遊んだ時に、二人で決めた“通り名”を―――。

“きいろ”の下りに関しては、私が体験したことで、何故か黄色を答える時だけ、認証に手こずりがw


それも何度も何度もです。

アレはホント何故なんだ?


サブタイトルは「闇の奥」。

こちらは『地獄の黙示録』の原作小説の題名です。

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