ジゴーテ
これと次のお話は某アニメがモチーフです。
読んだら分かるかもしれませんが、違いは出しています(当たり前)。
「う、う……」
無意識に発した声で私は意識を取り戻す。
最初は瞳を開くよりも、声が出るのか確かめたくて、瞳は開けず、声を出せるか、その事だけを考える。
声は出た。身体も無事で、生きているのは分かった。
絶対瞳を閉じたままにし続けるのを忘れずに、私は身体をゆっくり動かし、冷たい地面を這って行く。しばらくすると壁のようなものが私の手が触れた。それを頼りにゆっくりゆっくり自分の身体を立たせてく。
今、私が触っているのは、窓ガラスのようだった。
家の備え付けよりもっと、位置は上にあるやつで、しかもかなりの規模のサイズであるのが私に伝わった。
覚悟を決めて、状況を確かめようと、目を開ける。
少しずつ視界が開け、今の景色が流れ込む。
「ここは……学校の、廊下?」
現れたのは月明かりがスゴく綺麗な廊下だ。
窓の向こうには別の校舎と渡り廊下がよく見えて、しばらくたってここが私の通う学校だと知った。
辺りは夜で真っ暗だから、前も後ろも闇が聳え、ただ一点、月明かりが闇を裂いて照らしてた。
「な……んで?」
非常識なこんな事態に、頭は破裂寸前だ。
嵐のように色んな思考が私をどんどん苦しめて、まとまらないパズルの前に立たされてる気分だ。
さっきまで自分の部屋で糊塗と電話をしていたはずが、今じゃ夜の校舎に立って、制服姿……? あり得ない。
白のブラウス、ベージュ色のスクールベスト、無地ネイビーでロング丈のスクールスカート、36㎝丈、ネイビーカラーのハイソックス……普段私が学校で着ている基本フォーマット……。
あの部屋で過ごした時は自分の部屋着に着替えていた。なのに今はこの格好……早着替えにも程がある。
「……アイドルの舞台裏での、早着替えじゃあるまいし」
ツッコミを口に出して、気持ちを静めすことにする。
動揺する気持ちが徐々に、落ち着きを取り戻し、現状を何度確認……
「ここは校舎で、月が綺麗……って、夏目漱石かっつーの……)
また自分の心の中のツッコミを口に出す。
すると突然、コツコツと、足音がやって来る。
「!?」
腕を身構え、そのまま臨戦態勢に。
空手の構えのようなポーズで、音の方角へと向き合う。
(今思えば、目閉じてる方が良かったかもしれない……)
後悔先に立たずだろうが、「しくじった」と考えて、けれどこうして起こった以上、仕方がないと諦める。
そうして私は足音の主と対面することに。
「……久しぶり、糊塗」
「久しぶり、せっちゃん」
闇の奥から親友の……糊塗が姿を現した。
体よりも遥かに大きい茶色のローブを身にまとい、身長よりも遥かに長い、長い杖を持っていて、けれど格好は中二病の拗らせとしか思えない……というより、拗らせすぎたコスプレにしか見えなかった。
「その衣装、久しぶりに見たよ。懐かしいね……」
思ったことをそのまま私は、ひとまず口に出してみる。
いや、口に出しとかないと、危ない予感がしたからだ。
「そのローブ、元々ハロウィンの真似事をやってたときに、糊塗が愛用してたよね? ……違った?」
喋りながら必死に私は記憶を手繰り寄せている。
(確か丁度去年だ。あの茶色のローブは)
糊塗の顔が半分覗き、却って禍々しい雰囲気を醸す様に慄いた。咄嗟に私は記憶の中のローブのデータを掘り返す。あのローブは男性用で、しかもサイズは大人用。145センチほどの彼女に本来釣り合わない。なのに何故か彼女とローブの組み合わせは抜群で、昔見ていたSF映画を咄嗟に思い出すほどだ。
「……気になってるでしょ? 何でここにいるかって」
糊塗の問いには答えなかったが、それは肯定も同然。
実際私はその謎を、知りたい気持ちでいっぱいだ。
「せっちゃんさ“核心”突かれて、正直怖くなったでしょ? いや、怖くなったじゃない。身体が震えちゃったでしょ?」
その言葉に私の身体は一気に震えてしまった。
この震えは寒さじゃなくて“別の理由”故だった。
でも何で……? 電話越しの情報しか入ってこれない糊塗の耳に私のことがどうしてこうまで筒抜けに?
「その身体の震えにも色んな意味があったでしょ? 率直な恐怖心と、もう一つの……」
「七五三!!」
叫んでしまった。
“呼ばれたくない名前”で……
けど私は聞きたくなくって、会話を遮断してしまう。
その震えの“正体”を認めたくない一心で。
嫌な汗が首筋をツーとゆっくり伝ってる。
その小さな事柄さえも、気持ちをざわつかせてしまう。
「そう、それだよ。せっちゃんは認めなかった。それを認めていれさえいれば“あの人たち”は来なかった」
“あの人たち”と言った直後に天井を指した糊塗。けど私は指刺す先へ見上げようとはしなかった。
違う、言葉を言い直す。
「見上げちゃダメだ」と抑えてる。
抑えていないと私は絶対、天井を見るからだ。
天井から聞こえてくるのは、何かが動いている音だ。虫か何かの音じゃなくて、もっと気持ちを不快にさせる……。肉塊が汚い音でべちゃべちゃ動いているようだ。
極めつけは「生ごみの腐った臭い」のような臭い……昔読んだエクソシストのノンフィクション小説で、悪魔の兆候の一つに同じ臭いがあったから。理性頼みで見上げることがないよう私は我慢する。何事も“自覚”こそが大事と学んでいるからだ。しかし胸部にほんのり感じた冷たい手触りへの抵抗で、耐え忍んでた気持ちは弾け、私は上を向いてしまう。
「紹介するよ、ボクの友達。名前は「ジゴーテ」」
夥しい筋肉質の腕が天井から現れる。
天井から左右の壁、そして廊下の床からも―――。
ジゴーテって名前のネタは短編映画から取りました。
『第9地区』って映画を撮ったニール・ブロムガンプの『Zygote』。タイトルは接合子を意味する英語になります。
これは確かNetflixで見られるはずですが、YouTubeの「Oats Studios(公式チャンネル)」で見られると思います。
字幕は無いけど、見る分には、特に問題ないかと。




