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俺たちに神の声は届かない  作者: 群像劇フェチ
Chapter1 潰し愛
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第九話 創造

 本人にも確認をとらずに家まで連れてきてしまったのだが、よかったのだろうか。


 忌々しいほど明るい太陽が、埃まみれの部屋に長い列を成しているのを椅子に座って見ながら、そんなことを考えていた。


 幸の家の地下室にある沢山の死体は少しずつ処分をしている。見つかれば世界中を賑わす大事件となるだろう。もしかしたら、最近巷で話題になっている一家殺人事件と同一犯とされるかもしれない。そうなれば、見つかった死体の唯一の血縁者である幸が、世間の好奇の視線に晒されるのは避けられない。


 ここが一番、安全だと俺は思う。伊美も一応、納得はしてくれたのだが、


「……天国っていう素晴らしい場所があるって言われていてね」


 久しぶりに饒舌になったかと思えば、これだった。要するに、伊美は幸がこの家に住むことを快く思っていないらしい。


 だからなのか、


「……違う、雑巾じゃなくて手で拭くの」

「え? う、うんわかった」

「……なんで手で拭くの? 手垢とか、指紋がつくでしょ?」

「う、うん」

「だから、雑巾じゃなくて手で拭く――」

「どっちなの⁉️」


 鬼姑みたいになっていた。もっと、仲良くしろよ。


「悟さん! 伊美ちゃんに言ってあげてくださいよ」

「幸……年上には敬意を払わないといけないぞ」

「えっ⁉️ 伊美さん、わたしより年上なんですか⁉️ ……な、何歳なんですか?」

「十八だぞ」

「ええええええっ!」

「……失礼すぎ」


 幸は自分が十五歳だと言っていた。一応、中学校には通っているらしい。


 しかし、ここまで明るくなるとは……幸の変わりようは予想以上だった。いや、洗脳や環境によって抑圧されていただけで、これが本来の彼女なのかもしれない。


「……っ⁉」


 と、幸をいびっていた伊美が、水の入ったバケツに足を突っ込み、盛大に転んでしまう。


「ああっ! 大丈夫……ですか?」


 伊美に手を貸す幸。たったそれだけのことで、心を揺り動かされたのか、


「……ありがとう」


 伊美の態度が軟化した。難しそうに見えて、彼女は単純な人間なのである。


 二人が雑巾で、濡れた床を一緒に拭くという微笑ましい景色を眺めていると、あることを思い出した。


「……なあ、幸」

「はい? なんですか?」


 可愛らしい尻をこちらに向けたまま、顔だけをこちらに振り向かせる。


「あのさ、天航会のことを教えてくれないか」


 幸には俺の〝記憶解析〟のことは話してある。記憶を覗いたことを謝罪すると、彼女は恥ずかしそうに目を逸らしていた。自分の奥深くまで知られるのはあまりいい気持ちではないだろう。だから、あまり力を使うのは遠慮したいのだ。


「……はい、いいですよ」幸が体全体をこちらに向ける。「あまり、わたしはいい印象を持っていないですね……既に知っているかもしれませんが、わたしを神の子だって言ったのが、天航会の教祖なんですよ。何回か、わたしの家に来ました」

「なんで、家に来たんだ」


 そう聞くと、幸の表情に影がかかる。


「あの、怒られるかもしれませんが、その……器を創造してくれって、頼まれたので……何回か、適当に作り出してしまって」

「……そうか、わかった。ありがとう。他にはあるか」

「えーとですね……わたしも詳しくは知らないんですけど、天航会は結構歴史のある宗教で、全国各地に点在しています。最初の教祖は女性でしたが、十年くらい前に今の神の代行者様に交代して、さらに力を強めていったようです。彼のカリスマ性は高く、教祖になった当初は全国の教会を巡って、信頼を強めていきました」

「……そうか」

「今の天航会は彼の人柄があってのものだと思います。信者全員の名前を憶えていて、いつも信者の幸せを願っていて、とても献身的で人気でした。わたしへの神の子発言も親が半ば育児放棄していたのを見かねて行ったことなのでしょう。決して、わたしを不幸にするために言ったことではないと思います」

「それでそれで」

「天航会の本部は都心にあるんですが……どうしてか神の代行者様はわたしが住んでいた夢野市の屋敷にいます」

「なるほどね……」


 長い間、本部の辺りで様子を伺っていてもアイツの姿がなかったのはそのためか。もっと臨機応変に探すべきだった。


 だが、


「悟さん? どうして笑っているんですか?」

「……ふふっ、なんでもないよ。ありがとう、話を聞かせてくれて」


 こうしてやっと見つけることができた。


 待っていろ……俺が絶対にお前を殺してやる。

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