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俺たちに神の声は届かない  作者: 群像劇フェチ
chapter2 許し愛
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第十話 新たな依頼

「――これは警察に通報するべきなのか?」


 ドリームシアターに入った俺たちを出迎えた徳郎の第一声がそれだった。


 店内には、バー特有のムーディーな雰囲気のジャスではなく、ギターの早引きや、ボーカルの血管が切れそうなハイトーンシャウトの、メタル調の曲が流れている。


「未成年を連れてくるとは何事だ! 羨ましい! 警察に通報してやるぅ!」

「早まるな。幸はこれでもあと少しで高校生の年齢だ」

「これでもって……」

「そうか、ならよ――くねえよ! 未成年じゃねえか!」

「未成年だからこそ俺が保護したんだ。ほら、お前が夜逃げする前に依頼しただろう。あれで色々あったんだ」

「ああ……なるほど」


 それだけで事情を察してくれたのか、それ以上、なにかを追求してくることはなかった。


 俺がカウンターの席に座ると、真っ先に伊美が左隣に座り、俺の右隣に座ろうとする幸を、無理矢理自分の左隣に座らせた。


「それで、ご注文は?」

「俺はいらない。二人は」

「林檎」

「じゃあ、わたしも伊美さんと同じもので」

「了解!」徳郎は店の裏へと姿を消し、一分もしないうちに赤い液体の入ったグラスを二つ持ってきた。「最高級の奴だからな! 味わって飲め!」


 ちなみに、こいつは酒なんて大層なものは作れないので、全部、市販のものだったりする。店の外見を変えるべきか、店内に流す音楽を変えるべきかどうか悩んでいたが、他にも改善するべきところがあるだろう。


 市販だと知らず、本当に最高級だと信じている二人の少女は、林檎ジュースを美味しそうに飲んでいる。なにも知らないっていうのは、本当に幸せなことだと思う。


 徳郎とはなんだかんだで長い付き合いにはなるとは思うのだが、いきなり「オレはバーテンダーになる!」と宣言されたときは、ついに脳がショートしてしまったのかと心配になった。最初はただの冗談かと思ったのだが、何回もしつこく宣言するので、次第に本気なんだと思うようになった。


 だが、やる気だけではどうにもできない問題はある。


 徳郎には才能がなかったのだ。彼が作ったものは、人間の舌を破壊する。


 途中で、「俺、海外行って銀行員になる」とか、「遊園地のオーナーになる」とか、とちくるったことを言い出すこともあったが、バーテンダーのまま今に至る。友人ならば応援するべきなんだろうが、こいつの態度を見ていると、そんな気もなくなる。


「それでだな悟、新しい依頼についてなんだがな……」

「待てやコラ」唐突な依頼に、思わず声をあげてしまう。「お前、女から逃げ切ったんじゃないのか。それだったら自分でしろよ」

「おいおい、勝手に決めつけるなよ? お前らしくないな。オレは逃げ切ったなんて、一言も言ってないぜ?」

「……じゃあ、なんで生きてここにいるんだ。伊美、こいつに触れてみろ」

「うん……」

「待て待て、オレは死んでなんか――痛い痛いっ⁉ 伊美ちゃん⁉ 叩いちゃ駄目でしょ⁉️ おじさん泣いちゃうよ!」

「……泣け」

「辛辣ぅ⁉️」 


 えーんえーんと、明らかな嘘泣きを披露する徳郎。俺は大きくため息を吐き出す。


「……ま、お前は逃げ足だけは早いからな」

「そう褒めるなよ! 照れるだろう!」

「で、二人はどうなったんだ」

「……ははははっ!」徳郎は笑うが、その笑い声には覇気がなかった。「ははは……今、二人とも家にいる」


 言いながら、スマホの画面を見せてくる。LI〇Eのアイコンの所に、『999』という数字が表示されていた。


「…………」

「オレのなにが悪かったのですか? 神様――」

「全部お前が悪い」


 隣に座る二人も同感なのか、深く頷いていた。幸の徳郎への第一印象がかなり悪くなっているが、訂正はできない。これが素の彼なのだから。


「……まあ、依頼は受けるけどさ……」

「本当か! ありがとな~! お前ならそう言ってくれると思ってたぜ!」

「はあ……それで、どんな内容なんだ?」

「それがな……ほれ」


 胸ポケットから、前のように紙切れを出してくる。そこには依頼主の家の場所と苗字が書いてある。


「風見……昔、誰かがこの苗字の家のことを言っていたような……」

「依頼主の家はなんでも〝異能封じ〟の家系らしいぞ」

「〝異能封じ〟……聞いたことがあるな」


 雨無家で何度か話題になっていた。なんでも、相手の異能を打ち消すことができる力らしく、危険視していた。


「しかし、そんな異能の家系がどうしてお前に依頼しているんだ」

「さあな、オレたちの仕事に向こうの事情なんて関係ないさ。頼まれたことをこなすだけ。深くまで干渉しない」

「……そうだな」


 思いっきり俺は神谷家の事情に深く突っ込んでしまったが。今回は深入りしないようにしたい。


「で、依頼の内容はなんなんだ」

「遺品整理を手伝ってくれ、だってさ」

「整理……それって俺たちの領分なのか。業者にでも頼んだ方がいいだろう」

「オレに言われても知らねえよ。なにか事情があるんじゃないか? 業者に頼めないようなことがさ」

「……まあ、行ってくるよ」

「頼んだ」


 この世界にはまだわからないことが溢れている。だが、全てを知らなければならないということはない。今回の俺は深くまで沈み込まないことを決意した。

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