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俺たちに神の声は届かない  作者: 群像劇フェチ
chapter2 許し愛
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第十話 逢魔時

 女から徳郎のスマホにLI〇Eだけではなく、電話までかかってくるようになり、閉店時刻よりも一時間近く前に店が閉まってしまったので、予定よりも早く家路につくことになった。


「……ふあああ……」

「眠たいのか」

「はい……朝からずっと起きっぱなしですからね……」

「そうか。じゃあ、朝になるまで起きていろよ」

「はい……って、寝かせてくれないんですか⁉️」

「俺たちが依頼を解決するのは夜だけだからな」

「ええ……」


 最初は不満を漏らしていた幸だったが、「わかりました。健康な生活は諦めます」と、わかってくれた。居候の身だからと遠慮してくれているらしい。


 近所迷惑にならないように、無言のままで歩いていると、寂れた公園が目に入った。俺の意識は吸い込まれるようにそこへと向いてしまう。


「……伊美、幸」

「はい、なんですか?」

「先に帰ってくれないか。ちょっと、用事を思い出してな」

「用事ってなん――わっ⁉」

「…………」


 俺の意図を汲み取ってくれたのか、伊美が無言で幸を引っ張って離れてくれた。二人の姿が見えなくなったのを確認してから、街に埋もれた誰も遊んでいない、つい最近も訪れた公園へと向かう。中に入ると、ブランコを漕いでいた一人の女性の名前を呼ぶ。


「――アンマリア」


 俺が名前を呼ぶと、アンマリアは顔をあげて、大きな瞳がさらに大きくなった。月光にも負けない輝きを持つ金色の長い髪が揺れる。いつもは髪を結んでいないのに、今日はサイドテールだった。


 元気なのが取り柄のアンマリアだが、今日は暗い顔をしている。


「悟か……どうしたんだ」

「アンマリアの姿が見えたから寄ってみようと思ったんだ」

「そうか……ありがとうな」

「それで、こんなところでなにをしているんだ」

「なんとなく来ただけ……ってわけでもないのか」アンマリアは夜空を見上げる。「多分、悟が来てくれるんじゃないかなって思ったから、ついここに来ちゃったんだ」


 そんな恥ずかしいセリフを変わらぬ表情で言うアンマリアだった。


「……どうしてそんなに落胆しているんだ」

「だって……こうなったのはあたしのせいだから……」

「……違うだろう、それは」

「違わない。キミのせいじゃない。キミは自分が産まれてきたことを誇っていいんだよ。全部……あたしのせいだ。あたしが余計なことをしたからだ」


 この世の終わりみたいな顔をするアンマリア。彼女は俺のことを見上げると、細いその腕を腰にまわしてくる。その手は僅かに震えていた。


「……それなのに、こうしてキミに会いたいと願ってしまうあたしは……本当に駄目だな」

「駄目じゃないさ」


 ああ……どうしてこんなことになっているのだろうか。どれだけ遡っても、諸悪の根源が見つかりそうにない。俺が悪かったのか、本当にアンマリアが悪かったのか、それとも……


 アンマリアの顔が俺の腹部に押さえつけられているため表情は見えないが、笑顔ではないことだけは明白だった。


 俺は彼女を笑わせたい。幸せにしたい。そのために俺はこの世界にいると言っても過言ではない。俺はアンマリアを取り戻したかった。


 そのためには……天航会の教祖とやらを殺す必要がある。


 その後、色々な会話をして俺は公園を出た。やはり、アンマリアの姿はすぐに消えて見えなくなった。


 *・*・*


 次の日、逢魔時おうまがときを少し過ぎた頃、俺たちは依頼主の家へ向かった。


「……また田舎か」


 来る途中の景色でわかっていたが、外灯が殆どなく、緑に囲まれた、のどかな場所だった。そんな自然に囲まれた依頼主の家は大きな屋敷で、趣があった。


「遠方から遥々来てくださり、ありがとうございます」


 出てきた和服姿の少女は悲しみとは無縁そうな笑顔で、俺たちを迎えてくれた。


 家の中も見たところ整っており、荒れているような感じはしない。今回は穏便に終わりそうだと、胸を撫で下ろす。客間に招き入れられ、用意されていた座布団に座っていると、少女は温かいお茶を出してくれた。


 少女は床に頭をつけそうなくらいに頭を下げる。


「ボクの名前は風見湊かざみみなとです。年齢は十一です。今日はよろしくお願いします」

「……まさか、男の子だったか」

「いえ、女の子ですよ」


 向日葵のような笑顔を浮かべる、一人称がボクな少女――湊。声は明らかに幼い少女のものなのだが、そこに湊の一人称との剥離というか、違和感を覚えた。


 その正体を確かめる前に、自己紹介をする。


「俺の名前は雨無悟だ。よろしく」

「……雨無伊美」

「わたしは神谷幸! よろしく!」

「はい、よろしくお願いします」


 自己紹介を終えると、早速、依頼内容を確認する。


 徳郎が言うように、遺品整理をお願いしたいと。その後、湊はその理由を説明するためにはと、自分の家族構成について教えてくれた。


「最近までは父と母と兄の三人と暮らしていました。昔は祖父母や叔母がいましたが、祖父母はボクが産まれてからすぐに他界してしまい、叔母はかなり昔に失踪してしまって今も行方がわからず、ボクは見たこともありません。四人で普通に暮らしていたのですが、つい最近、ボクを除いた三人が交通事故で亡くなってしまったのです。この家に残されたのはボク一人で、三人分の遺品を整理するのがとてもじゃないですが大変だと思ったので、依頼しました」


 話す内容はかなり重たいものだったが、湊は淡々と話していく。人が死ぬことに慣れているみたいに。


「一応の確認なんだが、風見家って〝異能封じ〟の家系で間違いないか」

「その通りです。もう、風見の血は途絶えてしまいましたが」

「湊がいるじゃないか」

「はは……ボクは〝異能封じ〟の力が物凄く弱いんですよ。駄目な子なんです」

「……そうか……すまない」

「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください」


 辛い話をしても笑顔を崩さない湊だった。今の話が他人事だったとしても、感情は乱れてしまうものなのに、それが彼女には見えない。


「もう一つ確認したいことがあるんだが、どうして湊は俺たちに依頼したんだ。業者に頼んだ方がいいだろう」

「……はい、その通りですね。理由をあげるなら……恐かったからですよ。父や母が悪霊に化けてボクを呪い殺そうとしてくるのが。だから、霊能の専門家に頼った方がいいのかなと思ったんです」

「なるほど」


 父や母に呪い殺されそうか。この家も神谷家同様、複雑な家みたいだった。


「……なあ、伊美」俺は隣にいる伊美に耳打ちをする。「霊はここにいるか」


 俺たち異能力者には霊が普通の人間と同じように見ることができるが、天井裏や押し入れなどに隠れていたら、見つけることができない。だから、伊美の力に頼るしかない。


「…………」

「おい、伊美」


 伊美は頷きも返事も寄越さなかった。なにか考えているらしい。数秒して答えが纏まったのか、俺に耳打ちをしてくる。


「いないよ。一体も」

「……そうか」


 ならば、この依頼は俺たちの領分ではないということだ。しかし、受けた以上、やはり最後までやり遂げるのが道理というものだろう。


「あ、あの……代金の方なんですが」

「いや、それは後払いで――」

「ちょっと待ってくださいね」


 湊は部屋を出ていく。約五分後に戻ってきた……重そうなジュラルミンケースを持って。


「よいしょっと……少ないかもしれませんが、これでっ」


 炬燵の上に置かれたジュラルミンケースが開かれる。中にはギチギチと箱一杯に敷き詰められた札束があった。俺は開けた口を閉じられなかった。伊美は口に運んでいたお茶を口から膝に垂れ流し、幸は大金に見慣れているのか反応は薄かった。

「えーとですね、多分、総額で――」

「言わなくていい……依頼はちゃんと引き受けるから……」


 そんな感じで、俺たちは風見家の遺品整理を手伝うことになった。


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