61 幼馴染にいいました
林に自宅まで送ってもらった敦子は、ちょっと休んですぐ大木美代子に連絡した。
『ありがとう、林君に会えたよ。いろいろ聞けてよかった』
美代子から返信は早かった。
『今うち?迎えに行くからうちにおいでよ』
『了解!ありがとう、待ってるね』
『今から出る!』
美代子は仕事が早かった。
敦子は、急いで買ってきておいたお土産を持って玄関に向かった。
5分ほどで美代子の車が来た。
「お待たせ~」
「全然待ってないよ~」
そう笑いあって敦子は美代子の車に乗って、美代子の家に向かった。
美代子の母屋の家の前には、ご主人と美代子の子供の翔也が立っていた。
敦子は、車を降りるとすぐご主人に挨拶した。
「こんにちは、お邪魔します。翔也君もこんにちは」
翔也君はお父さんにくっついて恥ずかしそうにしていた。
ついこの前見たばかりなのにずいぶん大きくなったように感じる。
「こんにちは、ゆっくりしていって」
敦子にそう言い、ご主人は翔也君を連れて自分の実家にちょっと顔を見せてくるらしい。
「じゃあ、行ってくる」
ご主人が美代子にそう言い、翔也君が手を振ってくれた。
「気を付けてね」
今すぐ行くというので、敦子と美代子は二人の車を見送った。
ふたりは車が見えなくなると、美代子の家に入った。
美代子がお茶を入れてくれる。
敦子は、お土産のお菓子を渡した。
「ありがとう。これ、テレビでやってた!」
美代子がはしゃいだ声を出したので、敦子もこれを買ってきてよかったと思った。
敦子はさっそく林の事を話した。おまけに彼女の事も。
「やっぱりそうなんだ。でもすごいね、林君の彼女あっちゃんの知り合いだったんだ~。月曜日職場で言おうかな~」
美代子は、ひどく興奮していた。
なんでも美代子の職場でも林は人気だったらしい。
「聡も言ってたけど、林君モテてたんだね」
「そうなの。林君失恋してるっていったら、みんな目の色変えちゃって。結構残念がる人多そう~」
美代子はそういいながらも、なんだかうれしそうだ。
「なんだか美代ちゃんうれしそう」
「やっぱり話題があるといいでしょ。お昼休みも盛り上がるし」
美代子はそう言って笑った。
「それでどうだったの?何か神社の事わかった?」
「うん、あんまり新しい情報はなかったかな」
敦子はそう言っっておいた。
というのも林と、ノートからわかったことはしばらくみんなには伏せておこうということになったのだ。
あまりいろいろ騒いで、郷土史家瀬川さんや協力してくれた方々に迷惑をかけたくないと思ったのも大きかった。
敦子は、話を変えて美代子に、玉山の事を言うことにした。
もちろん空を飛んだところを見られたことは除いてだが。
「美代ちゃん、実はね...」
敦子から玉山の事を聞いた美代子は、先ほどの林以上に興奮していて、顔写真があれば見たい見たい!と騒ぎ出した。
仕方なく敦子は、家族にも見せた玉山のネクタイ姿を見せることにした。
「これなんだけど」
そういって美代子にスマホを見せると、美代子はスマホを奪い取るようにして画像を見た。
「でもね、美代ちゃん。付き合ってるわけじゃあないんだよ。だってなかなかかっこいい人でしょ。私じゃあ釣り合わないっていうかねえ~」
そういって美代子を見ると、美代子がなぜか涙を流していた。
「どうしたの?美代ちゃん。どっか痛いの?」
美代子は何も言わず涙を出していたが、だんだんヒックヒックしてきた。
そして涙だけでは止まらずに、鼻からも涙ならぬ鼻水がだらだら出てきていた。
敦子は、びっくりしてそばに置いてあったティッシュを渡した。
チィ__ン チィ__ン
美代子は、しばらく涙と鼻水を垂れ流していたが、やっと鼻をかみ涙を拭いて敦子のほうを見た。
「あ”っ”じゃん”、よ”がっだね”~。よ”がっだね”~」
なんだか泣きすぎて声が枯れてしまい、だみ声になっている。
敦子はなんだかよくわからなかったが、美代子の気持ちが落ち着くまでそっとしておいた。
少し経つと美代子は、やっと落ち着いてきて、飲み物を飲んでのども潤ったようだった。
「あっちゃん、良かったね~。それにしてもかっこいいねえ~」
美代子はなぜか敦子のスマホを放さずに、まだ時折玉山の画像を見ている。
敦子は美代子の鼻水がスマホに付いていないか心配になった。
敦子がいくらまだお付き合いまでいっていないといっても、美代子にその声は届かず、玉山の画像を食い入るように眺めていた。
しまいには、あまりにこの画像をほしがるので、コピーして転送してあげたのだった。
「これ家宝にする」
美代子が頓珍漢なことを言うので、敦子がやめてといって、しばらく2人の攻防が続いた。
そうして話をしているうちに、外がすっかり暗くなってきたので、敦子が帰るというと美代子が、敦子の家まで送ってくれた。
別れるときに美代子は言った。
「あっちゃん、玉山さんはいい人だよ。きっとあっちゃんの運命の人だと思う。また連れてきてね。待ってる」
美代子がそういってくれたので、敦子は敦子で運命の人だったらいいなあと思ったのだった。
家に帰り家族で夕食を取っているときに、敦子は今日林といった郷土史家瀬川さんの事を皆に話した。
瀬川さんといった敦子に、すぐ反応してきたのは父親だった。
「瀬川さんて聞いたことあるなあ。確か校長先生だったよな。そうかあの人がねえ...」
「瀬川さん知ってるの?」
「あ~あ、何度か神社の方にも訪ねてこられて、しゃべったことあるんだよ。その時には、巻物の事とか思い出すこともなくて悪いことしたなあ」
聞けば父親にもいろいろ聞きに来たようだった。
しかし何にも知らない父親では仕方ないと思ったのだろう。
他の人のところに行ったようだ。
確かにその選択は正しいと思った敦子だった。
何せあの水柱を見るまで、お蔵の中にあるものの事も思い出しもしなかったのだから。
敦子が、そう失礼なことを考えていると、聡が急に聞いてきた。
「ねえちゃん、そのノート見せてよ」
聡の一言で、食後みんなでそのノートを見ることとなった。
敦子がテーブルの上に、おもむろにノートを置いた。
父親がノートをとる前に、聡がひょいとノートを取った。
他の三人がみているまえで、ひとりノートを読んでいる。
敦子は、一応食事の時に林が発見したことをみんなに言っておいた。
そのせいかノートを見ながら聡は、これか、うん、なるほどね、と言いながらページを読み進めていた。
敦子たち他の三人はあまりに手持ちぶたさで、しまいには三人ともテレビを見始めた。
面白いテレビに夢中になって、三人が三人ともノートを見ている聡を忘れていたころだ。
「ひぃえぇ~~~~」
聡が急に大声を上げた。
ちょうどお茶を飲んでいた父親はお茶を吹き出した。
母親は、敦子が買ってきたお土産を食べていたが、聡の声に驚いてむせた。
敦子は、聡の声に驚きすぎて椅子から転げ落ちそうになったのだった。