62 家族でノートを見ました
敦子は、お茶でむせている父親とお菓子でむせている母親を無視して、叫び声をあげた聡に声をかけた。
「どうしたのよ。叫び声なんてあげて」
敦子を見る聡の唇が青ざめていて少し震えていた。
「ちょっ、ちょっとこれ見てみてよ」
聡はノートのあるページを指さした。
敦子は、ノートを手に取って読み始めた。
「ひぃえぇ~~~」
今度は、敦子が叫び声をあげた。
むせていた両親は、のどを潤そうと、お茶を飲んでいたが、二人が二人またお茶を吹いた。
テーブルは、お茶まみれになっていた。
敦子が叫び声をあげたおかげか、冷静になった聡が、ぶつぶつ言いながらテーブルを拭いた。
「びっくりしただろう?」
聡の言葉でようやく敦子も落ち着いてきて聡にいった。
「これで巻物を入れた箱が、なんでマトリョーシカだったのがわかったね」
「それにさ、箱がばらばらだったよな。しかも内側の箱ほど古かったもんな」
その頃には両親のむせもおさまり、ふたりのやりとりを聞いていた。
「どういうことだ?いったい何が書いてあるんだ?」
父親が聞いてきた。
聡がかいつまんで先に話した。
あの巻物を作ってすぐ、奉納してあった神社から夜になると声が聞こえたこと。
その声は、誰かを呼ぶような切ない声だったこと。
なぜかその声は遠く離れた家々にまで聞こえていたこと。
毎日毎日聞こえるので、箱を作ってその中に巻物を入れたこと。
しかし箱に入れても、声がするので、どんどん箱が増えていったこと。
最後には、仕方なく神社の関係者がどこかに持っていったことなどが書かれていたそうだ。
敦子が父親にノートを渡そうと、父親の顔を見ると真っ青な顔をしていた。
父親も先日の水柱を見たことで、あながち迷信とは思いきれないのかもしれない。
「しかも昨日の夜ねえちゃんが、あの巻物に書かれている男の人の目が光ったのを見たっていたんだよ」
聡がいったのを聞いた父親の顔が、今度は血の気がなくなって白くなってきた。
家族の中で一番肝が据わっている母親が言った。
「でもうちじゃあ、まだそんな声聞いたこといわよねえ」
そういって笑おうとしたが、後の三人は全く笑えなかった。
「まだホームセンターやってるかなぁ」
父親が不意に言った。
敦子は、なんとなく父親の言いたいことがわかって聡のほうを見た。
聡も敦子のほうを見た。
お互いに確認してから二人とも急いでスマホで調べ始めた。
「ホームセンターって何のこと?敦子たち何やってるの?」
唯一わかっていない母親が、のんきに三人に聞いてきた。
「そりゃあ決まってるだろ。あの巻物を入れる箱を作るんだよ」
父親が訳が分かっていない母親に行った。
敦子と聡はスマホから顔を上げて母親にうんうんうなづいた。
聡と敦子は、またスマホの画面に目を戻しいろいろ検索していたが、やがて二人ともがっくりと肩を落とした。
「どうだった?まだやってる?」
父親が聞くが、敦子と聡の反応は良くなかった。
「もう終わってる。どこも夜8時までだった」
代表して聡が答えた。
父親が時計を見ると時計は夜の8時を過ぎていた。
「そうかぁ」
父親もがっくりと肩を落とした。
「ねえ、じゃあまたお蔵に戻しておく?」
母親は、いい案を思い付いたとばかり、敦子たちに言ってきた。
しかしなぜか三人が三人とも首を振っている。
「もしお蔵に戻したとしても、巻物一度開けちゃったしさ。今更じゃない?それにどんなに遠くでも聞こえたっていうし。箱に収めるのが一番だと思たんだけどな」
聡が母親にいった。しかし後ろの言葉はなぜか自分に言い聞かせるようだった。
「今まで声が聞こえなかったんだから、きっと大丈夫だよ」
敦子が、みんなを励ますように言った。
「さっきは、ねえちゃんも箱作るの賛成してスマホで調べてたんじゃないの?いいよな、ねえちゃんは遠くに帰るんだし。そうか!じゃあねえちゃんが、アパートに持ってったら」
聡は敦子の言葉を信用していないようだった。
姉の敦子に問題を丸投げしようとしている。
「いやだよ。巻物から声出たら怖いじゃん」
敦子が、ぶるぶると震えながら言ったせいで、母親まで少し怖くなってきたようだった。
仕方なく四人は、もう一度座ってノートを見直すことにした。
残念ながらノートには、ほかには何も書かれていなかった。
「あっ、これ見て」
聡がみんなに見せたノートは最後の何ページまでが空白になっていたが、最後のページの前のページの下に大きく書かれていた言葉があった。
___ふたりに幸多からん事を___
聡や父親は、その前後のページをめくったりしていたが、それ以外に書かれているところはなかった。
「ふたりって誰なんだろう?」
そう聡がつぶやいたが、敦子はなんとなくそのふたりに心当たりがあった。
「もしかしたらそのふたりって、巻物に出てきた男の人と女の人じゃない?あの水不足を助けたっていう」
「あ~あ、そうだな。それだ」
父親が敦子の意見に深くうなずいた。
聡も何かを思い出そうとしていた。
「あっ、それになんか気になったことが書いてあった。気になってたんだよな。神社の由来が、聞いていたのと少し違うとこがあってさ。
由来では、確か竜は、少女が吸い込まれた玉をもって天にのぼっていっただけだったけど、このノートには竜が力を出し切って消える前に球が割れたって書いてあった」
敦子は聡の話に不意に心臓がトクっと鳴った。
「そうなの?どこに書いてあったの?」
敦子が、急に目の色を変えて聡に聞いてきたので、聡は少し困惑しながらもその書かれている部分を敦子に見せた。
確かに聞き取りをしたひとりの話の中に、神社の由来を話をしているところが書かれている。
よく見ると、玉は割れて破片が一つ流れて消えていったと書かれていた。
「もしかしてその割れた破片を探してるのかしらねぇ」
ふとこぼした母親の言葉に、敦子は夢の中の事を思い出した。
そうだ、確か声の主が叫んでいた。切ない声で名前を呼んでいたんだ。
敦子は、不意にネイルの中で光ったもののことを思い出した。
結局敦子たち四人は相談して、今夜は巻物をきちんと箱に入れ、バスタオルを巻いて風呂敷で包んでおくことにしたのだった。




